第61話 初体験※玲香視点

 一足先にお風呂から上がった私は、旅館指定の浴衣を身を包んではーくんを待つ。

 かなりの人に見られたりしたけど、そんなにこの格好変なのかな……?なんて考えていたらはーくんが男湯から出てきた。


「あれ、玲香。先に戻ってたんじゃ……」


「同じ部屋なのにそんなことする訳ないでしょ?えへへ」


 そう言った後、彼の腕にしがみつくように抱く。

 まだ子供っぽい容姿に大人な浴衣を着るはーくんは、ちょっとミスマッチで可愛かった。

 身長はそこまで大きい訳じゃなく、むしろ平均より下だ。


「……っ、玲香」


「早く戻ろ?」


 でもやっぱり緊張はする。好きな人だから。

 物凄くうるさい心臓の鼓動、火照った体とはーくんの顔のせいだ。





 ☆






 部屋に戻ると敷布団が二つ並んでて、若干距離が近くて更に顔が熱くなってきた。

 これって……あれだよね?い、一緒に寝る奴だよね……?


「さっきより顔赤いけど……大丈夫?」


「う、うん……。だい……じょぶ」


 なんて言ってる私だけど、全然大丈夫じゃなくて体の奥から何か変な感じがする。

 ちょっと逆上せちゃったかな……?


「寝る前に夜風に当たろうよ。少しは楽になるかも?」


「うん。そうする」


 もっとはーくんとお喋りしたかったから丁度良かった。

 縁側に設置されてる椅子に腰掛け、対面に座るはーくんの顔をジーッと見つめる。


「なあ玲香」


「何?」


「俺頑張る。頑張って凄いプレイヤーになって、自慢の彼氏になれるよう努力する。だから……」


 はーくんと私の唇が重なり合う。


「……もう何処にも行くな」


「行く訳ないじゃん。はーくんしか考えられないって」


 でも……嬉しい。もっと好きになっちゃうじゃん。


「ごめん玲香……俺もう無理そう」


「ふぇ?きゃっ!?」


 突然はーくんに抱き締められて、思わず変な声が出てしまった。それに手が胸に……って、え?!


「ちょ、ちょっと……!何処触って……んぅ……」


「玲香が……悪いんだからな?」


「ま、待って……!本当に……ひゃうっ!」


 そのまま敷布団の方へ押し倒され、一番長い夜を共に過ごした。





 ☆






 私が目が覚めた時、浴衣はかなりはだけて所々体が痛い。遂に……シちゃったんだ、私達。

 嬉しいような、そうでもないような……不思議な感覚。


「バカ……」


 まだぐっすりと眠るはーくんを横目に私は服を着替え、いつもの椅子に座って外を眺める。

 はーくんの男っぽいところを見れた私は、何か途轍もない優越感に浸っていた。やっと独り占め出来たから。


「だーい好きだよ。はーくん」


 ちょっと頼りなくて、私が居ないと何も出来ないぐらいだらしないけど、ゲームになると話は別。

 私はその姿はずっと見てきた。ファン第一号にして、愛するべき人。


「……夢、か。はーくんは凄いなぁ」


 私の夢ははーくんとずっと一緒に居ることぐらいしか考えてなくて、私は何になりたいのだろう。

 小さい頃から運動は本当にダメで、部屋に閉じ籠って絵ばかり描く日々を送っていた。


 ただ中学のあの時の騒動の影響もあり、あの日から一切絵を描かなくなった。理由は描く動機がなくなってしまったから。

 でも今は違う。


「……絵、描こうかな」


 似顔絵っていうのは変だけど……そんな感じの絵を描いて上げたいな。

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