第22話 すぺーすふぁんたじー
宙賊残党との戦いから数日、最後の星系に着いて代表との通信を繋いだ瞬間、私たちは固まった。
「けも耳だ。」
「けも耳ね。」
「けも耳だな。」
私とレイカとテイルが口々に言いながら固まっている。
それもそのはず最後の国の代表の頭には動物の耳と尻尾がついていたのである。
よく見るとそれはリスの耳と尻尾である、そして顔の横にあるであろう耳はない。
それを見てシンセイとテイルは下を見ながらプルプルと震えている。
「あー、二人とも始まったか、おいしばらく暴走するかもしんねえからその二人抑えとけよ。」
レイカがそう言うと、数人の隊員がシンセイとテイルのそばに寄ってくる、その瞬間
「「ケモミミきた~」」
「SFなのにファンタジーキタコレ!」
「モフモフキタコレ」
シンセイとテイルが両手を握りしめ上にかかげながら突然叫びだす。
それを見たレイカが
「お前らうるせえよ、このオタクどもが」
と怒鳴る。
「ああ?かわいいは正義だろ、よしこの国の国民はすべて本星に移送しよう、そうしよう。」
シンセイが勝手に言い出す。
そのやり取りを見てリス耳の少女はモニターの先でおろおろするだけであった。
そんなシンセイを隊員が力づくで下がらせたのち、アリスが出てきて少女と会話を始める。
「お見苦しいものをお見せしてすいませんでした、私はヤマト代表シンセイ様の秘書でアリスと言います。」
「あっ、こちらこそこんな姿ですいません、私はケーノ代表のエキュです。
この度はわざわざお越しいただきありがとうございます、たいしたおもてなしは出きませんがご用意しております。」
エキュと名乗る少女からはとても友好的に感じる答えが返ってきた。
他の星系と違い、開口一番星系を譲るとか艦隊を差し向ける等せずに、訪問を歓迎するどころかヤマト艦隊の惑星への降下許可まで出してきた。
普通なら何か裏でもあるのかな?などと勘ぐってしまいそうだが、アリスはそのままの意味で受け止めていた。
この世界では動物と人間の遺伝子を組み合わせた獣人という種族が居る事、
この種族は昔からペットのような扱いで飼われるなど虐げられていたせいか、基本的に争いを好まないとされている事、
どこかの星系で集まって細々と暮らしている、という情報をネメシスのデータベースから受け取り知っていたからだ。
多分この種族も同盟に丸め込まれいいように使われていただけだろうとアリスは思っていた。
そしてネメシスにレイカとテイルが移ってきた後でネメシス1隻で降下する、他の艦隊は刺激してはいけないと、アリスが少し離れた宙域で待機の指示を出していた。
この星は地上に宇宙港を建設していた、ネメシスを降りて宇宙港に立つと、見渡す限りのケモミミである。
目の色を変えてキョロキョロするシンセイとテイルにレイカが拳を振り落とし、「変な行動や言動したらぶっ飛ばす」と睨むと、「はい」と静かにする。
数十人が並んで歓迎してくれて
「王女様の居る場所に案内します」
と言ってついてきてくださいと言う目くばせをして歩いていくので、ついていくことにした。
乗り物の窓から見える風景は、この世界では初めて見る木でできた建物が立ち並んでいた。
高くても4階建てといった感じで低い建物が多かった。
高層のビルや大きな施設を見慣れている者には珍しい、そして文明が発達していないと錯覚を起こしそうだった。
聞くとあえてこのような建物にしているのだとか、動物の遺伝子が入っているため草木や土といった自然の匂いが落ち着くのだとか。
降下しているときに遠くにも大きな街が見えたので、惑星自体はそこそこな開発が進んでいると思っていた。
「なんだろうこの惑星だけ突然ファンタジーの世界に来たみたいだ。」
私のつぶやきに案内してくれている人が「大昔の文明を再現するように開発した惑星なのですよ。」と笑いながら教えてくれた。
そんな話をしているとひときわ大きな木造の建物に着いた。
「こちらで王女様がお待ちです。」
と通された部屋は、ソファーやテーブルといくつかの家具が置かれていた、応接間みたいなものだろうか。
「ヤマトの皆さん、わざわざお越しいただきありがとうごじゃいましゅ・・・」
「あっ噛んだ。」
私の一言に挨拶を噛んだ少女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして言い直した。
エキュと名乗りケーノと呼ばれるこの星系の初代移民者の末裔なのだと説明された。
そしてこの星系は五千年前に増えすぎたペットの獣人が集められて、強制的に移民船で宇宙に送られた一族が見つけて開発発展させた、
その後、噂を聞いた獣人が集まってきて今が有る、
軍隊自体はあるにはあるが半年前に艦隊を同盟に接収されて今は人員だけで船がない状態なのだという。
話すだけ話すと
「今回のヤマトさんの報酬なのですが、森の木や果物の苗や種等しか出せませんがよろしいでしょうか?」
エキュは報酬の件を話してきた。
それを聞いたシンセイはヤマトへの編入だけでいいと答えた。
エキュは支配下に入れと言うのですか?と聞くが、シンセイは首を振る。
「支配下ではなく編入したのちケーノで自由に自治を認める、ということです。」
そう言うとエキュはきょとんとした顔であまり分かってない感じであった。
「砕けた言い方をすれば、何かあればヤマトが守るし欲しいものがあれば提供するので、今まで通りに王女様が収めてていいということですよ。」
「うーん、大まかに言っちゃえばそんな感じ?」
テイルが言うと私も同意する、エキュは急に困った顔で
「こちらからは何もできないのに一方的に頂いて良いのですか?」
と聞いてくるので、シンセイは何か考えた後、
この国の教育水準はどのくらいか食糧自給はどのくらいか、を聞く。
この国の教育は親が子供に読み書きと簡単な計算を教える程度、
食糧は果物や野菜、海に放して増えた魚、一部で行っている畜産で自給率60%程度だそうだ。
足りない分は工芸品を売り商会から買っているのだとか。
商会はどこが来てるか聞くと最近はシャボール商会がよく来てくれて工芸品を高く買い取ってくれて、食料品を安く売ってくれると嬉しそうに話した。
「シャボール商会の支店がヤマト本星に出来たからだと思いますよ。
そして多分ですがうちから売る食品が流れてきているのかと、まあそこは聞いてみないと分かりませんけどね。」
そう伝えると目を丸くして助かっていますと頭を下げる。
そこまで聞いてシンセイが提案する。
教育をするために官僚等をヤマト本星に一時的に行ってもらう、
そして知識や技術を身につけてこちらで自然やプラントにて食料を作る、
それをヤマト各星系に運ぶ、その護衛もかねて軍を置く、
見たところ惑星半分は開発しているようですが、残りは手付かずのようですし、その地域をプラント工場を作る、
というのはどうですか?
提案するとエキュはあまり理解できてないようだった。
「ようはこの国は労働力と食べ物を提供する、そのためにヤマトが教育等の支援をする、食料供給をすることで前に言った保護や各種提供の対価とするということですよ」
私が簡単に言うと「それならば対等なのかな」とつぶやきながら考えていた。
しばらく考えたのち
もう少し考えさせてくださいと言ってくる。
私たちもこの国を見て回りたいので自由見学の許可いただけるならいくらでも待ちます。
というとそれくらいならと許可をしてくれた。
ついでに艦隊のみんなも惑星で休ませてほしいというお願いも了承してくれた。
そして最初の話し合いはひとまず終了となった。
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