第24話 口は災いの元

 あれから数日が経ち、特にこれといった変化もなく、最近暑くなったこともあって衣替えの時期が来た。

 休日な今日は相変わらず部屋でぐーたらしていたら、姉貴が部屋にやってきた。


「はやちゃん、お買い物行くけど一緒に来る?というか来て」


「なんで」


「なんでってそりゃあ重たい荷物を持って貰うために決まってるでしょ?」


「えぇー……」


 露骨に嫌そうな顔をすると、姉貴は次の一手を打ってくる。


「……じゃあいい、一人で行く。れいちゃんにこの事報告してやるんだから」


「ちょっと待て姉貴、なんでそこで玲香が出てくる」


「だってお買い物に付き合ってくれないから」


 だからなんでそんな不満そうな表情が出るんだよ……。


「分かった分かった。付いてけばいいんだろ」


「さっすがはやちゃーん、早速行くよ!」


 有無を言わさず玄関まで腕を引かれ、スマホとか一切持たずに家を出ようとした時だった。

 玲香がかなりのお洒落をしていて、お互い突然の事で少し驚きを隠せずに居た。


「あれ、れいちゃん。どうしたの?」


「……はる姉さんこそ、何してるんですか」


 視線の先は言わずもがな姉貴に引かれた際の腕。

 そんでもって玲香の表情はさっきの姉貴以上に、いつも学校で見るような不機嫌そうな表情を浮かべていた。


「何って、これからお買――」


「お、おう!玲香!珍しいな!そっちが来るなんて!」


「珍しくも何も毎朝いっつも来てるじゃん……で、私を置いてはる姉さんと浮気?」


 なんでそうなるんだ?!


「浮気だなんて酷いなぁ、だよ?」


 姉貴の思わぬ爆弾発言に玲香の雰囲気が変わり、これから夏だというのに俺の背筋がゾッと凍えた。


「……?」


「ちっっげーから!姉貴の買い物の荷物持ち!あっ……」


 慌てて言い止めたけど時既に遅し、更に玲香の雰囲気が変わる。


「……へぇ、私とはなかなか行かない癖にお姉ちゃんとは行くんだ?」


 玲香の顔は笑ってるはずなのに目が全然笑ってなくて、雰囲気も相まって金縛りにあったかのように体が固まった。

 この玲香がヤバいと本能的に気付いた時。


「はーくんの……バカあああああああああああああ!!!」


 玲香から手痛い一発を頬に食らって、走り去っていった。


「……いてぇ」


 こうなった元凶でもある姉貴も流石に引いていて、罪悪感からか何も話して来なかった。

 というか、結局姉貴一人で買い物に行った。





 ☆






 まだひりひりする頬を擦りながら、自室に戻ってベッドに仰向けになって倒れ込む。

 深く溜め息を吐くと出てくるのは、一連の玲香の表情。


「……か」


 あの玲香を見て最初に思ったのはやっぱり、可愛い。

 あんな玲香の私服は見たことがなく、凄く似合っていた。


「……玲香」


 でも結局はこの有り様、口を滑らせ玲香を怒らせてしまった。

 また一つ溜め息が出てくる。


「俺が謝るしかない、よな……」


 今回ばかりは俺が悪いんだ。疎遠になってしまったあの頃とは違う。

 今はちゃんと付き合ってるんだ。


「許されるかどうか分かんないけど、もうやるしかねえ」


 俺は腹を括り、スマホを持って玲香の家に向かった。

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