第62話 バカップル

 変な時間に目が覚めた俺。大分眠っていたらしい。

 玲香は既にこの部屋には居なくて、俺一人だけだった。


「……風呂入ろ」


 寝惚けてる頭と体を目覚めさせる為に一旦風呂に向かう。


 着替えを置いて男風呂に入り、汗を流してから湯船に浸かる。あー疲れが吹き飛ぶ。


「……玲香。怒ってないかな」


 昨日無理矢理とは言え、やっちゃったし……。そういうのが嫌なのは分かってるはずだったんだけどな。

 後で謝るか。


「よし、そうと決まれば今すぐにでも……っと」


 少しだけ足元がふらつく。寝起きなの忘れてた。





 ☆






 風呂から部屋に戻ってもまだ玲香は戻ってくることはなく、用意された朝食を一人で食べていた。

 一人で食べていると部屋の扉が開く音が聞こえた。


「どうも、先輩」


「……なんだお前か」


「どうでしたか?お風呂は。結構気持ち良かったですか?」


「まあな、いろんな風呂があって楽しめてるよ」


 玲香は今何処で何してるんだ?早く戻ってきてくれ。


「……あの先輩」


「ん?俺に何か?」


「……私、先輩のことが―――」


「ごめん。遅くなっちゃって……ってどうしたの?上村さん」


 やっと戻ってきた玲香によって、上村の言葉が遮られてしまい、何か言いたそうな表情を浮かべながら、顔を俯かせて無言で部屋を出ていく上村。


「どこ行ってたんだよ」


「ちょっとお母さんとこ、ほ、ほら……のこと」


「お、おう……」


 お互いの顔が赤く染まったまま、何も言わず黙々と時間だけが過ぎていく。

 玲香は俺の隣に座って、体を預けてくる。


「……あの子、はーくんのこと」


「知ってる。あいつが惚れてることぐらい」


「じゃあ……!」


「でも、それを咎めることは出来ない。告白されても俺がちゃんと断れば良いだけだし」


 なんで俺なんかを好きになるんだろうな。桐原も。


「それに俺は……玲香さえ居てくれたら……それでいい」


「バッ……!もうっ!」


 なにかボソボソと呟いてるけど、聞かなかったことにしよう。なんせ今はそれどころじゃない。


「玲香……食べづらいんだけど」


「そんなこと、知らない……っ」


 えぇ……いつもだったらそんなことしないのに、今日はどうしたんだよ。

 食べようにも玲香の豊満な胸を押し付けられてるせいで、なかなか思うように腕を動かせずにいた。



「っ!?ふ、ふ、不意打ちはやめてって!あっ……」


「……やっとこっち向いてくれた」


 真っ赤に染まった玲香の顔、潤んだ瞳、泳ぐ目線。どれも俺の心を鷲掴みにする。

 俺はゆっくりと顔を近付けると力一杯に目を閉じる。


「そっちが緊張するとこっちも緊張するんだけど」


「……うっさい、バカ」


「うん。俺は玲香の事が好きなバカだよ」


「開き直んな……!もうっ」


 朝食中なのに二人は抱き合い、仲居さんが来るまでずっとこうしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る