第11話 手作り

 俺が余計な一言を言い放って玲香の機嫌が悪いまま学校に着き、不穏な空気が漂っていた。

 と言ってもすっごい視線感じるし、目が合ったら逸らされるし、それでいて何でもないように装ってるのがバレバレ。


「萩谷おーっす……昨日あの後に何かあったの?」


「うっす大山。今日の朝俺が余計なこと言ったから」


「なるほどね」


 玲香の視線もそうだけど、ただもう一つの視線を近くから感じるんだよね。


「……むうっ」


 頬を膨らませて俺を睨んでいるのは、謎の転校生こと桐原。

 俺、桐原に何かしたっけ?


「……本当大変だな、お前」


「俺の平穏な日常を返してくれ……!」


 俺のこの願いは神様はどうやら叶えてくれそうになかった。






 ☆






 午前の授業を終えた俺は昼休みに入った。

 本来であればいつもの様に玲香と昼食を取るのだが、今日は姉貴に呼ばれて生徒会室に来ていた。


「あ、はやちゃーん!」


 部屋に入るといつもの様に抱き着いてくる姉貴。


「……姉貴、皆見てる」


「良いじゃん別に、気にしないの」


「あんたは気にしなくても俺が気にするの!!」


 俺は無理矢理姉貴を引き剥がした。


「うわーん!はやちゃんが反抗してくるー!」


「……だから言ったのに」


 流石の生徒会の役員の人もこれにはお手上げ状態。


「はやちゃん!もうちょっとお姉ちゃんを大切にするべきだよ!」


 生徒会の皆さんが引くぐらいの重度のブラコンを拗らせてなかったらな。


「だからブラコンじゃないもん!」


「だから勝手に心の声を聞くな!」


 毎回毎回怖いんだよ。


「……で、今日は呼んだ理由は?」


 どうせ一緒に飯とか言ってくるんだろ。


「理由?一緒に――」


「帰る」


 俺は姉貴の言葉を最後まで聞かずに生徒会室を後にした。





 ☆






 俺が生徒会室を出たら、すぐ傍に居たのはまさかの玲香だった。

 よく見ると小さな弁当箱が二つあり、玲香は驚きながら後ろに隠した。


「うわあっ!お、驚かせないでよ!」


「……こっちこそ驚いたっつーの」


 朝の件があるせいで顔を合わせるのが怖かった俺は、玲香から来てくれたことが少し嬉しかった。

 玲香はもじもじとし出して、玲香の目線は足元に視線を落ちていた。顔も若干だけど赤い。


「お、お弁当……つ、作りすぎたから……そ、その……んっ、あげる」


 俺の前に突き出されたのは、青の弁当袋。


「……い、要らないの?」


 真っ赤に染まった顔で潤んだ目で見つめてくる玲香が、物凄く可愛く見えて胸の辺りがきゅっと締め付けられた。


「い、要る……腹、減ってるし」


「そ、そう……」


 何とも言えない空気になった俺と玲香、中庭の近くのベンチで一緒に食べる為に一旦生徒会室前から離れた。

 移動した俺達は中庭の近くのベンチで座り、人一人分の距離を開けて玲香が作ってくれた弁当を開いた。


「玲香って、料理出来たんだな。知らなかった」


「っ……嬉しくなんか、ない」


 そんなこと言いつつも玲香は心なしか口元が少しだけ緩んでいた。

 俺の視線に気付いた玲香はまた目を逸らした。


「じゃあ戴きます……うまっ」


 流石に姉貴と比べてしまうが、凄く美味しかった。

 俺の味の好みなんて知らない筈なのに、弁当に入ってるおかずが全て俺の好きな味になっていた。

 俺は相当腹が減ってたのか、相当美味しかったのか分からないけど、あっという間に全て平らげた。


「……御馳走様、すっげえ美味かった」


「そ、そか……頑張って、良かった。えへへ……」


 照れ臭そうに微笑んだ玲香の笑顔がとても印象的でまた胸が締め付けられたのだった。

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