第29話 開発者と発想力


アルトメイト社や各社、各商会と新会社を設立して1年、本社ビルと開発・研究所の一部完成に伴い、各社から新会社の役員・社員として出向してきた者に新たに採用した研究者や開発の技術者が第四星系に移住してくる。

私は本星などの移住者と同じように家族だけで移住してくるのだろうと考えていた、だがこの銀河の常識はスケールが違っていた。

一族で移住してくる者がほとんどだった、簡単に言うと家系図に記されている生存している者全員が一緒に銀河を大移動してくるのである。


「さすがにこれにはびっくりだな」


一族によっては大型の移民船が数十隻になる、その光景を見つめる私は苦笑しながら言葉を漏らす。

今日は私とエキュが式典等に参加するため第四星系に来ていた。

テイルはビショップでルキュはケーノでお留守番、レイカは本星系の警護という名目で本音はかたっくるしいのはめんどくさいと言い残し残ることになった。

そんなわけで宇宙港の入港待ちである。

移民船はそのまま惑星に降下、しばらくは移住者の住居や拠点として使う予定であるため、宇宙港から少し離れた場所に着陸していく。

宇宙港に入る船は今回の式典に呼ばれた招待客がほとんどである。

そんな入港待ちしている時、大型移民船が降下待ちをしている中でふと気になる船が現れる、


「あれってアルトメイト社のPT2000プラント艦だよな?」

「アルトメイト社から出向してきた人たちでしょうか?」


「シンセイ様失礼いたします、ネメシスより報告でリンク接続をしてくる船が有るとのことです」

「ん?」


私とエキュが話していると、アリスが後ろから私にだけ聞こえる声で報告してきた。

その報告を聞くと同時にブリッジのオペレーターより


「本艦に通信です、相手はPT2000プラント艦『ミュール』所有者の『ミル』と名乗っています。

 盗聴防止の特殊回線で代表を指名で繋いできています」

「なんだと?」


私はオペレーターの通信相手の名前を聞いて唖然とした、そして『自室で繋ぐ、そちらに回してくれ。』と伝えると、一人で自室に入り通信を開く。


「やっほーほっしーおひさ、ってかやっぱ若くなってるね~」


通信を開いた瞬間馴れ馴れしい喋り方をする少女がモニターに現れる。


「お前本当にミルなのか?」

「そだよ~」


私の問いにあっけらかんと手を振りながら答える少女を見ると、私が知ってるミルの面影が確かにある。


「やっぱお前もこっちに来てたのか、それに見た目が…」

「この世界の技術ってすっごいよね~、それを言ったらほっしーだって若くなってるじゃん」


私の言葉を遮るようにミルが喋る。

黒髪が肩より長いくらいのストレートで前髪をそろえている、それに身長が130㎝無くてナノマシンの影響で若返っているため、黄色い帽子とランドセルでも背負わせたらどこの小学校の新入生ですか?って聞きたくなる容姿である。


このミルという少女は、GGOの連合で最年少のメンバーである。

確か17歳の高校生だったはず、家族の影響でロボットや宇宙といった物に興味を持ってGGOを始めて、私とは趣味が似ているのでよく話が合い議論したもんである。

名前の由来を教えたところ、私の事を「ほっしー」と呼ぶようになった

そして仲良くなって連合に入った子だ。

そういえば、ミルにはゲーム内でレアアイテムや艦船をあれこれあげた気がする。

決して貢いだわけじゃないぞ。みんなしてた事だし、レイカと同じで連合全員の妹みたいな存在だったんだからな。

レイカは手のかかる妹的な存在で、ミルは癒し系マスコット的な妹だった。

中には下心から貢いでたやつもいただろうけど、私はそういう気持ちはなかった、趣味の合う年の離れた妹といった感覚だった。


「それはそうと、ミルはなんでここにいるんだ?」

「なんでってつれないな~兵器の研究開発する新会社の募集に応募して採用されたからここにいるんだよ~」

「は?、お前の星系はどうしたんだ?こっちに来たという事はお前も星系持ってるはずじゃ?」

「あ~丸ごと売っちゃった。テヘペロ」

「売っちゃったって……あほかお前は?」

「だって~色々調べたらさ、この新会社ほっしーが絡んでるっていうじゃん。

 って事はだよ、大昔の某アニメに出てくるような人型の決戦みたいな兵器とか変形してミサイルぶっぱする艦載機とか絶対作るでしょ?」

「あ~、作れるなら作りたいな。ってそうじゃなくてだな…」


こうなったらこいつには何言っても駄目だと額に手を当てて溜息をつく。

あとはミルはテイルとレイカもこっちにいることも知っていた。

話を聞くとミルがこの世界に来たのはテイルと同じかちょっと後くらい、それから色々調べてヤマト連合や私たちの事を知ったらしい。

他にも元メンバーじゃないかと思われる怪しい人も調べているとか。

その話はあとで聞くとして、今後どうするか聞くと、


「そんなの決まってんじゃん、変形ロボとか合体ロボとか1機で敵艦隊殲滅しちゃう人型兵器とか、ロマンを求めるに」


その言葉を聞いて『あ~こいつはそういう奴だった』とあきらめに近い溜息をもらす。

そんな時ネメシスから「入港許可出ました入港します」と通信が来る。

ミルに後でとあいさつをして通信を切り、私はブリッジに戻る。


「シンセイさん、大丈夫ですか?お疲れのようですが」


戻るなりエキュに心配されてしまったので、大丈夫だ昔の仲間だったとだけ告げて、艦は入港シークエンスを実行していく。



セレモニーで色々な発表をしていく。

会社名は『ベガルタ』そして星系もベガルタ星系とし、独立企業星系としてヤマト連合に加盟すると発表する。

そして問題なくセレモニーとパーティーが終わる。

一夜明けて翌日、本社ビルの応接室で私とエキュがソファに座っている、向かいにはミルが座る。

前もってミルにはエキュの事を話していたが実際に見ると、私とエキュを交互に眺めニヤニヤと何か言いたげな顔をしてくる。


「ほっしー好みなケモ耳だね~、エキュさんだっけ?私はミルだよ、これからよろしく~」

「はい、シンセイさんの妻で連合の一員のケーノ女王のエキュと申します。

 シンセイさんのかつてのお仲間だという事は聞いております、私の方こそよろしくお願いします」

「挨拶はそれくらいにして、今後の事話そうか」


ミルとエキュの挨拶を終えて本題に入る。


ミルは惑星統治や外交といった事には興味がない、ロマンを求めた兵器が作れればそれでいいと、単刀直入に話してくる。

それを聞いて私は、実際作れるかどうかは分からないと言うが、

ミルが独自に調べた結果、技術的には出来なくない、ただそういった発想がこの世界にはないだけらしい。

実際にこの世界に来てすぐ、元の世界に有ったパワードアーマーの知識を売ったところ数か月で形にしたという。

それを聞いてアルトメイト社の発表を思い出した。


「あのアルトメイト社のパワード骨格(仮称)ってお前の差し金か?」

「あ~それね情報売ったよ~、それで開発部の部長兼新会社の代表取締役として採用されちゃった」

「されちゃったって…軽いな」

「だってさ~お金もなくて売れるもんもないじゃん、売れるか分からないけど知識くらいしかないからね~、ダメもとでいろいろな所に交渉してみたら、アルトメイト社が一番高く提示してくれたからね~」


この世界に来て私のように貴重な食材やレア鉱石が埋蔵している訳でもなく、なおかつ惑星開発にはお金がかかる、そこで考えた結果が知識の切り売りという訳だ。

知ってる知識の一つを売ったら、この世界の開発者は即座に実現可能なレベルにしてしまったというらしい。

元々科学技術としてはすごい物を持ってはいる世界である、知識や発想さえあれば元の世界の物など簡単にできそうである。

だがミルがこれから作ろうとしているのは、元の世界でも小説やマンガの中だけの空想の物だ、

暫く開発にかかわった結果、例のパワード骨格(仮称)もすでに実用段階でアルトメイトの軍で極秘にテストや調整しているのだそうだ。


「そう言えばお前の家族は宇宙開発関連の装備やアイテムの開発製造してる会社の関係者だったな」

「うん、そだよ~」

「だからといってこれから作ろうとしてるのが作れるかはわからなくないか?」


私の質問にミルは答える。

すでにパワードスーツの理論をもとに大型艦載機くらいの大きさのロボットの開発もテスト段階だとか…。

そこまで行ってんの?と驚く私にドッキリ成功させた子供みたいな笑顔を見せる。


「という事はだ、アイデア次第では無限の可能性があるという事か?」

「私はそれだけの技術力がこの世界にはあると思うんだよね~、ないのは想像と発想力だけっぽいよ」


私の言葉にミルは頷き答える。

実際この世界はメーカーが作り売っている物をそのまま買う。

売ってるものをそのまま買って使い、能力や機能の強化は新しいものが出たらそっくり買い替えるのがこの世界の常識になる。

買うときにオプション追加や改造という発想が無いのだという。

私が艦船を注文するとき、装備や設備をあれこれ弄ることにリリーや製造部の担当者も最初は不思議そうな顔をしていたのを思い出す。

しばらくするとバージョンアップなどの参考になると喜んでいたのだ。

もしそうなると私たちはこの世界に革命を起こそうとしているのかもしれない、私はそう思いちょっとワクワクしてきた。


その後しばらく懐かしい話などもしてミルは帰っていった。

私は話した内容を思い出しニヤニヤしながらエキュとネメシスに帰っていった。







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