第59話 いっぱい食べる君が好き
仲居さん達が並べていた料理は、なんて豪勢なものなんだろうか。刺身に天麩羅、お肉に旬の野菜を使ったものまで。
ここの料理長さんが物凄い人なのが、これを見ればよく分かる。
「た、食べ切れるかな……これ」
俺はこんなには食えない。というか男にしては少食。
「なんだかんだ言って全部食べ切ってるでしょ」
ジト目でそう答える玲香。対する玲香は俺とは違ってよく食べる方で、俺はなんとなくそこで納得した。
「余りそうになったら玲香にあげるよ」
一瞬玲香の目が輝きを放つが、自制して小さく咳き込み俺を睨み付ける。
「なんだよ?今欲しいのか?」
「ちっがーう!もう!なんで分かんないかな……」
「言っとくけど、物凄く欲しそうな目してたぞ?」
「そんなことないもん!」
むすーっと膨れるその姿は幼少期の頃のまま。俺の口元が自然と緩み出す。
俺は割り箸を綺麗に割って、手を合わせた。
「じゃあ、戴きます」
俺は天麩羅を一口頬張ると今までに食べたことのない味が口の中全体で広がっていく。
玲香も同じように驚いていて、それだけ美味しいんだと思い知らされる。
「なに、これ……すっごく美味しい」
玲香の箸が勢いそのままにどんどんと進んでいく。
「ゆっくり食べろって」
「だって……んくっ、すっごく美味しいんだもん!」
「分からんでもないけど、逃げる訳じゃないんだからさ」
本当に美味しそうに食べるな、玲香は。
美味しそうに食べる玲香の姿はやっぱり凄く可愛い。
「……欲しいの?」
「いや本当に美味しそうに食べるし、そんな玲香も可愛いなって」
するとまた顔を赤く染め、顔を逸らされる。
「……不意打ちはやめて」
「照れてる?」
「別に照れてなんてない!」
今度は耳まで赤く染まり始めて、食べ終わるまでずっと目を逸らされ続けた。ますます好きって気持ちが強くなる。
もっと意地悪したい、俺だけを見て欲しいという気持ちが強くなった。
☆
その後は玲香は一人で自分の分を平らげたが、半分ぐらいでお腹いっぱいになった俺の分まで綺麗に平らげた玲香。
本当よく食べるなぁと思いながら、ずっと彼女の隣で横顔を見つめていた。
「んー!御馳走様でした!あっ……こっち見るな」
「……とは言うものの実は嬉しい癖に」
なんて冗談を言ってみたけれど、玲香の返事がなかった。
よく見ると耳まで真っ赤に染めた玲香が、俺に体を預けていた。
「バカ……っ」
「玲香の事が好きすぎるぐらい俺はバカだよ」
「―――っ!開き直んな……」
玲香の行動全てが愛おしくて、愛らしくて、俺をもっと虜にしてくれる。
あの頃とは違い、今はこうして想いもぶつけてくる。それが何より嬉しかった。
「玲香、キス……したい」
「……っ、勝手にして」
俺は唇を重ね、そのまま押し倒す。
「好き……はーくんじゃなきゃ、やだ」
「俺だって」
「えへへ……すっごい幸せ、かも」
あの時は本気で嫌われてすっごい落ち込んで、もうこういう関係にはなれないと思ってた。
でも高校に入ってから、桐原との出会いを気に全てが変わっていき、こうして付き合えるようになった。あの頃の自分に言ったら絶対にバカにされる。
「愛してるよ、玲香……」
―――もうこの手を絶対に離すもんか。
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