第22話 二人の関係

 玲香と付き合ってから早三日程経つが、桐原に玲香と付き合ったことを告げられずに居た。

 玲香との距離は縮まっていくものの、相変わらず桐原は俺達の間に割り込むことが多かった。

 今日の放課後もまた桐原は俺と玲香の間に割り込んできた。


「萩谷君、ちょっと良い?」


「むっ……駄目に決まってるでしょ」


 玲香は俺の腕を抱いて、桐原から距離を開ける。

 桐原はそんなことは気にせずに距離を詰めてくる。


「お、おい……っ」


「こうでもしないとはーくんと……!」


「だからって……あ、当たってんだよっ」


 こそこそと小声で話す俺達を不思議そうにジーッと見つめる桐原。

 ただ心なしか、少し寂しそうな表情を浮かべていた。


「桐原……何かあったのか?」


「えっ……?」


「いや、なんか寂しそうな顔してたからさ」


 横から不機嫌であろう玲香の視線を感じるけど、今はそんなのは無視。

 とにかく桐原の事が気になった。


「……本当優しいね、荻谷君は」


「そんなことないと思うけど……」


「でも大丈夫」


 桐原は笑顔で玲香とは反対の腕に絡み付く。


「私も一緒に、良いかな?」


「……っ」


「えっと……」


 玲香は今にも泣きそうな顔で更に力を込めて、桐原はというと上目遣いで訴えてきた。

 玲香を取るか、桐原を取るか。けれど、答えなんて最初から決まってる。


「ごめん。それは出来ない」


 俺は面と向かって桐原にそう告げ、腕を取っ払う。


「……そっか」


「俺は――」


「分かってる。今更口に出さなくても良い」


 けれど、桐原の声は哀しげで震えていた。


「ねえ、河瀬さん」


「……何?」


「もし別れるようなことがあったら、その時はすぐにでも荻谷君貰うから」


 桐原は完全には諦めきれないけど、それでも応援はしてくれるようだ。


「そんなこと、絶対に起こらないから」


「ふーん、楽しみにしとく」


 仲が良いのか悪いのか、よく分からない二人の関係。

 これからも二人は今以上に仲良くして欲しいと願う俺であった。





 ☆





 その後桐原は俺達を教室に残して帰宅。

 幸い、教室には誰一人居ない。


「玲香」


 俺が声を掛けた瞬間、耳まで赤くなりその場に座り込んでしまう。

 涙目で見上げるその顔は、幼い頃とそこまで変わらない。


「……別れないよね?ずっと一緒に居てくれるよね?」


「目に見えた挑発を真に受けてどうする……」


「だってぇ……」


 俺は深く溜め息を吐き、その場に座り込んだ玲香と目線の高さを合わせる。


「あのな、俺がそんな軽い男に見えるか?」


「ううん……見えない」


「それにさ、こんな可愛い彼女が居るのに……他の女に夢中になるような奴に見える?」


 自分で言ってて途中で恥ずかしくなったのは内緒。


「………………見えない」


「なんだその間は」


「だって、鼻の下伸びてたもん」


 俺は慌てて鼻に触れると、玲香はお腹を抱えて笑い出した。


「ぷっ……そっちこそ真に受けてるじゃんか……っ」


「おま……っ、騙したな?!」


「騙されるはーくんが悪い」


 俺は頭をガリガリと掻いて、玲香から顔を逸らす。


「ねえはーくん」


「んだよ……言っとくけど――」


 玲香と俺の唇が触れ合い、顔を離した玲香の顔は赤く染まっていて、ちょこんと制服の袖を摘まんでいた。

 玲香とは二回目、付き合ってから初めてとなるだった。


「……あの時と、ちょっと違う……ね」


「お、おう……」


 お互いが真っ赤に染まり、ちょっとでも目が合うと互いが逸らし合う。

 教室には誰も居ないせいもあり、俺の鼓動の音が聞こえてないか少し不安になる。


「……か、帰ろっか」


「そう、だな」


俺達はまだ付き合い始めたばかり。

この初々しさが消えてくる頃はどうなっているのか楽しみだ。

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