戦場帰りの最強騎士はお気の毒ですが精神を病んでしまいました。仕方が無いので故郷に帰るらしいですが、ヒロインが出迎えてくれたり追い掛けてきたりしてるみたいです。
第2話 お気の毒ですが、斬首だそうです。
第2話 お気の毒ですが、斬首だそうです。
一か月後。
再び雨の日。
「ぎゃッ、ぁああああぁぁああああッ!!」
叫び声が響く。
宙吊りにされた兵士長に焼いた鉄棒が押し当てられる。
ジュウと身を焦がし、皮膚が灼ける臭いが部屋の中に充満していた。
簀巻きにされた兵士長の前に、金色の長髪を靡かせる、白銀の甲冑に身を包んだ女性が睨んでいた。
「…で?要約すると、『ジャック・オ・グレイマンを解雇した』と言う事か?」
涙を流しながら、宙に吊らされる兵士長。
声を堪えながら、必死になって頭を上下に振る。
「何の権利があってだ?お前たちがグレイを解雇出来る程の実力者なのか?しかも、そこのデブに話を聞けば、雑用係として働かせたいたそうじゃないか?」
苛立ちを隠せない様子で、金色の戦姫は背凭れに体を預けるとお付きの騎士を睨む。
その表情から察して、騎士は懐から箱を取り出した。
宝石の様に輝くキャンディーにはスティックが挟まっていた。
棒を掴んで、それを口に咥える。砂糖の甘味、果実の芳醇さが鼻から突き抜けていく。
「あぁぁぁ…痛ぇ、痛ぇよぉ。なんで、なんでこんな真似を…」
逆さ吊りにされた兵士長が部屋の中を見る。
新品同様の白鋼の甲冑に魔術耐性を持つコートを羽織る騎士たち。
彼女らは『皇国の騎士団』であり、中でも、皇国を守護する騎士に該当する『称号騎士』が部屋の中に二人も居た。
その内の一人が、男にも負けぬ長身で豊満な肉体を持つ女傑。
序列四位・『金騎士』のレグルス・レオンハートである。
『黄金境鎧』と呼ばれる都市文明と同レベルの耐久性を持つ鎧を着込み、彼女自身に傷を付ける事が出来る人間は指で数える程しか居ないと言われる程の実力を持つ。
皇国の為に動く彼女は、正道も邪道も等しく通り、必要ならば残虐非道な行いすらも許容し、彼ら兵士たちを痛めつけて、『ジャック・オ・グレイマン』の情報を引き出していた。
その光景を目の当たりにして、戦意も闘志も消え失せた兵士は息を殺していた。
「(ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな…なんでこんな事に、どうして、クソ、クソがッ!!)」
壁の隅でロープで拘束された兵士が顔をくしゃくしゃにしながら頭の中で理由を乞う。
「あらあら…ふふ、なーにも分かっていない、お馬鹿さんがいるんですねぇ?」
紫色の外套を着た白銀の髪と碧の瞳を持つ一見して魔術師、占い師の様な姿をした少女が兵士を見詰めながら言う。
「何故こうなってしまったか、貴方たちが、特に意味もなく、グレイ様を解雇した事にあります。いえ…解雇する前に、虐待をしていたんですよね?でしたらそれも原因になりますねぇ…大切な人を傷つけた痛みを、きっちり受けて貰わなければ」
にこやかに笑う碧目の手には針が握られていた。
針の先端を兵士の目に突き立てると、原型を留めぬ様に搔き乱す。
「いでぁあああッ!ぎ、ひぎゃああッ」
「痛いですか?そうでしょう、そうでしょう。しかし、貴方たちがグレイ様に行った半年分の仕打ちに比べれば、こんな痛みは一瞬だけです。」
血が混じる透明な液体が眼窩から零れる。
口元は笑みを浮かべているが、彼女の目は決して笑っていなかった。
彼女もまた『皇国の騎士団』の『称号騎士』であり、序列十五位の『錬騎士』アルス・マーキュリーだ。
剣術よりかは医学や薬学、錬金術に技術を割いており、人体構図を理解し、『人間が死なない』様に痛めつけるのが得意な少女だった。
仲間の惨状を見て、逆さ吊りとなった兵士長は泣き叫び怒る様に問うた。
いや、それは最早、理不尽な拷問に掛けられた故のヤケクソの様でもある。
「なん、なんだよぉ!アイツがなんだってんだよぉ!!あんたら騎士団には関係ない事だろぉが!!剣もろくに握れない雑魚なんか目に掛けやがって、アイツよりも、俺の方が何倍も、何十倍も役に立つだろうがぁ!!」
憤慨して叫んだ言葉は、レグルスにとって聞き捨てならない言葉だった。
飴を噛み締めて破片を周囲に撒き散らす。
立ち上がると同時、逆さ吊りにされた兵士長の顔面を黄金の籠手で掴む。
「貴様ら如きが例え束になろうが、グレイに適う筈がないだろ、能無しめ。奴は正体を隠していたがな、奴は『皇国の騎士団』序列六位の騎士なのだ。本来ならば、貴様らと対等に、いやそれ以下の人間などあり得ないのだ」
ぎりぎりとレグルスの五指が兵士長の顔面に食い込んでいく。
「奴は先の代理戦争で功績を残した。貴様らの様な無能を助ける為に命を懸けて戦った。その代償が…戦争に忌避感を覚えてしまう事だった。ヤツは戦う事を恐れたのだ、心の傷は騎士団の環境では治らない、だから休養させたのだ、この長閑な田舎の町で、心の傷を癒す為に、…騎士団と称すれば気も休まらぬと兵士としての偽りの身分を与えてな…、なのに、なのに貴様らはァ!!」
皮膚が破ける。
骨が砕けて、兵士長の顔面が血飛沫を撒き散らせて、脳漿を垂れ流しながら死んだ。
「はぁ…はぁ…おい」
血が付着した籠手を上げる。
他の騎士が布を持ってきて、レグルスの手を拭った。
「あぁ、だから私は貴族として休めた方が良いと言ったのです…この様な陰湿な方たちと共に過ごすなど、心の病は深まる一方だと」
「言うな。グレイが働いていた方が気が休まると言ったのだ。それを尊重したが…無理にでも、私の屋敷で休ませるべきだった」
グレイマンの事を思い浮かべて、レグルスの瞳には慈愛の色が帯びていた。
「あらあら…しかし、レグルス様の御屋敷ではしきたりが厳しく、気が休まらぬと思いますが、長閑と言えば、私のお屋敷の方が自然に囲まれて健康的だと思いますよ?」
「…なんだメルク。私と張り合う気か?」
ジロリと、レグルスがアルスの方を睨んだ。
くすくすと目を細めて笑うアルスは首を左右に振る。
「滅相もありません、ただ事実を言ったまでですよぅ」
二人が喧嘩腰になりかかった時。
部屋の隅で、眼球を潰された兵士が声を上げる。
「あ、あの、ッ申し訳ありませんでしたぁ、!ま、まさか、グレイが、あ、いえ、グレイマン様が、騎士だと知らず、無礼な真似を、こ、今後、その様な真似は致しませんッ!です、ですのでッ!お命、お命だけは、どうかぁ!!」
頭を下げて命だけは助けて欲しいと願う兵士。
いや、それは兵士だろうか?力に屈し、身も心もボロボロになったそれは、奴隷の様な身分と言われても仕方が無い程にみすぼらしく感じる。
「心配するな」
レグルスは溜息を吐く。
そして振り向き、興が削げたらしく、部屋から出て行こうとする。
「この田舎町でも、民を守る兵士が必要だからな」
その言葉に、兵士は歓喜した。
自分だけはこの村の為に生かされると思った。
この瞬間だけ、兵士はこの田舎に初めての感謝を浮かべた。
だが。
「既に新しい兵士を用意した。お前らよりも腕が立つ兵士だ。だから心配するな、この田舎村はお前が居なくても平和は守られる」
感激の笑みを浮かべていた兵士の表情は硬直する。
その言葉の意味を探して、自分が『不要』な存在だと理解した。
「先に戻る、貴様らはこの周囲を散策しろ」
騎士に命令を下し、最後に、近くに居た騎士に告げる。
「あの能無しを処分しておけ」
「了解しました」
レグルスが外に出て、後に続いてアルスもその場から去る。
その後ろ姿を見る兵士は声を荒げる。
「ま、待ってッ!いや、いやだぁッ!死にたくない、たすけて、お願いします、たすけぇっ!」
口に布を突っ込まれ、騎士が背中を蹴って頭を垂れさせる。
首筋には冷たい鋼の感触、死にたくないと願う兵士の首を、騎士がその願い諸共斬首した。
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