怪しい男

私は、大学近くのカフェでアルバイトを始めました。

初めてのアルバイトで緊張していましたが、仕事に慣れてくると楽しくてしょうがなかったです。

でも…今後の運命を変える出来事が起きたのです。


ーーーカランッとお店の鈴が鳴り、帽子を深く被った男の人が入り口に立っている。


「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ!」と店員に言われ奥の席に座る。


男は席についても深く被った帽子を取ることはなく、不機嫌そうに腕を組み座っている。


「いらっしゃいませ、ご注文お決まりでしたらお伺いします」

「……ん、コーヒー」

「…へ?あ、コーヒーですね!かしこまりました。ご注文は以上でしょうか?」

「………」

「…し、失礼致します」と一礼し立ち去る。


注文し終えてもずっと腕を組み何もせずに座っている。

その、異様な雰囲気の男はお店で噂になっていた。


「あ、あの…奥の3卓の人ずっと腕組んで座ってて怖くないですか?」

「あぁ、あの人か…あの人はここの常連さんで新人に厳しいんだよ。気をつけてね…柚芽ゆめちゃん」

「そうなんですか…緊張しますね。頑張ります!」

「うん、頑張ろう!さ!仕事、仕事」


仕事が終わり、家に帰ろうと夜道を歩く。

この辺りは街灯が少なく薄暗い、1人で歩くのはどこか心細い。

時々、後ろから足音が聞こえると少し不安になる。

この日は特に恐怖を感じていた。


(なんだか…落ち着かないな…今日は一日変なお客さんに監視されて疲れた)


後ろで聞こえていたはずの足音はすぐ近くで聞こえてくる。

服の擦れる音、革靴のコツコツという音が真後ろで鳴っている様に感じ慌てて振り返る。


「こんばんは、お嬢さん」と柚芽ゆめの肩に手を乗せる。


声を出そうとするが上手く口が開かない。

やっと出た声は小さく自分でも何を言ったのかわからない。


「!?……あ…」

「そんな、怯えないで。さっきカフェで会ったでしょ?ね?」と微笑んでいる。

「……へ?あ…常連さん?」

「そうそう。常連さんの堂本どうもと哉斗かなとって言います。僕」

「はぁ、堂本どうもとさんですか。何か、ご用ですか?」

「いえ、特に大事な用事はありません。今後もあそこには通うので挨拶をと思いまして」

「そうですか」

「はい。では夜道には気をつけて」と帽子を取りお辞儀をする。


今、きた道とは反対方向に歩いて行く男の後ろ姿を背中に感じ、振り向くことなく歩き出し家路を急ぐ。

家に着き、全ての部屋の電気をつける。


堂本どうもと哉斗かなと…さん。何してる人なんだろう…?歳が近いように思えた)


何をしているのかは、次の日の学校で知ることになった。

いつも1限の途中から来る男の人がいた。


「!?…あぁ!」と思わず声を上げたが手で口を塞ぐ。

「な、なに?柚芽ゆめ。あの人知ってるの?」と友人に小声で聞かれる。

「い、いや…知ってるって訳じゃなくて…バイト先の常連さん…」

「そう?常連さんなのに知らなかったの?」

「うん、別に話したりとかしないしね」

「それも、そうか。あ、ねぇ今日暇?」

「ん?どっか行くの?」

「うん、イケメンと合コン!どう?参加しない?」

「あー、ごめん!今、勉強に集中したくて彼氏とか作る気ないから…ごめんね!」

「おっけー!大丈夫、大丈夫!また、暇そうな時誘う〜開けとけよ?」

「おっけー!」


この会話が友達と話す最後になった。

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