第15話 お気の毒ですが、胸糞が悪いようです

ジャック・オ・グレイマンが村にやってきて数日が過ぎた。

既に村の中では、彼と言う存在は大きいものとなっていた。


「まさか、この村に昔居たとはなぁ」


一つの家に村人が集い、酒を飲みながら語り合いをする。

ジャックは、ははは、と笑いながら酒に口を付けていた。


「俺が此処からいなくなる時、もう村人は居なくて、廃村状態でしたから」


「あぁ、知ってるよ、残ったのはルィン村長と元村長だけで、二人で立て直したんだって?」


髭を生やした村人が、話の内容についていく様に言う。


「えぇ、伝染病でほとんど死んで、俺の母さんも此処で死にましたよ。暫くは三人で生活して、聖術教会からの聖霊術で、土地の浄化は出来ましたけど…七年足らずでよく立て直したもんですよ」


「俺が来た時には元村長は疲労で倒れ込んでいて、ルィン村長が一人で切り盛りしてたんだ。この村が豊かになったのは、実質彼女のおかげだろうね」


身を越えた女性が酒を一気にあおると、持ち込んだ煙草に火を点して盛大に紫煙を吐き散らす。


「そうなんですよ、ルィンは凄い、俺が尊敬する一人です」


ジャックがそう言った時だった。

いきなり、ドアがドン、と音を立てて勢いよく開かれた。

その音に反応して、村人が扉の方に顔を向けた。


「あー疲れたぁ、酒頂戴よ酒ぇ」


憲兵としての仕事を終えた、タトドゥと呼ばれる皇国の流行り被れの憲兵だ。

その憲兵の姿を見て、村人たちは顔を顰めた。


「ちょ、無視すか皆さーん、俺、仕事頑張ったんですけど。ほら、酒とたばこ、あと食い物も下さいよ、ほらっ」


椅子を蹴る。

村人は嫌悪感に包まれながら席を立つ。

ジャックの隣に座るタトドゥと呼ばれた憲兵は深く溜息を漏らすとジャックは眉を顰めた。

仕事終わりだと聞いているのに、この男の口からは酒の臭いがした。

仕事中に飲む人間は、彼が一月前に解雇した兵士長以外、見た事が無かった。


「お、あんたがジャック?俺はタトドゥ。なんか皇国から来て調子に乗ってるみたいじゃんか…へぇ、この死に掛けた姿で皇国の騎士団に所属してたの?へぇ、案外皇国の騎士団もチョロいねぇ」


テーブルの上に置かれた酒を、勝手に掴んで飲み下す。

ジャックは愛想笑いをした。


「で、ルィンちゃんとはヤッたの?」


そして唐突にタトドゥは常識知らずな事を口にする。


「何を言ってるんですか貴方は」


「あ?なんだよムキになって、あぁ、ヤッてないのか。へへ、あの服の下にエロい体してるからさ。色んな男とヤッてんだろうな、って確信してんのよ。顔も良いから、男を抱く仕事をすれば絶対儲かるし、俺が客第一号になってやるって言ってんのにな?」


ベラベラと低俗な言葉を発していくタトドゥ。


「なのに、お前が来て特別扱い、こりゃデキてるに違い無いだろ?だからさ、お前に頼めば、ルィンちゃんのケツでも叩きながら一発ヤれるかなって思ったワケ」


「酒の席でも言ってはならない事くらいあるでしょ?それ以上、彼女に対する暴言を吐くなら…」


「はー?良いの?そんな態度取ってさ。俺が皇国の騎士団に告げ口したら、お前、捕まるんだろ?お尋ね者って聞いてるぜ?」


主導権は、タトドゥが握っている様に見えた。

ジャックは口を閉ざす。ルィンとは幼馴染の関係で、それ以上もそれ以下も無いが、彼女の迷惑になるくらいならば、皇国の騎士団の元へ向かった方がマシだった。


「モノを考えて言えよな?お前はもう俺のパシリなの?分かるかなー?さっさとルィンを連れて来て場を整えてくれるだけで良いんだからさぁ…ほら、はいって言えよ、ホラ」


「言いませんよ。それに、選択肢が無い様に思ってますか?…第三の選択ぐらいあるんですよ」


ジャックはタトドゥに目を向ける。


「お?やんのか?武器も持ってないのに?馬鹿だね、俺の瞬剣見る?ぷしゅって首飛んじゃうよ?ほら、ほらほらッ」


調子に乗り出すタトドゥ。剣を即座に引き抜いてジャックの首に当てようとした時。

タトドゥの手から剣が消えていた。


「酷いな、全然手入れしてないじゃないですか。磨けば綺麗なのに…こんなに濁らせて」


ジャックの手には、タトドゥの剣が握られていて、剣の刃を鑑定していた。

タトドゥは自分の手を見て、彼が魔法でも使ったのかと思った。

ジャックが一瞬で、彼の剣を奪い取ったのだが。


「確かに、剣を抜いて、相手を切る、そのスピードは大事ですが…早く抜くあまり、剣を握る力を弱くしたら意味無いですよ。肌が硬かったり、毛が生える魔獣には刃が通らないし…騎士同士の戦いだと、鎧があるから効かない。相手が武器を持っていれば、武器で弾かれてしまう…と言うか、貴方本当に憲兵ですか?さっきの卑猥な言動を含めて、そうは見えないんですけど」


「は…はぁ!?なに講釈垂れちゃってんのぉ?!ムカつくわお前ッ!今の本気じゃねぇし、本気出したらお前なんて一瞬で殺せたし」


「…は?あんた、本気で抜いたんじゃないんですか?剣は遊びじゃないんですよ?本気じゃないなら、剣を振るうなよ」


カチンとして、ジャックがそう凄んだ。

タトドゥはその凄みに、気圧された。

丁度その時だった。


「大変だッ!!」


村の人間が、家に入ってきて叫んだ。


「盗賊が襲ってきたッ!!」


その様に、告げて来た。


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