第10話 ギルド協会本部




 歩くこと数十分。

 二人は目的地である王都に辿り着いた。


 この大陸の中心都市である王都、セルヴァーナ。

 右を見ても左を見ても人で溢れ、賑わっていた。石畳で出来た道を進み、二人は遠くから見える大きな建物に向かって歩き出した。


 まるで城のような、高い塔のある建物。

 ここがギルド協会本部。懐かしいわとルルエルは小さく呟いて、中に入っていった。

 入ってすぐに横にズラリと並んだ縦長のテーブルがあり、薄い透明の板で等間隔に仕切られている。

 それぞれのテーブルに同じ制服を身にまとった女性が座っており、様々な相手の対応をしていた。


「ようこそ、ギルド協会セルヴァーナ本部へ」


 空いているテーブルへ向かうと、受付の女性がお手本のような笑顔で対応してくれた。

 ルルエルはなるべく周りに聞こえないように、コソコソと小さな声で話しかける。


「あの、ルルエル・ミアットです。トーコ・ディアティントから話が通ってると思うのですが……」

「ああ、はい。ルルエル様ですね。トーコ様からお話は伺っております。では、本人確認のため冒険者カードのご提示をお願いします」

「はーい」


 ルルエルが冒険者カードを渡すと、受付嬢が手元の丸い板の上にそれを置いた。

 カードに反応するように板が光を放ち、薄い黄色に輝いた。


「では、ここに手を置いてください」

「はい」


 ルルエルは受付嬢に促され、カードの上に手を翳した。

 これは情報を読み取る魔法装置。カードを発行する際に本人の魔力と指紋を登録する。

 これが一致しなければ本人確認は出来ず、即刻警備兵に捕まってしまうのだ。


「はい。ご本人様の確認が取れましたので、カードをお返しします」

「ありがとうございます」

「では、トーコ様より書類の方は預かっていますので、クーヴェル様の冒険者カードを発行させていただきます」

「は、はい!」


 クーは緊張しているのか、名前を呼ばれて肩をビクッと震わせた。

 受付嬢はニコッと微笑み、一枚の紙とペンを出した。


「では、こちらの枠の中にお名前をお書きください。これは本部で保管される大切なものなのでお間違えのないようにお願いします。もし書き間違いなどありましたら新しい用紙に書き直していただくので、すぐに仰ってください」

「わ、わかりました」


 その言葉に余計緊張したのか、ペンを持つクーの手が少し震えている。

 お役所仕事のこういう固いところが好きじゃないな、とルルエルは心の中で呟いた。

 名前を書き終えたクーは深く息を吐きながら、紙とペンを受付に返す。


「はい。では、こちらの装置に手を翳してください」

「はい!」


 先ほどカードを置いていた魔法装置の上に手を翳す。

 今度は赤いレーダーのような光が放たれ、クーの手首から指先まで読み込んでいく。


「はい。登録が終わりましたので、もう離して大丈夫ですよ」

「は、はい」

「冒険者データにクーヴェル様を登録させていただきました。では、こちらのカードをお渡しします」

「ありがとうございます!」

「こちらのカードは様々な場所でお使い頂けます。詳しくはこちらの冊子にまとめてありますので、お時間のある時にお読みください」

「は、はい」

「再発行にはお時間と手数料がかかりますので、無くさないようにご注意ください」

「は、はい!」


 受付嬢が淡々とカードについての説明をしていく。

 話が長いなぁと思うが、向こうもこれが仕事なのだから仕方ないとルルエルは小さく息を吐いて口を挟んだ。


「あの、ギルドのことなんですけど」

「あ、はい。そちらも承っております。ルルエル様、クーヴェル様、トーコ様の三人でチーム登録をされるのですね。こちらもトーコ様より必要な書類を提出していただいてます」

「じゃあ……」

「はい。クーヴェル様の冒険者登録が済みましたので、三人様のギルド結成を受理させていただきます」

「やったぁ! ありがとうございます!」

「ギルドに関する説明は不要と判断させていただきますので、これで手続きを終了させていただきます」


 受付嬢が深々と頭を下げた。

 これで二人のギルドが結成された。もう誰に遠慮することもない。二人が行きたい場所に、自由に行動できる。


「じゃあ、まずはクーの装備を買いに行こうか」

「はい!」


 浮かれる足で、二人は街を歩き回った。

 まずはどこに行こう。

 何を探しに行こう。

 逸る心が止まらなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る