第12話 告白

 玲香の手作り弁当を食べ終えた俺は睡魔に襲われる。

 ぼーっとしてると欠伸が出た。


「眠たいの?」


「少し、な」


 弁当袋を端に置いた玲香は膝の上を綺麗に整えて、ぽんぽんと叩いた。これが何を意味するのか。


「……ちょっとだけなら、良いよ?」


「玲香……?」


 耳まで真っ赤に染まった玲香はなにか覚悟を決めたような表情を浮かべた。


「膝枕……私よりはる姉さんのが良い?」


「なんでそこで姉貴が」


「それとも……あの転校生?」


 桐原のことか?あいつも玲香に負けず劣らずの美貌を兼ね備えている。

 ただ桐原の事は玲香以上に何も知らないのだ。


「本当にどうしたんだ?最近らしくねえぞ?」


 玲香はスカートの端を力一杯握り締めた。


「……はーくんがどっか遠くに行っちゃいそうで、怖いの」


 怖い?一体どういうことだ?


「はーくんの隣は私……なの」


 きゅーっと胸を鷲掴みされたような感覚が襲い掛かり、凄く苦しい。なんなんだ?この感覚は……。

 玲香は俺に抱き着き、その場に押し倒された。


「……はーくん、好き」


 俺はそのまま玲香にキスされた。桐原がやったように。

 一瞬時が止まったかのような錯覚を感じ、されるがままになる俺。

 ただ桐原の時とは違い、もっとしたいという気持ちが強かった。


「んっ……私ははーくんの事が好き、はーくんの彼女になりたい」


「れ、玲香……そんなこと、急に言われても」


「今すぐ返事してなんて言わない。別にあの子と付き合っても私は後悔しない」


 俺はなんて答えれば良いんだ?考えれば考える程答えが出てこない。


「だから……私もはーくんと同じゲーム、やってみたい」






 ☆






 その後の俺達はお互いに無言になり、教室に居てもさっきの事で頭が一杯でまともに授業を受けられなかった。

 当然玲香も同じで、何処か上の空。目が合えば玲香は微笑む、変な空気が漂っていた。


「萩谷君」


 俺に話し掛けてきたのは超絶不機嫌な桐原桐華。

 理由はもう言わなくても察するもので……。


「来て」


 俺は超絶不機嫌な桐原に連れられ、教室を出た。


「……あれは何?」


「あれって……?」


「惚けないで。お昼休み、二人に何があったの?」


 鬼の形相で睨み付ける桐原に玲香にキスされて告白されたなんて言えるわけがない。

 何が起こるのか分かったもんじゃない。


「何にもねえよ……第一お前には関係ないことだろ?」


「ある。二人はどういう関係なの?」


「……ただの幼馴染だよ」


 それ以外に答えられる回答があれば是非とも俺に教えて欲しいぐらいだ。


「ふーん……じゃあ生徒会長は本当に荻谷君のお姉さんなんだ」


「どうしてそこで姉貴が出てくるんだ」


「だって、知らなかったから」


 桐原は一応転校生だからその事実を知らず、驚くのも無理もない。

 なんせ俺が入学した時は学校が大いに荒れまくった。

 あの学園のマドンナが重度のブラコンを拗らせたという事実が桐原を除く全生徒に知られている。


「それで……私ね。荻谷君にどうしても言いたいことがあるの」


「……付き合えって言うなら断ってる筈だが」


「そんなことじゃない。もっと重要なこと」


 重要なこと?一体なんだろう。


「Zachって聞き覚えない?」


 Zach……?って


「お前が……?!なんでここに!?」


「やっぱり。でも無理もないか、声出したことないし」


 桐原は俺が驚く姿を見て、嬉しそうに笑っていた。


「なんでここだって……分かったんだ?」


「それは本当に偶然だけど、あの時に出逢ったのは偶然なんかじゃない。だから改めて言うね、私と付き合って」


 今日は玲香に告白されたと思ったら、Zachさんこと桐原にも告白される俺。

 この告白がまた俺の日常が壊れ出す序章にしか過ぎなかった。


 一体どうなるんだよ俺の平穏な日常は……!

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