第3話 幼馴染
謎の転校生こと桐原桐華に唇を奪われた俺は、一体何が起こったのか分からなかった。
周りも同じなのか、しーんと静まり返っていた。ただ一人を除いて。
「あ、貴女……!な、なな……何、やって?!」
「好きだからした。それだけ」
「……っ」
それはまるで玲香に宣戦布告をするかのような物言いで、投げ掛けて俺の胸に飛び込む。
玲香の絶望した表情によって、俺は一気に現実に引き戻される。
「お前……!離れろって!」
「きゃ……っ」
多少乱暴な形となったが引き剥がし、朝と似た返答を彼女に強めに言い放った。
「……悪いが、お前の気持ちには応えらんねえ。お前は知ってても俺は何も知らねえからな」
今度は彼女が酷く落ち込んだ。
「だけど、これから一緒のクラスになるんだから……まあ、友達としてなら良いぞ」
「……荻谷君」
俺は初めて彼女の笑った顔を見たはずなのに、何処か見覚えのある顔だった。
☆
朝の騒動のせいで噂が学校中に広まってしまい、俺は教室に居られなくなり、屋上で寝転んで空を見上げていた。
青く清んでいるこの空を見ていたら、見覚えのある顔が映る。
「……やっぱりここに居た」
「悪いか」
「ううん」
そのまま定位置に座って、一緒になって空を見上げる。
「…………綺麗だね。真っ青」
「だな」
今隣に居る玲香は、一体どんな気持ちでこの空を見ているんだろうか?
晴れやか?もやもや?それは分からない。
「ねえ、はーくん」
「ん?」
「……やっぱ、なんでもない」
玲香は頭を横に振って顔を上げた。
何処か遠くの方を見て、儚げな表情で空を見つめる玲香は凄く綺麗で一瞬だけ見惚れてしまう。
高校生になってから昔のようにとはいかないけど、よく絡むことが多くなった。
彼女は未だに中学時代の事を気にしてるのかもしれない。
「わっかんねえ……」
俺はこれからの事と、高校生になってからぐいぐいと来るようになった玲香に対して小さく呟いた。
☆
そして放課後。
俺はいつものように教科書や筆記用具を鞄に入れ出した時の事。
また事件が起こった。
「荻谷君、帰ろ?」
声を掛けてきたのは、今まで教室内で避けていた玲香からでまた教室内が騒がしくなる。
家はそこそこ近いから別に問題はないのだが、陰キャ代表の俺と学園のマドンナ的存在の玲香とじゃ立場が違う。
「いい、けど……」
「じゃあいこっ」
俺の腕を掴んで教室を飛び出し、皆に見られながら学校を出た。
誰も居ない帰り道で、普段通りに接する俺は急に立ち止まった玲香を心配する。
「……玲香?どうしたんだ?」
掴んでいた腕を離し、振り返る玲香。
「颯斗はさ、あの子の事どう思ってるの?」
「どうって言われても……まだ何とも」
今日出逢ったばかりの彼女の事を聞かれても、流石に分からないとしか言いようがない。
玲香の事なら多少は答えられたかもしれない。
「そっか」
玲香は納得してくれたようで俺はホッと胸を撫で下ろす。
「颯斗、今日も早く寝なさいよ?」
「やだよめんどくせえ」
「こっちの身にもなれって言ってるのよ!」
いつもと代わることのない玲香との言い合い、玲香と一緒に居ると退屈な学校が少しだけ楽しく思えた。
だけど、中学から玲香は変わってしまってもう手が届かないところまで行ってしまったのに。
だからかな、独り占めしてるみたいでこういう時間も悪くないなと思った。
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