第6話 ごめん

 色々あった昼休みを終え、五限と六限の授業を軽く受ける。

 ただ珍しくこの二時間、玲香の姿がなかった。


 そして放課後、クラスは騒然となり部活に行く者、バイトに行く者が次々と教室を後にして俺と桐原だけが残された。

 玲香の鞄はあるが、本人はまだ戻ってきてない。


「……荻谷君」


「んー?」


「帰らないの……?」


 帰る、か。


「もうちょっとだけ待ってる」


 好意はないって言った癖に、幼馴染である玲香を待つだなんてとんだお人好しだろうな。

 桐原はもう帰るつもりなのか、既に鞄を手に持っていた。


「じゃあまた明日な」


「うん、バイバイ」


 可愛らしく手を振って教室を後にする桐原。

 空はまだ青さは残ってるが、橙色の方が多くなってきた。


「今日は何すっかなー……」


 玲香が戻ってくるの間までボーッとしながら、グラウンドで部活動に励む生徒を見ていた。





 ☆






 待ち続ける事二十分程、教室の扉が開く音がした。


「颯斗……なんで」


「どこ行ってたんだよ、皆心配してたぞ」


 俺は普段と変わらない接し方で問い質す。


「……颯斗には関係ない」


 そう言って鞄を持って、教室を飛び出そうとする玲香。

 だけど俺がそうはさせなかった。


「は、なして……!」


「……ごめん。嫌なこと思い出させて」


 俺は玲香の腕を掴んだまま、頭を下げる。


「何よ……それで機嫌取ったつもり?」


「今回は俺が悪いなって思ったから謝っただけ、帰ろうぜ」


「……そう」


 俺は玲香の腕を離し、自分の鞄を持って教室を出ようとする。


「ねえ」


 今度は玲香によって止められた。背中の制服を小さく摘まんで。


「今もゲームが好きなの……?」


「好きだよ、


 後半の部分は外の騒音や吹奏楽部の音色に掻き消されるよう、聞こえない声量で呟いた。


「……そっか」


 摘まんでいた手が離れて、なにかが吹っ切れた玲香が隣に並ぶ。


「じゃあ帰ろっか」


 今まで何度も見てきた玲香の笑った顔は、この時ばかりは照れくさそうにしていた。





 ☆






 昇降口まで二人で移動していると、見馴れたシルエットが下駄箱前に見える。

 当然さっきまで笑顔満開の玲香の表情が変わる。


「……やっと来た」


「桐原、さん」


 見つめ合う二人、人が変わったように睨み付ける玲香と物怖じしない桐原の背中には写ってはいけない何かが見えてしまう。

 絵画に描かれた白い虎と青い龍が。


「いこ、颯斗」


 俺の手を取って桐原の前を素通りしていく玲香とそれを止める桐原。


「あんた、離しなさいよ」


「そっちこそ」


それこそ転校初日とは言わないけど、確かに修羅場が出来上がっていた。

相手は勿論なんでか俺だが……。


「あ、あのー……お二人さん?落ち着いて?ね?」


「颯斗は黙ってて」

「荻谷君、静かにして」


息を合わせて言い放った二人。いや、ここ昇降口なんですけど……。


「桐原さん、颯斗が困ってるの。離して貰えないかしら?」


俺が困ってんのはお前らの喧嘩の方だ。


「河瀬さんの方こそ、一緒に帰るって約束したから」


あの桐原さん?俺一言も言ってないし、そんな約束してませんからね?

そんな口論が続く中、野次馬達がみるみる内に増えていく。


「もう何でも良いからさっさと帰らせてくれ……」


俺は家に帰ってゲームがしたいんだ!

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