閑話 透2
電線に留まっている雀の鳴き声のする道を自分家に向かって進む。
自分の家に女の子を呼んでもいいのだが、勝手に家の前で待たれて違う女の子と鉢合わせされると、修羅場必須なので、絶対に呼ばない。
「のど乾いたー、神仁はなんか飲むか?」
「奢ってくれんの?」
「今日は気分がいいからな…」
「まじか!じゃあ…コンポタよろ!」
「お前なあ…もう六月も半分過ぎたんだぞ?馬鹿か?」
「寒い季節にアイスが食べたくなるのと同じだろ…分かれよ」
「分からねえから聞いてんだろ。しかも売ってるし…季節感ねぇ自販機だな」
(あれ…小銭残ってる…前の子のか?)
「お!ナンパか?」
「ちげえよ」
「ねえ」
『…?』
「小銭、自販機に忘れてたよ」
『あっあ…ありがと…ございます』
「一年だよね?名前なんて言うの?」
『染井…です』
「染井!?」
「似てるね!俺染谷だから」
(あんま顔色よくねえし、地味な女だな…。使わないと思うけど連絡先くらい聞いとくか)
「染井さん連絡先教えてよ」
『え…!?』
(結局ナンパになったな…)
その日から俺は、何度かお茶することになった。
『このネックレスどう?』
「めっちゃ似合ってるよ」
『はい!嘘…』
「なんでそう思った?」
『透くん嘘つくとき絶対ある仕草をするから…しかもすごいテキトーな感想だったし』
「仕草ってどんな感じ?」
『言わないに決まってるじゃん。言ったら直しちゃうじゃん』
「俺の家近いけど寄ってくか?」
『…うん』
「そんな身構えなくても何もしねえって」
(ほら…嘘ばっかり…)
「いい名前だな…」
『え?』
「未来は貴いーで未貴か…お袋と親父どっちが付けたんだ?」
缶コーヒー片手にベットに寝転がる彼女に尋ねる。
『………』
「………?」
「何…?なんで泣いてんの?」
『ううん』
その夜、彼女は俺と出会ったころ家族を交通事故で亡くしたことを話してくれた。
大型トラックとの衝突で両親と弟を失ったのだと言っていた。
俺が初めて女を家に呼んだのは、形は違えど家族を失った身同士引かれあったのだろうか、それとも俺の気まぐれだったのか、自分の心に問いただしてみても答えは出ない。
ただ一つ、その心の中には燃え始めた小さい火種が出来ただけだった。
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