第18話 好きという感情

 あの後一人で辺りを彷徨いていると、桐原と出会った。

 桐原も何か荷物のようなものを持っていた。


「……荻谷、君?」


「よっ」


「どうしたの?」


 まだ俺がこんなとこに居るのが信じられないようで驚きを隠せず、お互いジーッと見つめ合っていた。

 時間にしては数秒、感覚としては数分間見つめ合ってただけだが、桐原の頬が赤く染まって目を逸らされた。

 今手に持ってる荷物で顔を隠す。


「……ぁぅ」


 初めて見る桐原の照れた姿が凄く可愛らしく見えた。


「……桐原でもそんな顔するんだな」


「する、もん」


 まだ恥ずかしいのか目は合わせてくれない。

 そんな彼女の姿を見て、前から気になったことを一つ聞いてみた。


「……桐原はさ、どうして俺なんかを?」


「わかん、ない……気付いたら、好き……だった」


「そっか」


 桐原の言葉を聞いて俺は、人を好きになるのに理由なんて必要なのだろうか?と考え出す。

 それでも、容姿で好きになる人も中には居るであろう。

 桐原の場合はそうじゃなかったってだけだ。


「荻谷君……今好きな人、居る?」


「居ない、だから聞いてみたんだ」


「そう、なんだ……」


 ただ俺の場合は桐原、玲香、姉貴の三人に告白を受けていて、なんならその三人にキスまでされている。

 一応返事は桐原だけ。姉貴は聞く耳持ってくれないから。


「なぁ桐原、人を好きになるのってそんな簡単なことなのかな」


「……わかんない、けど。これだけは言える」


 隠していた顔を出し、俺と再び目が合う。


「好きになるのに理由なんて要らない、荻谷君のゲームが好きだって気持ちと同じ」


 俺がゲーム好きなのと同じ……。


「一緒に居ると楽しい、嬉しい。一人だと寂しい、哀しい。好きってそういうもの」


「桐原……」


「だから、玲香さんに負けないから」


 彼女はそう言い残して、走り去っていった。


「え?ちょっ……行っちゃったよ」


 一体誰がそういう人に当てはまるのだろうかと考え込んだが、なかなか答えが見つからない。

 どちらかというと俺は一人の方が色々と悩まなくて済むから、誰かと一緒になんて考えたこともなかった。

 でも、高校生になって気付けたこともある。


「……今更どうこう考えても仕方ねえか」


 俺は今目の前にある問題を解決しないと始まんないからな。





 ☆






 暫くしてから家に帰ると、良い匂いが漂っていた。


「あ、おかえりー。お腹空いたよね?ご飯出来たから食べよ?」


「うん」


 昼間の時とは違う普段の姉貴に出迎えられ、夕食を取る。

 だいぶ反省してるのか、姉貴は物凄く静かだった。


「なあ姉貴」


「ん?どうしたの?」


「……ううん、やっぱ何でもない。御馳走様、今日も美味しかったよ」


 俺は席を立ち、流し台に食器を置いて自分の部屋に戻った。

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