第54話 カップル特有の空気

 必要なものを買い揃えてから三日程経ち、いよいよ河瀬家との旅行が始まる。

 俺は相変わらずというか、惰眠を貪っていた。

 だからいつものように誰かに体を揺らされ、ゆっくりと瞼が開く。


「あ、おはよう。そろそろ行くよ?」


「んー……」


 まだ覚醒しきってない俺は、起き上がっても数分ボーッとそのまま座ったまま再び寝そうになる。

 本当に眠い……。


「はーくん!もう起きてって!今日は折角の旅行なんだからお父さん達に怒られちゃうよ!?」


「分かってる……玲香、んっ……」


「っ!」


 俺は玲香に抱き上げて貰うために両手を広げる。

 自分の力で起きるのが億劫なことと久し振りなこともあって、寝ぼけている俺は玲香に甘えた。


「ほ、ほら……!起きて!もうっ!」


 そのまま抱き締められてゆっくりと立ち上がり、覚束ない足取りで立ってるせいでそのまま押し倒す形で倒れ込む。


「あてて……っ、玲香だいじょ……っ!?」


「……っ」


 目の前には顔を真っ赤にした玲香が目を揺らしながら俺を見つめる。

 今日はいつもとは違って、服装がお洒落で俺も顔が熱くなり出した。

 俺は雰囲気に呑まれて玲香の頬をそっと触れると、玲香も俺の頬を触れる。なんだこの空気は……。


 だけどこの甘い空気も一人によってぶち壊される。


「おーいれいちゃーん、いつまで……ってお邪魔だったかな?」


 顔を少し赤く染めた姉貴が苦笑を浮かべながら、ゆっくりと引き下がっていく。


「あ!やっ……ち、違うの!本当に起こしに……来たんだけど……うぅっ」


「分かってる。二人とも今は付き合ってるからね。おじさん達にはちょっと遅れるって連絡してくるからごゆっくり……」


「お、お姉ちゃん!?待って!それで怒られるの私なんだけど?!」


 玲香はそのまま起き上がって姉貴の後を追いかけた。

 一人ポツンと残された俺は、ゆっくりと覚醒してその場でしばらく一人で悶えていた。





 ☆






 着替え終わって荷物を持って河瀬家に向かう俺と姉貴と玲香だけど、俺と玲香はさっきのことがあったせいでお互いに無言。

 距離もちょっとあって、明らかに避けられてる。


「本当にお目覚めのキス……してたんじゃないの?」


「何度も言ってるけど俺が寝惚けてただけだっての……」


 ちらりと玲香に視線を向けると、さっきよりも真っ赤になった玲香が目を瞑りながら、口を一文字に閉じ、スカートを掴む。

 それが可愛くて慌てて顔を逸らした。


「まあなんでも良いけど……ちゃんと節度を守ってね?今回は皆居るんだから」


「……分かってるよ」


 小さく息を吐いて先を行く姉貴を追いかけようとすると、玲香が俺の服を掴んでいた。

 真っ赤な顔は逸らされてるが、力強く掴んでる手を見てこちらにも緊張が伝わってくる。


「お、お父さんから聞いたんだけど……ふ、二人部屋っ……らしくて……あ……ぅっ」


「そ、そうなん、だ……」


 れ、玲香とふ、二人きり……。大丈夫かな……?


「だから……その……着いたら……さっきの続き、しよ?」


 玲香は真っ赤な顔で涙目、上目遣いでそう訴えた。


 ~~~~っっ!!

 なんだよこの可愛らしさ!!俺を萌え殺す気なのか?!

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