二章 発端
おもんは、江戸から金毘羅参詣の旅にでることになったのです。
金毘羅宮で御神符を頂いて来るようにという事でした。
父は商売で、よく旅をするのですが、いままで一度も、そんなことを云ったことはありませんでした。
すこし不安がっていると、栄が察したのか「実家の米原に頼まれた物があったので、立ち寄って、渡してほしい」ということでした。
本当かどうか疑わしかったのですが、少し気は楽になりました。
おもんの母、栄は百々津から呉服屋の泉屋へ嫁いだのです。
母は武家の出なのです。藩の危機を泉屋が救ったのだそうです。
母が、泉屋へ嫁いだのは、その為だけでは無かったようです。
どんな危機だったのか気になります。
その為だけでは無かったという、その、その為だけでは無かった事も分かりません。
いまだに事情は話してくれていません。
深謀術策の臭い、甚だしいのですが。
と云うことで、江戸から大坂へ向かいました。
金毘羅参詣に付いて来たのは、万と久という二人の女中でした。
万は、母が泉屋へ嫁ぐ時に、米原から付いてきました。
本当は、道中、いろいろな面白い事や怖かったこともあるのですが、事情があって、ここでは云えません。
大坂から船で白亀の湊に着きました。
白亀の湊から街道を西へ向かって行きました。
百々津の北堀にある米原邸を訪ねて、頼まれていた包を米原直満に渡しました。
米原直満は、おもんの母、栄の実兄なのです。
直満伯父から、暫くゆっくり体を休めて金毘羅参に詣でるがよかろうと云われました。
母からも、もしかすると、と云われていましたので、逗留することになりました。
三月ほどすると庄原から祖父直紀が、叔父吉紀と一緒におもんを連れに来ました。
その間、直満伯父の妻、由から、おもんは武家の行儀作法を厳しく躾けられています。
身体を動かすのは得意だったので、薙刀の稽古は楽しかったのですが、長く正座をするのは、とても辛く、我慢できませんでした。足が痺れて困りました。
祖父の直紀は、三月の間に、何度も米原邸へ来ていたのですが、その度に庄原へ連れて行かれ、米原で泊まっていました。
そして、その都度、米原から直満伯父が迎えにきて、直紀爺と口喧嘩するのです。
直紀爺は、三月の間、今日、おもんの所へ行こう、明日、おもんの所へ行こうと毎日のように、おもんを連れ去ろうと吉紀叔父さんに云っていたそうです。
今回は、直紀爺がどうしても庄原で、おもんを預かると云って、半ば強引に庄原に連れ去ってしまいました。
どうやら、おもんの母と直満伯父との間では、北堀の米原で逗留させる事になっていたらしいのです。
そこへ直紀爺が、横から割って入り、縦に切り裂いて庄原に連れ去るという事態になったようです。
ところが、どうしたことなのか、直満伯父が折れたのでした。
事情は分かりませんが、庄原で預かることを直満伯父は承諾したのです。
ただ、ひとつ云えることは、おもんの行儀作法も一通り仕上がった。
ということかもしれません。
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