第23話 二人の距離 ※玲香視点

 はーくんと付き合えてから三日程経った。

 毎日が幸せで、日に日にはーくんが格好良く見えてドキドキしっぱなし。

 ただ相変わらずというか、桐華ちゃんははーくんを唆す。

 付き合ってるって言ってないから仕方ないけど……桐華ちゃんは可愛いからちょっと妬いてしまう。


「むぅ……」


 ほらまた、今日もはーくんに近付いてる。


「あ……っ」


 ズキッと胸が張り裂けそうな痛みが襲い、俯いてしまった。

 今にも泣きそうなぐらい悔しくて、羨ましくて、見ていられなかった。

 でもはーくんは、私を選んでくれた。


「……っ」


 嬉しくて思わず泣きそうになっちゃったけど、今は我慢。

 なんてしてると桐華ちゃんが話し掛けてきた。


「ねえ、河瀬さん」


「……何?」


 思わず身構える。まだ油断は出来ないから。


「もし別れるようなことがあったら、その時はすぐにでも萩谷君を貰うから」


 な……っ!そ、そんなの駄目なんだから!なーんて言えず、別の言葉が出てくる。


「そんなこと、絶対に起こらないから」


「ふふっ、楽しみにしとく」


 絶対に別れない、別れないもん。






 ☆






 その後桐華ちゃんは帰路に就いて、はーくんと二人きり。

 付き合ってからは、まだ二人きりの時間に慣れてない。


「玲香」


 名前を呼ばれるだけでかあーっと熱くなる顔、ただでさえ鼓動が激しいのに更に酷くなっていく。

 それにさっきの事もあって、その場にへたり込んでしまった。


「……別れないよね?ずっと一緒に居てくれるよね?」


「目に見えた挑発を真に受けてどうする……」


「だってぇ……」


 本当に怖かったんだもん。


「あのな、俺がそんな軽い男に見えるか?」


「……見えない」


 何に対しても一途なのは知ってるけど、やってるゲームがコロコロ変わるのがあって、断言しづらかった。


「それにさ、こんな可愛い彼女が居るのに……他の女に夢中になるような奴に見える?」


 か、かわ……っ?!か、かの……?!

 座り込んだ時以上に顔が熱くなって、鼓動も激しくなり、何とも言えない嬉しさと恥ずかしさと幸福感があった。

 心なしかはーくんも頬を赤らめていた。


「………………見えない」


 だから答えるのに時間が掛かった。


「なんだその間は」


 気持ちを悟られない為に思わず変なことを口走る。


「だって鼻の下伸びてたもん」


 慌てて鼻に触れるはーくん、何もないのにそれが可笑しくてお腹を抱えて笑ってしまった。


「ぷっ……ふふっ、そっちこそ真に受けてるじゃんっ」


「おま……っ、騙したな?!」


「騙されるはーくんが悪い」


 頭をがしがしと掻いて、顔が赤いまま逸らされる。

 笑いから落ち着いた私ははーくんの横顔を見ると、目線が唇に向かってた。

 付き合ってからはキスをしてない。恥ずかしいから。

 でも今なら……。


「ねえはーくん」


 誰も居ないなら……。


「んだよ……言っとくけど――」


 触れるだけのキス、それだけで十分な程だった。

 顔を離した後、俯いてはーくんの制服の裾をちょこんと摘まむ。


「あの時と、ちょっと違う……ね」


「お、おう……」


 お互い顔が真っ赤。

 目が合えば恥ずかしくて逸らし、誰も居ないからこの鼓動がはーくんに聞こえてないか、凄い怖かった。


「……か、帰ろっか」


「そう、だな」


 何とも言えない空気の中この先どうなっていくのか、楽しみな反面恐怖もある。

 今はこの距離感で、ちょっとずつ素直になっても良いかな。

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