第8話 ゲーム

 姉貴と二人で家に着くと、俺は自分の部屋に向かう。

 姉貴はその間は夕飯の準備に取りかかり、俺は制服から私服に着替えた。

 私服に着替え終わった俺は父が俺の為に遺してくれたゲーミングパソコンの電源を入れ、とあるゲームを起動した。


「……飯はすぐ出来上がりそうだし、調整だけするか」


 俺は射撃訓練所というモードに入って姉貴が呼びに来るまでの間、ただひたすら的に向かって無心で撃ち続けた。





 ☆






 時間にして一時間程経った頃。

 マウスを振りすぎて腱鞘炎になりかけた腕と手をマッサージしていると、姉貴が部屋の前までやってきた。


「はるちゃーん、ご飯出来たよー?」


「今行くー」


 俺は訓練所を出てメイン画面に戻ったのを確認して、姉貴が待つリビングへ向かう。


「今日もありがと」


「帰りの事?まああんだけ騒ぎになったら注意しなきゃ駄目だからね。一応これでも生徒会長なんだから」


「じゃあ戴きます」


 俺は姉貴と今日学校で起こったことを言い合いながら、夕飯を共に過ごした。

 食べ終えた俺は流し台に食器類を置いて、ソファーに座る。


「はーるちゃん」


 姉貴が俺の隣に座って、身を寄せてくる。


「……近い」


「嬉しいくせに」


「姉貴じゃなかったらな」


 俺はそんな姉貴の横顔をチラッと盗み見る。

 学校では容姿端麗、才色兼備と呼ばれる姉貴だが、家に帰るとそんな姿は何処かへ行ってしまう。


「今日もするの?」


「そのつもり、あと少しで目標に届くから」


「そっか……本当凄いね。私には何もないから」


 姉貴は父親と仲違いのままで亡くなったことを聞かされたらしく、人が変わったかのように俺に尽くすようになった。

 二人に何があったのか俺は知らない。


「じゃあ俺部屋戻るわ」


「うん、おやすみ」


 だから今でも憶えている。父さんが俺に言った言葉を。


「支えてやれ、ね……」


 俺は自分の部屋に戻ってディスプレイを見ると、ゲーム内でメッセージが届いていた。

 送り主は『Zach』さん。このゲームを初めてからたまに一緒にやるフレンドさんだ。

 そういやこの前転校したって聞いたけど、上手く馴染めたのかな?


「お久し振りですっと……って早」


『お暇でしたら一緒にやりませんか?』


 向こうは引っ越し作業やらで、なかなかプレイ時間見つかんなかった筈だから久々にやりたくなったんだろう。

 そういうことなら俺は断る理由はない。

 それにこの人とやっている時は、お互いの事が手に取るように分かるから、何も言わなくても合わせやすい。

 それに二人でやって負けたことは殆どない。


『是非やりましょう』


 俺はそうメッセージを送り、パーティー招待を送る。


「うわ、見ない内にもうプラチナか……まあ俺はもうすぐダイヤ行っちゃうけど」


 相当頑張ったんだなと、改めてこの人は凄いなと思った。


『あれ?次勝つとダイヤですか?!』


 流石のZachさんも驚きを隠せないようだ。


「勝てば、ですけどね」


 俺はゲーム内ボイスチャットでそう話す。


『じゃあ絶対に勝ちましょう!私も負けてられませんね!』


 この人も相当な負けず嫌いで、負けたらよく泣く。

 だから是が非でもZachさんの為にも勝って、格好良い姿を見せたい。


『マッチング完了――。』


 俺は気合いを入れ直して、周りに合わせながらキャラクターをピックする。

 今回のマップは俺が一番好きな『工場』だ。


「――よろしくお願いします」


この試合、何がなんでも絶対に勝つぞ。

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