第17話 気持ちの変化

 姉貴にまで告白された俺の日常はさらに壊れていった。

 家では姉貴に逃げ、学校へ着くと玲香と桐原の修羅場に付き合わされる。

 そんな状況が一ヶ月近く続いた。

 その間に季節が変わり、冬服から夏服へ衣替えが行われた。


「はやちゃん、なんで逃げるの?」


「あの日以降の姉貴のスキンシップが激しすぎるからだ!」


 今は家で二人きりで、お互いがラフな格好をしている状況だ。

 モデル顔負けな美貌を持つ姉貴が俺に抱き着いたりしたら、いくら弟でも理性が保てるわけがない。


「とにかく!俺は姉貴は姉貴だと思ってるから!それ以上近付くな!」


「……そこまで必死になること?」


「なるよ!姉貴は天然だから!」


 頭にはてなを浮かばせて、顔を傾げる姉貴。

 その表情が何となく可愛く見えてしまい、顔を逸らした。


「はやちゃん?どうしたの?顔真っ赤にして」


「な、なんでも……ない!」


 あぁもう!調子が狂うなぁ!なんで姉貴相手に真っ赤になってんだ俺は!

 俺は頭をがしがしと掻いて、家を飛び出した。





 ☆






 飛び出して着いた所は、公園近くのベンチ。

 一人で黄昏ていると買い物帰りの玲香と出会う。


「あれ、はーくん?」


「ん……玲香か」


「どうしたの?疲れきった顔して……またはる姉さん?」


 玲香は目付きが鋭くなり、俺を睨み付ける。


「毎日断ってる……でも、全然聞いて貰えなくて」


「ただでさえ桐華ちゃんが居るのに、はる姉さんまで参加してきたら流石に勝てっこないんだけど」


「んなこと言われてもな……」


 玲香はあの一ヶ月の間にいつの間にか桐原と仲良くて、一緒にゲームをする程までに仲が発展していた。

 ただ俺相手になると話は別らしい。


「というか玲香、その荷物は?」


「ん?これ?桐華ちゃんにお勧めされたデバイス買ってきたの」


 へぇ……なんだかんだ仲良くなっててホッとしている。

 でもあの桐原が薦めるデバイスねぇ……。


「もしかして有線か?」


「うん、そうだけど?」


「……お前無線使ってなかった?戻れる?」


 玲香のマウスは無線式で、小さくて軽い奴を使っている。

 というか、ヘッドセットから何まで全部俺と全く同じ奴でやってた。


「あぁ、桐華ちゃんもそんなこと言ってたわね。まあ私は今始めたばっかだし、違いなんて分かんないと思うけど……」


「最近調子は?」


「んー、ぼちぼちね。良い時と悪い時の差が……」


 少し悲しげに話す玲香、どうやらプレイの好不調の波が激しいらしい。


「誰もが通る道だ。ゆっくり慣れていけば良い」


「今かんどぬま?って奴に陥ってるらしいの」


 その言葉を聞いた俺はふと生前の父親の言葉を思い出した。


「ぴったりな感度なんてねえ、合わせにいくもんだって昔父さんが言ってた。まあそのお陰で今があるわけだけど」


「合わせにいく、ね……ありがとう。参考にさせて貰うわ」


「でも程々にな、一度落ちると抜け出せないからさ」


今は玲香だけランクの関係上一緒に出来ない事が多い。

カスタム部屋を作って桐原と一緒に教えたりする事が殆どであり、まだ初心者な玲香にしてはかなりの素質はあった。


「じゃあ私は帰るわ、また色々と教えてね」


「おう、気を付けてな」


俺は遠ざかる玲香の後ろ姿を眺めながら、どうしてか好きと言う気持ちが溢れ出てくる。

姉貴や桐原とはまた違った感情を抱いていた俺。

でもこれが何を意味するのか、まだこの時は気付く筈もなくてただボーッとその後ろ姿を見つめているだけだった。

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