第20話 運動音痴
形式上、玲香と付き合うことになった俺は今まで我慢していたのか、玲香が凄く距離を縮めて腕を組んでいた。
今は二人で学校に向かってる途中、姉貴は気付けばもう姿がなく、もう学校に行ったようだ。
そんな俺達の前にもう一人、厄介な人が現れた。
「……玲香、ちゃん」
桐原は玲香をキッと睨み、もう片方の腕を引っ張る。
「桐華ちゃん……!離れてよ!」
玲香も負けじと腕を絡み付かせ、桐原に負けないぐらいの視線を送る。
二人は友達になったとはいえ、まだ俺を巡る争いはまだまだ終わらないらしい。
「むぅ……!」
「むむぅ……!」
そんな二人に挟まれ、深く溜め息を吐くしかなかった。
☆
時は流れて昼休み、玲香は案の定俺の元へ真っ先に向かってきた。
そんな姿を見たクラスメイトはというと、あぁまたかみたいな表情を浮かべて全く気にしてなかった。
俺としては嬉しいが何とも言えないむず痒い感覚があった。
「颯斗、いこっ」
若干頬が赤いのは無視するとして、晴れやかな笑顔で誘ってくる所が何とも言えない可愛らしさがあった。
当然俺はそんな玲香に見惚れていたので、ボーッとしてる。
「……?どうしたの?」
「あ、あぁ……っ、何でもない……っ」
今の俺は玲香よりも顔が真っ赤だろうな。
そんな顔を逸らし、鼓動がめちゃくちゃ煩かった。
「あ!もしかして……ふふっ」
「……なんだよ」
「なーんでもっ、早く行くわよっ」
玲香は俺の手を取って、屋上に向かって走り出した。
だけど運動音痴な玲香は階段の途中で足を踏み外し、落ちようとしてた。
「っ!玲香!!」
俺は咄嗟に腕を引っ張るも流石に重力には勝てず、俺が玲香を庇って下敷きになる形でそのまま落っこちた。
あまりにも突然の事で周りが騒然とし始める。
「は、はや……――お、――て……っ!――ねえっ!」
微かに聞こえる玲香の声、良かった無事で。
「――へ!――くっ!」
俺はそのまま意識を失った。
玲香が無事という事実だけを憶えながら。
☆
俺は不意に目を覚ます。
見慣れた少し陽に焼けたような色をする天井。
意識がゆっくりと回復していくのと同時に、手には柔らかくてひと度力を入れれば壊れそうな小さな手の感覚があった。
「はーくんっ!分かるっ?!」
「……分かるよ、玲香。いつっ……!」
背中と頭に激痛が走り、力一杯握り締めてしまった。
「……怪我は、なさそうだな」
「はーくんが庇ってくれたから……」
玲香は申し訳なさそうな、今にでも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
ほぼほぼ無意識に玲香の頭に手を乗せた。
「お前が無事なら、それで良いんだよ」
玲香は林檎のように耳まで真っ赤になり、顔を俯かせた。
「はやちゃん!!良かったぁ……無事で」
「姉貴……この通り、無事だ」
「本当にビックリしたんだからね?!はやちんが階段から落っこちたって……はやちゃんに何かあったらどうしよって」
姉貴は怒りながらも、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「ところで……はやちゃん」
姉貴は急に真面目な表情を浮かべ、唐突に何かを言い放つ。
「恋人として一緒にはなれなかったけど、これからもお義姉ちゃんとしては仲良くしてね?」
「……分かってるよ、義姉さん」
「ふふ……っ」
今日一日で色々と吹っ切れたんだろう。
「れいちゃん、いつまでそんな顔してるの?」
「はる姉さん……?!いつの間に……!?ってひゃんっ!や、やめてよ!もう!」
「善いではないか、善いではないか~」
そんな俺はじゃれ合う二人を見て、苦笑を浮かべた。
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