第50話 夏休み前に
定期考査も終わり学校のムードは一気に夏休みに向けて、大きく動き始めた。
県大会であったり様々な賞に向けて、部活動に励む生徒の数はそれなりに居た。
勿論俺達も例外ではない。
「やっべ!俺部活行ってくるわ!じゃあな!!」
「おう、頑張れよー」
「大山君、頑張ってね」
俺と桐原が大山に告げてから、クラス内の空気がガラリと変わる。
そう、俺の彼女こと玲香と桐原による修羅場だ。……勘弁して欲しいけど。
「なんでそんなに近いのかな?桐華さん?」
「くじ引き決まっちゃったものは仕方ないでしょ?玲香さん?」
「そういうことを言ってるんじゃない!いい加減颯斗から離れなさいよ!」
両者譲らずまた俺の腕を抱いて睨み合い、最近はなんとも思わなくなってきた。
俺の中では別の事で頭がいっぱい。
「……俺そろそろ帰るわ」
「「えっ?」」
二人は驚いて俺の顔を覗き込んで、さっきまで仲が悪かった二人が俺から離れて何か相談し出した。
それを見ていた残っているクラスメイトもこそこそと噂をしていた。
「ほ、本当に帰っちゃうの……?」
と、涙目上目遣いで聞いてくる桐原。え、桐原?
「なっ……!」
それを隣で見ていた玲香は鬼の形相で俺を睨んでいた。
「う、うん……玲香とな」
何か見えてはいけないものが見えたとかそういうんじゃなしに、二人で帰るつもり。
……まあ単純にいっつも喧嘩してる二人を止めるならこれしかないなと思い付いた次第だ。
「あ、そう」
桐原は面白くなさそうな声を上げ、自分の鞄を持ってこちらに振り返った。
「それなら私も帰るわ、またね」
「お、おう……じゃあな」
去り際に何か玲香に呟いていったような気もするが、俺も帰る準備に取り掛かるか。
とは言うもののこれと言ったものがないので鞄を持って、残るクラスメイト達に別れの挨拶を告げ、玲香と共に教室を出た。
「はー……颯斗、今日はどうしたの?」
「……このあと暇か?ていうか暇だろ」
「何よその言い方……暇だけど」
いつもは玲香から誘ってくれたりしてるから気にしなかったけど、いざ自分からとなるとめちゃめちゃ緊張する。
ちょっと不機嫌そうな彼女だけど、どこか嬉しそうな雰囲気で一緒に歩く。
「……ど、どっか寄らねえか?その、二人で」
なんだこのめちゃくちゃ恥ずかしい感じは……?!いつも玲香はこんな気持ちなのか!?
うわあ……めっちゃ恥ずいし、なんか顔見れねえ……。
「ふふっ、良いよ」
「な、なんだよ……?」
「んーん、なーんにもっ」
いつもと違う玲香に驚きながらも、下駄箱で靴を履き変えて昇降口を出ると玲香が手を握ってきた。
玲香は少し頬を赤めて、凄く幸せそうな笑みを浮かべながら振り返った。なんとなくその気持ちが伝わってくる。
「ねね、どこ行くの?」
一瞬時が止まった感覚に陥り、まるでそこだけ映画やアニメのワンシーンになってた。
俺はそんな上機嫌な玲香を見て、顔が熱くなるのを感じて慌てて顔を逸らす。鼓動も僅かに加速してる。
「もしかして……はーくん照れてる?」
「……っ!」
このタイミングでその呼び方は反則だっての……!
「はーくん」
「……何?」
「早くいこっ」
恥ずかしそうに微笑むその姿は、幼い頃から一切変わってないからまた見惚れてしまった。
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