第6話 少年魔王と旅をする




「ただいま!」


 さっきまでと違う様子で戻ってきたルルエルに、クーは驚いた。

 戻ってきたら話の続きをすると思っていたのに、ルルエルはテキパキと旅支度をし始めている。


「え、あの……師匠? 何して……まさか、さっきの人とどこか行くんですか?」

「違うわ。私達二人で旅をするんです!」

「え!?」


 まさかの展開にクーは思わず大きな声を上げた。

 ついさっきまで駄目の一点張りだったのに、何がどうしてそうなったのか。

 詳しく聞きたいところだが、ルルエルが機嫌良さそうにクルクルと踊りながら準備をしているので口を挟むのも悪い気がしてしまう。


「あのねあのね! トーコが……あ、さっきの人がトーコって言うんだけど、クーと一緒にギルド作りなさいって!」

「え、でもギルドを組むには三人から……」

「だから、トーコが名前だけ貸してくれるんですって! これで私達、二人でチームを組めるの! 一緒に旅が出来るんですよ!」

「僕たち、二人で……?」


 その言葉に、クーはパッと表情を明るくした。

 それは願ってもないこと。クーは冒険者にはなりたいと思っていたが、ルルエルと同じギルドに入って二人で行動したかった。

 しかしギルドはチーム。集団行動だ。だからせめて冒険者となって手近な魔物を倒して日銭を稼ぎながら二人でひっそりと暮らしていければと考えていた。


 クーにとって、ルルエルは母であり姉であり、最も信頼出来る人。他の人間と交流してこなかったからでもあるが、クーの世界にはルルエルしかいないのだ。


 本来ならクーは外に出すなと言われていた。自由にさせるなとかつての仲間に言われていたが、ルルエルはそうしなかった。

 普通の人間にするのが目的なのだから、普通の子供として育てたい。そう思い、街にも連れていった。子供達とも遊ばせた。


 だがクーは人見知りをするのかルルエル以外には懐かなかった。そして今ではルルエルに必要以上に過保護にもなっている。

 これはルルエルが少し世間知らずで抜けているせいなのかもしれない。


「本当に、良いんですか? 僕、冒険者になっても……」

「うん! トーコがね、クーの身分を証明してくれるらしいから、これで冒険者として登録できるようになったんです!」

「僕の身分?」

「あ。あの、その……ほら、君って私が拾った子だから……身分証明とか、そういうの持ってないでしょ?」

「そっか。だから師匠は僕が冒険者にはなれないって……それを隠していたんですね。すみません、僕……師匠の気持ちも考えないで……」


 クーが納得したように胸を撫で下ろした。

 本当はそうではないが、上手いことはぐらかさすことが出来たのでルルエルは、そういうことにしておいた。


「何はともあれ、クーのお願いを叶えてあげられますね!」

「……はい、師匠!」


 クーは、単純に家に一人で居たくなかっただけなのだが、二人で旅が出来るなら何でもいい。

 二人は笑顔で旅支度をしながら、最初はどこに行こうかと話し合った。


「実は私、行きたかった場所があるんですよ! あ、でも今の時期なら北の方がいいですかね。それとも西の……」

「……師匠、何だか嬉しそうですね」

「えへへ。勇者さんと旅をして以来、どこのギルドも追い出されてばかりでしたから、何だか嬉しくて……」

「師匠……」

「ある意味、勇者さんとのギルドも……追放されたようなものですし、私は世界中のギルドから見放されたんだと思ってました。だけど、貴方となら、どこまでも行けそうです」

「はい。僕が貴女の望むところに連れていきます」


 そういうクーの顔は、どこか大人びて見えてルルエルは少しだけドキッとした。ずっと幼い少年だと思っていたが、この五年で彼も成長してきた。

 いずれは、自分達と戦った魔王の姿になるのかと思うと少し怖くもなるが、今は純粋に彼の成長を喜ぼう。


「ふふっ。そういうカッコイイ台詞は私より強くなってから言ってくださいね」

「すぐに追いつきますよ!」

「…………まぁ、本当にそうなったら困るんですけどね」

「何か言いました?」

「いいえ、なんでもないです!」


 ルルエルはクーに背を向けた。

 こうして彼と一緒にいられるのは、いつまでだろう。

 約束通り、魔王の魔力を消し去ることが出来るのだろうか。

 今の生活を失いたくない。そのために、魔力を消すことが出来るアイテムを探さないといけない。


 この旅の果てに何が待ち受けているのか、知るものは誰もいない。


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