第9話 いざ、出発
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい、師匠」
食事を終え、身支度を済ませた二人は小さな鞄だけ持って外に出た。
ルルエルはお気に入りの肩掛けポーチ。クーは少し大きめのリュック。
「まずは王都に行くんですよね?」
「うん。そこでまずはクーの冒険者カードを作って、ギルドを結成します」
「その、トーコさんは王都で待ってるんですか?」
「うーん……多分、書類だけ提出してるんじゃないかな。受付に行けばすぐにカードを発行してもらえると思います」
「へぇ。そんな簡単に冒険者ってなれちゃうんですね」
森の中を歩きながら、クーは少し驚いたように息を漏らした。
ルルエルはクスッと笑いながら、話を続ける。
冒険者になるだけならとても簡単だ。
王都にあるギルド協会本部で必要な書類を出すだけでカードを発行してもらえる。そこからギルドを結成したり冒険者として実績を積めるかどうかは本人次第。
大体の人は魔物との戦いに恐怖して辞めていく。命懸けのダンジョン攻略を続けていけるのは相当な実力者だけなのだ。
「それに、冒険者カードは持ってるだけで身分証明証にもなりますし、魔物との戦いだけが全てじゃありませんからね」
「そういえば、アイテムを売って生計を立ててる人もいるんでしたっけ」
「まぁ、大体の人は大金目当てで魔物と戦おうとする人が多いんですよ。レアアイテムを手に入れて楽しよう、みたいな」
「へぇ。なんかギャンブルみたいなことしてるんですね」
「ふふ、そうかもね。実際、昨日私が換金してきたアイテムも相当な高値だったし」
そんな話をしながら森を抜けると、舗装された街道に出た。この道沿いに真っ直ぐ進んで行けば王都に着ける。そして冒険者カードを作れば、晴れてクーも冒険者だ。
「トーコさんに僕もお礼を言いたかったです」
「え?」
「だって、その方のおかげで僕は冒険者になれるんですから」
「そう、だね。いつか、きっと会えるよ」
いつか。クーの魔力を消して人間にすることが出来れば、トーコも会ってくれるかもしれない。
かつての仲間達も、自分がしたことを許してくれるかもしれない。
ルルエルはギュッと肩にかけた鞄の紐を握りしめて、一歩前に進んだ。
「そういえば、せっかくだから聞いてもいいですか?」
「なに?」
街道を進みながら、クーがポンと手を叩いた。
「僕みたいな孤児、なんで拾ったんですか?」
「……それはまた急、ですね」
「気になっていたんです。僕を育ててくれたことには感謝しているけど、貴女は何か目的があってギルドに入ろうとしていて、家を空けることも多いし……それなら最初から僕なんて拾わない方が良かったのでは?」
「そ、そんなこと……」
本当の理由なんて言えない。
そもそもギルドに入ろうとしていること、その目的。それら全て、クーを人間にするためなのだから。
「……その、なんて言いますか……親近感、みたいなもの、ですかね」
「親近感?」
「私は生まれたときから魔力が多くて、村の中で隔離されていたんです。勇者さんが来るまで御札いっぱい貼られた部屋で、ひとりぼっちでした……だから、貴方をひとりぼっちにしたくなかったんです」
「そうだったんですか……」
嘘は言っていない。
でも、本当のことも言っていない。
ルルエルは少しだけ胸を痛めながら、そっとクーの手を握った。
「これからは、ずっと一緒ですよ」
「はい、師匠!」
この言葉を本当にするために、目的を達成する。
ルルエルは改めて自分自身に誓いを立てて、前に進んだ。
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