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「甘えるのと依存するのは違うと思うんだけど。ていうか、こんな綺麗なマンションに置いてもらってる時点で十分甘えてるから。私の稼ぎじゃとてもこんなマンションの家賃は払えないし」
「ちなみにここ賃貸じゃないけどね」
「…とにかく。これ以上蘭さんに頼ってたら私、そのうち蘭さんなしで生きられなくなっちゃうじゃん」
「…………なっちゃえばいいのに…………」
「え?」
「ううん何でも。ねえ、どうか気を悪くしないで欲しいんだけど、女の人って奢られたり貢がれたりしたら嬉しいものじゃないの?」
「うーん…」
世間にはそういう種類の女がいることは知っている。愛情や賛美といった気持ちを金やブランド物のバッグといった、わかりやすい形で受け取るタイプ。
そりゃ金を使わずに済むなら楽だし、何かの折に欲しかったものをプレゼントされたら嬉しいと思う気持ちは、私にだってある。
でも、私は幸い自分の身の回りのものくらい自分で買えるし、そもそも自分のことは自分の力ですべきだと思うし…という私のこの感覚は、割と一般的ではないだろうか。
人から何かを貰い続けるのは、ましてやその量が過多であったり自分に不相応なものだったりするのは、困る。与えられることが当たり前になってしまい、その状態に甘えきった頃に、突然無くなってしまえば、もっと困る。
何ごとにも対価というものはあるのだし、何ごとも永遠に続くことなんて有りえないのだし、ましてや人の気持ちなんて言わずもがな。
たった一言、何かの拍子に口から出てしまった本音で崩れ去る人間関係も有れば、歳をとっていく女を魅力が無くなったとしてある日アッサリ捨てる男がいる。
他人をアテにして生きる人生なんて、私には考えられない。
というか、
「蘭さんがそういう風に思うのは、その、これまでの彼女さんが、皆そんな感じだったってこと…?」
「あー、ううん。そういうわけじゃないんだけど、ね。そもそもマトモに付き合うのはアキちゃんが初めてだし」
「えっそうなの?…ん?“マトモに”ってどういう、」
「だから大事にしたいんだよ、アキちゃんのこと」
満面の笑みですり寄ってくる蘭さん。
私は「
「要するにアイツはね、アホの子なのよ」
リツカさんはバッサリと自分の弟を切って捨てた。
「あんた、蘭の使ってる布団についてのエピソードは聞いてる?あの、時代劇のセットにでも使われてそうなくらい、古臭いアレ。部屋の雰囲気にも合わないってのに、蘭ったら押し売りのババアに押され負けてたっかい値段で掴まされたのよ」
「はあ」
いつかのお礼をと思い、菓子折りを持って喫茶店にやってきた私は、客がいないのをいいことにテーブル席でタバコを吸っていたリツカさんと、向かい合わせで一緒にお茶をしている。テーブルの真ん中には、持ってきた菓子折りがさっそく広げられており、何故か私までご相伴に預かっている状態だ。
蘭と仲良くやってる?と言う質問に、ついこの前のプリンターの下りを話したところ、出るわ出るわ弟の天然エピソード。
幼少期。近所に住んでいたガキ大将に「満月は走って追いかければ捕まえられる」と騙されて深夜1時まで月を追いかけ続け、隣町で保護された。
少年期。マイ
思春期。修学旅行でバスに乗り遅れ1人取り残されたが、電車を乗り継ぎ何故か誰よりも早く自力で目的地に到着。他のみんなが来るまで1人で大いに観光を楽しんだ挙句、点呼の時にはシレッと輪に混ざっていた。
青年期。遅めの成長期を迎え、数ヶ月で背が一気に伸びたのが目立ったせいか不良グループに目をつけられる。無理矢理路地裏に連行されるも、初喧嘩にして複数人相手に完全勝利をもぎ取り、何ごとも無かったかのように帰宅した。
「………破天荒ですね」
「ま、アタシほどじゃないけどね」
それはそれは。私は苦笑するしかない。
「それにしても最後の、喧嘩に勝ったっていうエピソードは“天然”とは関係なくないですか?」
「それがアイツ、インドアな自分が喧嘩の得意な不良グループに勝てたのは、おかしなDVDのお陰だとか言い出すのよ。当時アイツが妙にハマってたヤツなんだけどさ」
「それって…」
「その内容ってのがまた、武道の教材とかじゃなくて、ほら、なんていうの?なんかやたら激しい動きの…音楽に合わせてやるんだけど、ダンスっていうよりは体操?みたいな」
「ジャンル的にはエアロビ、になるんですかねあのDVDは」
「そうそうエアロ……待って、アイツまさか」
「今でも毎朝やってますよ彼。バジリスクとかコンドルがどうとかって」
あのバカ!とリツカさんは頭を抱えた。
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