第5話 一緒にゲーム
『ごちそうさま! 今日もおいしかったわ』
「へいよ。ありがとさん」
満足げな様子でレナが箸を置く。
俺は態度こそぶっきらぼうだけど、料理を褒められること自体に悪い気はしていない。
内心ではそれなりに喜んでいた。
やはり、褒められればうれしいもんだ。
ふと、そこで。
なんとなく思ったことをそのまま口したといった感じで、レナが呟いた。
『私もおいしい料理を作れたらな~。そしたらお腹が空いたときに自分で作れるのに』
その言葉には、本人は意識していないのだろうけど、わずかな羨望が含まれていた。
その羨望が俺に向けられているのは間違いない。
だから提案する。
「今度、料理を教えてやろうか?」
『え!? いいの?』
料理ができるようになりたい。
レナのこの願望も、ある種の未練みたいなもんだ。
「料理が作れるようになったら、お前も多少は満足できるだろ」
『ふふん、私は天才だからあっという間に上達して見せるわよ。海斗の舌をビックリさせてあげるわ!』
「自分に自信持ちすぎだろ」
レナのポジティブ思考を羨ましく思いつつ、俺は頭の中でカレンダーを開く。
日程はすぐに決まった。
「今度の週末、料理教室を開催する!」
『ドンと来なさい!』
俺は自信ありげに胸を張ったレナを見て笑う。
どうやら教え甲斐がありそうだ。
◇◇◇◇
「さてと、久しぶりに遊びますか」
洗い物や諸々の家事を終わらせた後。
俺はソファに腰を下ろして、ゲーム機の繋がれたテレビを起動した。
数秒後、テレビの画面に有名なゾンビホラゲーのタイトル画面が現れる。
ゲームプレイ自体が久々だったから操作が若干おぼつかないけど、それもプレイしてるうちにすぐに慣れた。
いきなりゾンビが現れたりするたびにビックリして叫びながらも、プレイはおおむね順調。
一度ミスって死んだりしたものの、一時間程度で最後の中ボスである磁力を操る男を無事に倒すことができた。
「ふぅ~、ご愁傷様」
キリのいいところまで進んだということで、コントローラーを置いて一息つこうとした時。
マンガを読み進めながらも、俺のほうをチラチラと見ていたレナが話しかけてきた。
『ねぇねぇ、一緒にゲームしない?』
レナは悟られないようにしているつもりだろうけど、さすがレナクオリティ。
一緒に遊びたくてうずうずしていたのが丸分かりだった。
「お前って意外と寂しがり屋だよな」
『は、はぁ!? 別にそんなことないし!』
レナはいつもツンとした態度をとっているけど、中身はわりと構ってちゃんなのだ。
俺が話しかけなくても、すぐに向こうから話しかけてくる。
お互いに気を遣わない関係なのもあって、レナとのやり取りは気楽で……まあ、それなりに楽しかった。
『一緒に遊んでほしいとか一ミリも思ってないんだからね!』
「なら、風呂にでも入ってこようかな~」
『私は海斗をボコボコにする! ほら、宣戦布告したわよ! 逃げずにかかってきなさい!』
強引に話を進めたレナによって、俺たちは某大人気ゲーム会社の看板キャラが大集合した格ゲーをすることになった。
『端っこに寄りなさい』
レナに言われて、ソファーの端に詰める。
直後、レナが俺の隣にぼふっと勢いよく座った。
ふわりと甘い香りが鼻孔をつく。
拳三つ分くらいは離れているとはいえ、俺の体に緊張が走った。
『久しぶりに暴れてやるわよ!』
そんな俺にはお構いなしに、レナは関節をぽきぽき鳴らす動作をしている。
『痛っ!? ボキッて音したんだけど!』
指を押さえながらフーフー息を吹きかけるレナ。
その様子を見ていたら、ドキドキさせられているのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
やっぱ、ただの残念美少女だ。
そうこうしているうちにキャラ選択が終わる。
すぐに開戦の火ぶたが切って落とされた。
『空前メテオどーん! 埋めてゴリラパーンチ! 掴んで崖にどーん! 私の勝ち! なんで負けたか明日までに考えといてください!』
「んばあああああああああああああああ!!!」
俺は秒でボコボコにされた。
手玉に取られて、反撃する余地もなかった。
月とスッポンとはまさにこのことだろう。
「もう一回だもう一回!」
『いいわ。チャンスをあげる。私の慈悲深さに感謝しなさい!』
俺は意地になって何度も再戦したけど、結局スッポンのままだった。
『これで十連勝ね』
「お゛お゛ん゛!」
『私に負けたことが悔しすぎて壊れちゃったの?』
ドヤ顔で煽りまくってくるレナ。
どうしてもレナに勝ちたい俺が「別のゲームをしよう」と言いったことで、今度はこれまた有名なレースゲームをすることに。
こちらは実力が拮抗していて、白熱した試合になった。
「ふぅ、俺はそろそろやめるよ。明日も早いからもう風呂入って寝ないといけないしさ」
気が付いたらあっという間に二時間ほど経っていた。
時間を忘れてまでゲームに熱中したのはいつぶりだろうか?
もう少し遊びたいところだけど、これ以上は明日の生活に支障が出るから仕方ない。
『ん、楽しかったわ。また一緒に遊んであげてもいいわよ』
レナはそっぽを向きながら、『おやすみ』と一言だけ言い残してその場から消える。
それが照れ隠しであることは、付き合いの短い俺でも分かった。
一人残された俺はゲーム機を片付ける。
「まあ、悪くはなかったな」
自然と口から言葉が
バカ騒ぎしながら競い続けた二時間は、「また一緒にゲームしたいな」などと思ってしまうくらいには楽しかった。
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