第7話 魔女の探し物
「先程の……トーコさん? でしたっけ。あの人は師匠のお友達なのですか?」
「うん、昔の仲間……なんだけど」
「それって、昔一緒にギルドを組んでいた?」
「そうだよ。また会えるとは思ってなかったよ。もう二度と会ってくれないと思ってたし」
旅の準備を終え、二人は食卓に並んでお茶をしながら先程の来訪者、トーコの話をしていた。
この家に誰かが尋ねてきたのは初めてのことだったので、クーは少し興味を示したようだ。
「私は彼らを裏切るような真似をして、ギルドから出ていくように言われました。約束を守れない限り、二度と顔を出すなと……」
「約束?」
「はい。とっても大事な……叶えられるかどうかも分からない約束です」
「それは、師匠の探し物と関係が?」
「はい。きっとどこかにあるはずなんです。この世界には必ずどこかに自分の望みを叶えてくれるアイテムが存在していると、勇者さんが言ってました」
温かい紅茶の入ったマグカップを両手でギュッと包み、当時の思い出を振り返るように天井を仰いだ。
この世界にはたくさんのダンジョン、古代遺跡などが存在する。そこには特殊な力を秘めたレアアイテム、お宝がある。
どこにどのアイテムがあるのか、それは誰にも分からない。一度誰かが訪れたダンジョンであれば、ギルド協会の方でどんな魔物がいて何のアイテムがあるのか把握している。
しかしこの世界には多くのダンジョンがあり、まだ全てが解明された訳じゃない。だから中には強大な魔力を消滅させるものがあるはず。
「そんな都合のいいもの、本当にあるんですかね」
「ありますよ。世界のどこかに何でも一つ願いを叶えてくれる宝玉があるとかって噂もありましたし」
「本当ですか!?」
「まぁ、それはただの噂でしたけどね」
「……嘘なんですか」
「どこかの国の絵本に書かれたことを鵜呑みにした人が流した噂だったんですよ。それを知ったときはみんなガッカリしちゃって」
ふふっと思い出し笑いをするルルエルに、クーもつられて笑った。
こうして昔の話をしてくれるのも珍しい。あまり思い出したくないのか、彼女は過去の話をしたがらなかった。
でも今は楽しそうに色んな話をしてくれる。クーの知らない世界の話を教えてくれている。
明日からの冒険に、彼が少しでも多く楽しめるように。
「クーはどんなアイテムが欲しいですか?」
「僕ですか?」
「はい。もしかしたら、クーの望むものもあるかもしれません」
「僕……うーん、考えたこともないです」
「冒険したかったんじゃないんですか?」
「それは貴女と旅をしたかっただけです。何か欲しいものがある訳じゃありませんから」
「そうですか……」
軽く笑ってそう言うクーに、ルルエルは「ふぅん」と小さく呟いた。
物欲がないのだろうか。ルルエルは年頃の少年ならあれもこれも欲しいと言い出すものだと思っていただけに、少しだけ面を食らってしまった。
中身が魔王だと知っているせいかもしれない。たとえ記憶がなくても、少年の正体は魔王。この世界を支配しようとした存在なのだから、記憶を失っていても何でも欲しがるんじゃないかと勝手に思っていた。
彼は願った通り、普通の人間。普通の男の子として育っている、という事なのだろうか。ルルエルはほんの少しホっとした。
「それじゃあ、明日に備えて今日は早めに夕飯にしましょうか!」
「それならもう下準備は終えていますよ」
「え、もう!?」
「師匠に任せたら遅くなっちゃいますからね」
「……なんか、すっかり私より料理上手になりましたよね」
師匠としての立場がないです。ルルエルはそう心の中で呟きながら、クーの手伝いをした。
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