第三章

第53話 繋がりのない姉弟

 遂に始まった夏季休暇、俺は姉貴と出掛けていた。

 姉貴と行くことを事前に玲香へ伝えたら、一緒に来ると言い出した時は姉貴が必死に止めた。


「んで、何買うんだ?朝いきなり伝えられたせいで何にも知らないんだけど」


 俺は珍しく姉貴に叩き起こされ、玲香が来ないことを知ったのも相まって超絶機嫌が悪く、ジト目で睨む。

 折角玲香と一緒に居られると思ったのに……。


「え、えーっと……まずは旅行用の鞄ね!家にはないから行きましょうか!」


 慌てて必要なものを買いに来たって訳ね。


「んー、さっさと買って準備しようぜ」


 今頃玲香は一人で何してんだろうなぁ……。

 本当なら今日は一日中家でゲームする予定だったのだが、河瀬家との旅行が勝手に決まり、玲香も来るから仕方なく必要なものをこうして調達に来たという話の経緯。


 父さんの葬式以来久々におじさん達に出逢う為、粗相がないようにしないといけない。


「う、うん……行こはやちゃん」


 鞄を始めとする旅行に必要そうなものを一通り買い、そのまま帰ろうとした時だ。

 姉貴の腹の虫が突然鳴き出した。


「……あはは、お腹空いちゃった」


「どっかで食うか?別に買って帰るのも良いが……なんなら帰るまで我慢するか?」


「流石に準備があるし……帰るまで我慢する」


「分かった」


 姉貴はこう見えてかなりモテるらしく、俺が入学してくるまで何人かが告白したそうな。

 あれでも結構美人だし、胸もでかいし。


「んー?はやちゃんどうかした?」


「いや……姉貴は彼氏とか作らねえのかなって」


「私にははやちゃんが居るから、それに……」


「それに?」


「はやちゃん以外の男の子を好きになんてなれないから」


 ……そういえば、俺の事が好きって言ってたっけ。

 玲香の介入ですっかり忘れてた。


「それにはやちゃんの幸せが第一だもん。だから私は作らない。誰に何言われても」


「義姉さん……」


「だから、私の自慢の弟君はれいちゃんをしっかり幸せにしてあげなさい。これはお姉ちゃん命令です!」


 一瞬寂しそうな、苦しそうな表情を浮かべてた姉貴は無理といつも通り明るく振る舞い、心配させまいと堂々と言い放った。


「言われなくても」


「ふふっ、じゃあ帰ろっか」


 姉貴は常に俺の先を歩く、何があっても。

 だから俺はそんな姉貴が眩しく見えて、姉として好きだった。


「何ボサッとしてるの!置いてっちゃうよ!」


 初めて逢った時は何も興味がなくて、生きる意味を見失っていて、今のような性格じゃなかった姉貴。

 それでも姉として俺を守ってくれるのが、何よりも頼もしくて嬉しかった。


「こっちは姉貴と違って重い荷物持ってんだから遅れるに決まってんだろ!!」


 だから、誰か俺の代わりに姉貴を救って欲しい。

 俺だってちゃんと姉貴にも幸せになって貰いたいから。


もうこれ以上、義姉さんを苦しめたくない。

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