第44話 後輩 ※玲香視点

 三階に来た私はこの間の女の子と出逢い、ちょっとだけ彼女に妬いてしまった。だってすっごく可愛いから。

 でもそれは杞憂だった。


「……どうかしましたか?」


「えっ?」


「ずっと荻谷先輩の事見てますけど……」


 不意に私の頬が熱く火照って、胸がきゅーっと締め付けられた。

 ていうか!今はデート中だから普通は意識しちゃうでしょ!


「……そういう貴女はどうなの?大山君とつ、付き合ってるって聞いたけど」


「ふぇっ?わ、私ですか?!あうぅ……」


 くっ……!なんて可愛さなの!?


「……とあるきっかけで知り合ってひ、一目惚れしました」


 まあ大山君は部活で優秀な成績を収めた人だし、はーくんと付き合う前までは変にカップリングされたなぁ。


「そうなんだ。でも意外だなぁ……」


「一応これでも荻谷先輩のことも好きだったんですけどね。優しいし、ちょっと抜けてるところが可愛くて」


「ならどうして付き合わなかったの?」


「荻谷先輩……ずっと先輩の事を見てたので」


 え……っ?あのはーくんが?


「あの時の先輩はとても酷かったです。可哀想なぐらい」


 胸の奥が酷く痛み、あの時の事を酷く後悔した。


「だから一度聞いてみたんです。どうして告白しないんですかって……先輩なんて言ったと思います?」


「……


 本当のバカはどっちだ。

 はーくんの居ない毎日ほど退屈な日はないって一番分かってた筈なのに……。


「先輩……?」


「その時の颯斗を作り出した原因……私なの」


 丁度はーくん達は別のところに行ってるようで、二人きり。

 お店の外へ一度出て、近くのベンチに座って、事の真相を洗いざらい全てを彼女に打ち明けた。


「……そんなことがあったんですか」


「うん……。一週間程ひきこもっちゃうぐらい落ち込んだから」


 思い出すだけで涙が溢れ出しちゃうぐらい、その日だけは一番嫌な日だった。次点で桐華ちゃんとの出逢い。


「今は……そ、その……から……」


「すみません。なんて言ってるのかさっぱりなんですけど」


「うぅ……はーくんが……なの」


 恥ずかしくて好きの一言が言えなくて、胸が別の意味で苦しくなった。


「というか……顔でさ、察しなさいよ……!」


「ふふっ……でもその気持ち、よく分かります。私も和人先輩のことが大好きなので」


 はーくんの事考え出したら急に逢いたくなってきた。

 理由なんて単純。彼にもっともっと好きになって貰いたいし、私もはーくんのことずっと好きでいたいから。


「……先輩が羨ましいです」


「村上さん……?」


「ふぇっ?あ、すいません……!何でもないです!」


心なしか落ち込んでるけど何かあったのかしら?


「えーっと……あ!そうだ!先輩って『Vermont』やってますか?」


「え、えぇ……一応は」


まだ分からないことだらけで上手く出来ないけれど、しっかりと楽しめている。

いつかはーくんと同じぐらい上手く慣れる為に……。


「……機会があったら一緒にやりませんか?」


「い、良いの?私下手だよ?」


「私も下手なんで気にしないで下さい、先輩」


初めてこの子が純粋に良い子だと思い、もしはーくんともっと早く出逢っていたらこの子が隣に居たんだと確信してしまうぐらい、初めて身内以外の人を羨ましく思った。

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