第5話 過去 ※玲香視点

 私には幼馴染が居る。いっつもゲームばかりしてるどうしようもない男の子。

 顔は少し格好良くて、ゲームさえしてなかったら普通にモテたと思うぐらい。


「……思い出させないでよ、バカ」


 今から二年程前、幼馴染である颯斗と疎遠関係になってしまった時のお話。





 ☆






 中学二年ぐらいの時期、私は相変わらず運動が苦手で、絵が描くことが好きだった私は美術部に入っていた。

 颯斗はパソコン部らしいけど、彼が部活に顔を出した日なんて見たことがない。

 そんなある日、私はいつも通り颯斗と一緒に学校に行って友達と雑談してた時。


「ねえねえ、玲ちゃんと荻谷って付き合ってんの?」


「へっ?」


「あー私も気になってた。その辺どうなのよ?二人は幼馴染とは聞いてるけど」


 いつもの恋バナで、颯斗といずれそうなりたいと思ってた私は恥ずかしくて言葉を詰まらせていた。


「玲香ってこの間も一緒に居たよね?そこんとこどうなのよ?」


 いつの間にか周りに居た女子達が集まって、今か今かと私の言葉を待ち続けていた。

 私はこの時は「そりゃ幼馴染なんだから、一緒に居るのは普通の事じゃん」なんて言って誤魔化した。


 帰り道、さっきの事があってか変に意識しすぎてた私はちょっとだけ距離を開けて歩いていた。

 でも颯斗は全く気にしてなくて、それに腹を立てた。


「どったの?何かあった?」


「なーんにも」


「玲香はすげえよな。友達一杯居てさ」


 不意に出てきた颯斗のこの言葉にちくりと胸を刺された。

 別に欲しくてそうなった訳じゃないし、気付いたらこうなっちゃったなんて言える筈もなく。


「いつまでもゲームばっかしてるからよ」


「別に良いだろ、好きなんだから」


 普段なら笑って誤魔化せたこの件は、今日だけはそうはいかなかった。


「ねえ……ゲームと私、どっちが大事?」


 不意に出たこの言葉、どっちも大事なのは一番私がよく知ってるのに。


「えっ?」


 いきなり言ったんだから当然颯斗も困惑する。

 なのに私の口が止まらなくて、次々と彼を責める。


「答えて」


 頭の中と間反対な言葉が出る。颯斗、無理に答えなくていい。だけど現実は残酷だった。


「玲香と一緒に居ると楽しいけど……やっぱゲーム、かな」


 ゲームに負けたんだ、私は。


「だってさ、こんなつまんない俺と一緒に居ても迷惑だろ?はっきり言ってくれても俺は気にしないよ」


 多分世間体気にしすぎるあまり、出た言葉なんだと思ってる。

 そんなことない。つまんなくなんてない。迷惑なんてこっちが掛けてるもん。

 そう言いたい筈なのに。


「バカ……バカはーくん!なんでそう言うこと言うの?!」


「……言われたんだよ。玲香に近付くなってさ」


 ここで思い知らされた、彼と私の住む世界が違うということを。


「なんで……」


「そりゃ陰キャの俺が玲香って呼んでるのが気に食わねえんだろ」


「そんな、こと……」


 何故かないとは言い切れなかった。


「だから、俺なんかよりも他の人と一緒になりなよ。応援ぐらいは――」


 彼の頬を力一杯叩く。


!」


 この言葉を言い放って家に帰った私は、自分の部屋で大号泣した。

 その日を境に私と颯斗は学校だとお互い名字で呼び合うことになり、高校生になるまで颯斗と一緒に居ることはなかった。

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