第15話 過去 ※桐華視点

 放課後、帰り道であの女狐こと河瀬さんが萩谷君と一緒に帰っているのを目撃した私は、ただならぬ感情が襲い掛かった。

 確かに河瀬さんは魅力的な人だけど、私も負けてない。


「私だって……萩谷君を」


 ただ一つだけ負けを認めるとすれば、胸だ。

 萩谷君のお姉さんもだけど、それ以上にあの女狐に負けてることが何より嫌だった。


「はぁ……ゲームしよ」


 私の部屋でVermontを起動する。

 フレンド欄を見ると『since』こと萩谷君がオンライン状態になっていた。

 今日も誘おうかななんて悩んでると、カスタムマッチ中と出ていた。


「研究でもしてるのかな?」


 私は忙しい彼に構うことをやめ、訓練所に入って今日の調整を済ませる。

 だけど、この日に限ってなかなか上手くいかない。


「……っ、まただ」


 フレンド欄にちらつく彼の名前に二と入っていて、誰かと一緒にデュオでプレイしているのが分かった事で心が乱れている。

 私は吹っ切れるまで訓練所で調整した。


「前に言ってた友達とやってるのかな」


 でもプレイしているモードがランクではなく、カジュアル。

 誰かと一緒にやるにしても、あの彼がやるのはおかしい。


「……まさか、あの女狐と?」


 もしそうだとしたら……こうしちゃ居られなくなる。

 あんな奴に萩谷君は絶対に渡したくない……。


「萩谷颯斗……私の初恋」


 彼との出逢いはインターネットサーフィンをして居た時、とあるチャットサイトで知り合った。

 私が出逢った頃の彼はかなり精神的に病んでいた。

 その頃から悩みやらを聞いていく内に、気になる存在になり気付けば一緒に同じゲームをやったりする仲に。


 そして今やっている『Vermont』は彼から誘ってくれたもので、最初は難しくて泣いたりもした。

 でも私が上手くやると褒めてくれたり、アドバイスを貰う度に次第に好意を抱くようになった。


「転入前の……出逢い」


 あれは本当に偶然。まさか転入先が彼と同じ学校だったなんて……。

 私は彼の苦しい時期を知ってるし、今も。

 だけど彼の過去は愚か、家族の事すら知らない。


「……絶対に負けない、負けたくない」


 私は彼と出逢った時にすることをまとめたノートを開く。

 キスはした。告白だって。


「後はデートと、お料理……」


 今年も彼と一緒に過ごせると良いな。


「桐華ー。ご飯よー?」


 下から聞こえてくるのはお母さん、ちょうど良い時間だ。


「分かった」


 私はノートを隠し、下で待つ家族の元へ向かう。

 いつか彼にちゃんと振り向いて貰えるように、もっともっとアピールしなきゃ。

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