第4話 バカはーくん
転校生の桐原桐華と玲香の二人による修羅場騒動があってから、早一週間が経つ。
噂をするものは居なくなったが、だからと言ってそのまま終わった訳ではない。
「荻谷君、一緒に食べよ?」
「桐原さん!荻谷君とは私と食べる約束してるって前にも言ったでしょ?!」
「知らない」
相変わらずの二人とそれに巻き込まれる俺、穏やかな日常は消え去ったのは本当だ。
「……前と同じでいいじゃねえか、三人で」
「荻谷君……」
頬を赤く染め見惚れている桐原と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる玲香の対照的な姿に頭を抱える俺。
そろそろ仲良くしてくれねえかな、この二人。
☆
そして俺と桐原、玲香を含めた三人でいつものように屋上で昼飯を取るんだけどここでもまた問題が起こる。
次は距離が近いだの何だのと言った愚痴に近いような玲香の言い訳。
「お前だけだぞ、喧嘩ばっかしてるの」
「それは……!二人の距離が近すぎるから監視が必要だと思って……」
「何がそんなに気に入らねえんだ?」
それ程答えられない問題なのか、何故か玲香は黙り込んでしまう。
制服のスカートの裾をきゅっと掴み、消え入るような小さな声で呟いた。
「……私だって、一緒に過ごしたいもん」
「玲香……」
やっぱり中学時代のあの事を、未だにずっと引き摺ってる。
俺達二人の関係が微妙にズレ出した、あの日の事を。
でも桐原はそんなことは知らないから、二人が作り出す空気がどうしても気になってしまったのだろう。
「……何かあったの?」
「まあな、気になってるんだろ?俺と玲香が学校じゃお互い他人のように接してるのをさ」
俺はもう気にはしていない。色々と吹っ切れたから。
「うん。どうして二人は幼馴染なのに他人行儀みたいなことを?」
「学園のアイドル様に――」
「やめて!!」
今度は大きな声で俺の話を遮った。
「本当に……やめて」
俺はこの時に初めて、玲香の心の傷の深さを目の当たりにする。
なんせ泣いていたから。
「思い出させないでよ……バカはーくん!」
玲香は階段のある扉を開けてそのまま何処かへ行き、俺はただその背中を見てるだけ。
本当……自分のこの性格が心底嫌いになる。
「荻谷君、河瀬さんが……」
「分かってるよ。だけど俺にはあいつを追う資格なんてない……だって嫌われてるからな、あいつに」
あの時の俺はどんな表情をしていたんだろうな。
出来れば、二度ともうあんな想いをしたくない。
「嫌われてる……?」
「ああ、本人の口からそう言われた」
だから今になって償おうとしてるのかもしれない。
「玲香の事、結構好きだったんだけどなぁ……」
「……今は?」
「あんな想いをするぐらいなら……好きなんて感情は要らない」
だから決めたんだ。俺はゲーマーとして生きていくって。
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