第60話 覚悟

 熱い口付けを交わし合った後、俺達は温泉があるということでお風呂に向かっていた。

 自分達のお風呂用の道具を持っていき、手を繋ぎながら浴場のある場所まで向かう。


 数分ほど歩いて着いた俺達は、よくある赤色と青色の暖簾を見てどんなお風呂なのか気になり始めた。


「じゃあ私はこっちだから」


「ん、また後で」


 手を離して二人はそれぞれの脱衣所に入っていく。

 俺は適当な場所に自分の物を置き、タオルで隠しながら服を脱ぎ浴場の中へと入った。


「……結構大きいんだな」


 大きいものから小さいもの、白色だったり、木で出来た等多種多様なものがあった。

 日々の疲れを癒すにはもってこいの場所。


 シャワーのある場所で全身を洗い追えた後、奥にある大浴場へと足を進める。


「すっげえ……」


 そこは夜空に煌めく綺麗な星達が輝いていて、視線が釘付けになる。来て良かったな。

 大浴場の中には既に先客が居るようで、邪魔にならない位置に陣取り腰を下ろす。


「ふぅ~……気持ちいいなこれ」


 夜空を見上げながら、俺はこれから先のことを考える。

 来年は三年で普通に考えれば俺は受験生になるが、俺は大学にはいかないつもりでいる。

 金も学もない俺には行けるとは思ってない。


「本気で目指すか……プロ」


 腕はそこそこある。それに父さんが生きていた頃に約束したっけな。

 今ならそれを叶えられるかもしれない位置に居る。


「やっぱり目指すんだ」


「……玲香?」


 声がする方へ視線を向けると、タオルで髪を纏めて頬が若干赤い玲香が居た。

 湯気で見えないけどタオルで体の一部を隠していた。


「ここ混浴だって、知ってた?」


 微笑む玲香だが、年齢以上のものを持つ豊満な胸に視線が集まってしまう。


「……今知った。てか、玲香のその……でかい、な」


「み、見るな!バカッ!」


 当然怒られて体を隠す玲香。

 お互いに変に意識してしまって、俺は慌てて後ろに向くがちょっとだけ体が火照ってきた。


「……隣、いい?」


「う、うん……」


 玲香が俺の背中に体を預け、ピタッとくっつけていた。


「さ、さっきの話に戻るけど……本当に目指すの?」


「……そのつもり」


 静かな時間が流れ、なんて言われるんだろうと少し身構えた。


「私は……一緒の大学、行きたい。でも本当になったらちゃんと応援する」


「……玲香」


「だって……か、かの……じょ、だから……」


 俺は後ろ向きのまま、玲香の手を握って空を見上げた。


「俺、頑張る。プロになって玲香と……一緒になりたい」


「はーくん……」


 玲香に握り返され、少しだけ気持ちが繋がったような。そんな気がした。


「この夏に行けるとこまで行ってみる。もしダメだったらゲームは辞めて玲香と同じ学校行くよ」


「えっ……?」


「それぐらいの覚悟を持ってやらないと……そんなに甘くないから、あそこは」


 普通のスポーツとは違い、まだ一般的に偏見がまだ残っていて当然反対意見の方が強いのは分かってる。

 でも、それでも俺は……それぐらいの覚悟を持たないとなれないということを高らかに宣言した。


「……そこまでやらなくても」


「それだけ俺は本気ってこと」


「応援することしか出来ないけど……頑張って」


「それだけでも俺は嬉しいよ」


 絶対にプロになってみせる。昔約束して過労で亡くなった父さんの為、自分自身の為、応援してくれる彼女の玲香の為にも。必ず……。

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