第8話 魔女と旅立ちの朝
翌日になり、ルルエルはいつもより早く目が覚めた。
今日からクーと共にチームを組んでダンジョン巡りの旅に出られる。
まるで遠足前の子供のようにはしゃぐルルエルに、いつも通り早起きのクーは少しだけ呆れた。
「……今日は早起きですね、師匠」
「おはようございます、クー! 良い朝ですね! 絶好の旅立ち日和です!」
朝日よりも眩しい彼女の笑顔に、クーは何も言えなかった。
何より、楽しみにしていたのは自分も同じ。一緒にギルドを結成して旅が出来ることに喜んでくれているのだから、文句などひとつも出ない。
「朝ごはん準備しますから、師匠は着替えて旅支度しててください」
「はーい」
着替えを済ませ、ルルエルはウキウキしながら自身の杖を無駄に磨いていた。
ほんのりと音程のズレた鼻歌を聴きながら、クーはクスッと笑みを零す。
もう自身を偽る必要も無い。安心してギルドを結成して、好きなところに冒険出来る。
必要ない。出ていけ。そんな言葉を聞くこともなくなるんだと思うと、ルルエルが浮かれるのも無理はないだろう。
「そういえば、師匠。今も魔力を抑えてますけど、何でですか?」
「そりゃあ周囲に影響を与えないためです。そうしないと私は街にも入れませんし」
「ああ、そういうことですか」
「昔もそうしてましたよ。戦闘の時だけ魔力を解放してました。あの頃はリミッターではなくて、アイテムを使って魔力を制限してました」
「アイテム、ですか?」
食事をテーブルに用意しながら、クーが問いかけた。
「はい。勇者さんから渡されたんです。当時の私は魔力制限の魔法を覚えていませんでしたし、今の使用しているのも一人になったときに必要だと思って自己流で編み出したものなんです」
「ああ、だから制限が零か百かの両極端なんですね。本当に師匠の魔法って雑ですね」
「一言余計です」
「そのアイテム、今はないんですか?」
「かなり貴重なものらしいので、私はそれ以来見たことないですね」
それがあれば魔力の制限も楽に出来たのにと、ルルエルは残念そうに首を振った。
朝食の準備が整い、テーブルの上に並んだ食事に二人はいただきますと声を揃えて手を合わせた。
「そうだ。貴方の装備も整えないといけませんね」
「装備ですか?」
こんがりと焼けたトーストを一口かじり、思い出したようにルルエルが言った。
「私は魔道士なので杖一つあれば問題ないですけど、貴方はどうしましょうか……ある程度の武器の使い方は教えてきましたが、得意な武器はありましたか?」
「うーん……」
魔力を封印しているので、今のクーは魔法は当然使えない。だから身を守れる程度のことを教えてきた。
記憶がなくとも魔王の体。どんな武器でも軽く使いこなしてしまった。そのため、一番得意と言えるようなものはなかったのだ。
「旅をするなら武器は一つに絞るべき、ですかね」
「まぁ身に付けるのであれば、その方がいいかもしれませんね」
「どれもしっくり来ないんですよね。体に馴染まないというか、何と言うか……」
クーは腕を組んで悩んだ。
その様子にルルエルは昔のことを思い出す。魔王の戦闘スタイルは魔法だった。武器を使って戦うことはなかったため、その戦い方に違和感があるのかもしれない。
「まぁ旅をしながら探せばいいですよ、自分のスタイルを。武器なら私が魔法で作ってあげます」
「便利ですね、魔法は」
「何でも出来る、という訳ではないですけどね。まぁ私はほぼ何でも出来ちゃいますけど」
「自慢ですか」
「自慢ですよ」
ドヤ顔をするルルエルに、クーは呆れた。
何でも出来る人がギルドを追い出されるなんてことあるのだろうか。自分の魔力を上手く調節できないくせにと思ったが、それを言ったら怒られそうなので心の中に留めておくことにした。
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