17話ラーメンが食べたい…
「ラーメンが食いてえ…」
俺は教室についてすぐそう言い放った。
『いや別に勝手に行けよ』
と、透が至極当然のことを言った。
「それがちょっと無理で…」
『なんで?だってお前ひとり暮らしじゃなかったっけ?』
「いやぁ…」
『女?いやまさか、神仁に限ってそんなことは…やっぱ女か?女なのか?』
「いや…ちょっと親戚が家に来てて、健康にうるさくて…」
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「ねえ、ラーメン食べ行こうよ」
『ダメ!しーくん昨日もカップ麺食べてたでしょ。匂いで分かったから』
「はい、すいません」
『別に怒ってるわけじゃないし、一生食べるなって言ってるわけじゃないじゃん』
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翌日透から耳寄りな情報が飛んできた。
『来週近くでラーメンフェスやるらしいから行ってみれば?』
「なんだと…」
『流石に来週もその親戚がいるわけじゃないだろ?』
「あぁ…うん」
「教えてくれてありがとな」
『気にすんな』
(玲一緒に行ってくれるかなぁ)
授業が終わり、家に帰る。
玲は今日授業が俺よりも多いため、帰りが遅い。広い部屋で一人いると少し寂しい。それに、孤独を思い知らされるように腹も空く。
高校の時はよくカップ麺にお世話になったものだが、今日透に教えてもらったラーメンフェスに行くために今は我慢する。
『ただいま』
「お帰り。あのさ…」
『なに?今日のご飯は朝の残りでいいよね?』
「いいよ。お風呂は洗っといたから…じゃなくて、お願いがあるんだけど…」
『え?なに?』
「あの…来週ラーメンフェスが近くでやるんだけど一緒に行かない?」
『んー…行ってもいいけどその日までカップ麺とか、禁止!それが守れるならいいよ』
「ぜひ守らせていただきます」
『じゃあ約束ね!』
それからの一週間、俺はいろいろな誘惑から逃れ続けた。
コンビニに立ち寄った時に新発売の激辛ラーメンがあったとしても、キャンパス近くのラーメン屋の匂いに誘われたとしても俺はフェスに行くために誘惑に打ち勝った。
そして今日、念願のラーメンフェスに行く。昼前には開くのだが、朝から何も食べずに行くと胃もたれする予感しかしなかったので、玲とともに軽く朝食を取った。
会場は出汁やニンニクの匂いが凄そうなのでオシャレなど一切せずにTシャツ一枚で行く。
「あっちー」
『ほんとにそれ』
エアコンの効いた部屋にいた二人はエントランスを出ると外気に当てられた。
一歩外へ出ると太陽とアスファルトからの反射熱が二人を襲う。玲は日焼け対策で完全防備だが、見ているこっちが暑く感じる。
玲は日焼けをすると、焼けない代わりに皮膚が剥がれてしまうらしくこのような重装備なのだそう。大学に行くときは必ず日傘をしていくのだが、人が集まるところに行くからと、薄い長袖でカバーしている。日焼け止めクリームも出発の三十分前と、丁度日焼け止め効果が出る様に塗っている徹底ぶりだ。
日焼け止めクリームを塗る際に背中の方を手伝ったのだが、思っているようなことは起きなかった。というか、ラーメンのこと以外考えておらず、「休日だし、許されたんじゃね?」と、今になって後悔した。
会場は、俺の通う大学のすぐ近くなので大学の最寄り駅まで電車で行き、その後は臨時で出ている会場行きのバスに乗って行く予定だ。
電車に乗り込み最寄駅で降りると、駅前のバス停に、臨時のバス停が出来ていた。
「ここで乗るみたいだぞ」
『あとどのくらいでバスくるのー』
「分かんねぇけどもうすぐ来るんじゃね?」
『そういえば、どんなお店があるの?』
「一律500円で色んなところのラーメン屋が出てるみたい。いつもより小さめに作ってあるからいろんなラーメンを楽しめるっぽい。ラーメン屋同士のコラボラーメンもあるみたい。有名どころで言うと、コンビニでよくある激辛タンメンの店とか、佐野ラーメンとかもあるみたい」
『辛いのかー…』
「一緒に食べようぜ!一回本場の激辛タンメン食ってみたかったんだよ」
『辛いの苦手だし…気が向いたら一口貰う』
「分かった」
五分ほど待っているとバスが到着し、会場へと向かう。
人気ラーメン店が数多く出店していることもあり、会場は人で溢れかえっていた。
『人凄いね…密度が高すぎて、体感温度プラス三度だよー』
「何言ってんだよ玲!この熱気の中で、熱い麺を啜るのがいいんだろ!冬に雪○大福を食いたくなるのと同じだ」
『むむむ…それは分かる気がする』
「だろ!最初は何を食べようかなー」
『私味噌ラーメン食べたい!』
「じゃあ有名どころで言うと北海道のカスミって店だな」
『北海道の味噌ラーメンってバター乗っかってるんだよね?食べたことないから食べてみたい!』
「じゃあ並びに行くか!」
マップを開き目的の店に向かう。
「「「いらっしゃいませー!」」」
活気のある声が至る所から聞こえる。
梅雨明けの暑さに負けないくらいの熱気のそれは、さながら祭りのようだった。
『うわぁ結構並んでるね…』
「二十分待ちだって。腹も減って来たし、並んでみるか」
(気まずい…)
家ではプライベートを尊重しているので自分の時間が欲しいときは互いに好きなことをして、あまり喋らないが、デートとなると話は違う。よくテーマパークにカップルで行くと別れるなんてジンクスを耳にしていたが、あながち間違いじゃないかもしれない。
(どうやって時間潰そうか…)
おもむろに携帯で時間の潰し方を検索する。
(クイズか…少しは時間潰せるかな)
「なあ玲、クイズやろうぜ」
『どういうの?頭使うのはやだよー』
「そんなんじゃない。嘘は無しな」
『嘘?どういうこと?』
「じゃあ一問め…俺の好きな飲み物は?」
『なるほどーそういう感じねー…んん…コーヒー!』
「正解!じゃあ次は…俺の第一印象は?」
『えーそれってクイズなの?反則じゃない?』
「じゃあ交代で問題だしていいよ」
『わかった…第一印象かー気づいたら居たじゃダメ?』
「まぁ…俺もそんな感じだし」
『じゃあ次私!夏休み一緒に行きたいところは?』
「海!!」
『即答かい!』
「つぎ俺!じゃあ彼氏の好きなところと直してほしいところ」
『直してほしい所は、私のいないところでカップ麺とか、ジャンクフードばっかり食べてるところで、好きなところは細いのに意外と包容力あったり、筋肉があるところ…かな?』
「ぐふっ」
照れ気味に褒められるとこう…グッっと来るものがある。
この後も、惚れたきっかけなどを質問し合っているうちに時間は過ぎ、実食
することになった。
『しーくん!バター凄い大きいよ!』
「ほんとだ!すげえ」
『いただきまーす!』
「どうだ?」
『んんー!すっごくおいしい!バターとたっぷりのコーンが凄く合ってる』
「ひと口ちょうだい」
『いいよ!はい!』
「ほんとだメチャクチャバターの風味がする。スープも濃くて、バターがスープを消してない」
『でしょ!』
『ご馳走様!』
色々な店の味を楽しめる様にと、一杯が小さくできているのですぐに食べ終わった。
「次は…激辛タンメンにしよ」
『あんまり気が乗らないけど…』
激辛タンメンの屋台にも、同じように数十分ほどの列が出来ていた。
クイズでまた時間を潰して注文するところまで来た。
「タンメン二つください」
「辛さが選べますがどれにしますか?」
「じゃあ…玲何にする?」
『一番辛くないやつ!』
「そうしますと味噌タンメンですが」
『それでお願いします!』
「お兄さんは?」
「じゃあおすすめって書いてあった三辛で」
「分かりました!出来上がるまで少々お待ちください!」
「味噌、三辛でお待ちのお客様!」
「はーい!」
取りに行くと、どっちが味噌タンメンだかわからない赤いスープのラーメンが二杯お盆に乗せてあった」
「これってどっちが味噌ですか?」
「右が味噌で左が三辛です」
「ありがとうございます」
「あきらー持って来たぞ」
『…どっちが味噌なの?店員さん間違ってない?』
「そう思って店員に聞いてみたけどあってるって。確か右が味噌で左が三辛」
『じゃあこっちか』
「『いただきまーす!』」
(三辛ってこんなものか…思ったより辛くないな…)
玲に感想を聞こうと顔を向けると玲は橋が泊まっていた。
「あ…あきら?」
『かりゃひ…』
「ちょっと食わせて」
(こっちの方が辛い…ってことはこっちが三辛か!)
店員はカウンターを挟んで向かいにいたため左右反対に伝わっていたらしい。
『みじゅ!』
「ほら」
持っていたペットボトルを玲に渡すと、一気にそれを飲み干した。飲み干したはいいもののまだ下舌に刺激が残っているのか、舌を出して手で仰いでいる。どこもエロいところはないはずなのに、可愛い子がそんなことをしていればいやにでもそういった視線は集まる。
俺はその視線に気づきながらも平然を装い玲に接するが、
『まもってくれるんでしょ?王子・さ・ま!』
やはり玲には勝てそうになかった。
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