第4話 春、正反対の二人

真っ白な病院のベッドに座っている彼女は、まるでお人形のように可憐で綺麗だった。

だからなのか、それが余計に、彼女を儚く魅せていた。

青白い肌、細い手足、ほんの少し痩けた頬、そして、何重にも厚着をして厚い毛布を被っている姿を見ると、あぁ、彼女は本当に病気なんだと、決して治ることのない『雪滴病』なんだと、思い知らされた。

原因も治療法もないから、少しでも長く命を延ばすためには、こんなことしかすることがないのだと、まるでそう言っているようだった。

「今日は来てくれてありがとう。ごめんなさい、出せるものはないのだけど、良かったらここ、座らないかしら?」

そう言って彼女は窓際にあるパイプ椅子を指指した。

「あぁ、ううん、お気遣いなく。俺たちが急に来たんだし、それに、今日はこれを渡しに来ただけだから。」

「わぁ!凄い!それがさっき言ってた千羽鶴?」

俺が袋から千羽鶴を取り出すと、彼女は目を耀かせながら興味深そうに眺め始めた。

「そうそう!これクラスのみんなで作ったんだぜ!あ、あとこっちはプリントな!この千羽鶴どこに飾る?俺飾るよ!」

「ありがとう、篠田君。それじゃあ、ここがいいかな?」

「オーケー、任せて!」

二人はそんな会話をしながら、千羽鶴をベッドのちょうど左側の壁に飾り始めた。

俺はそれを見ながら、窓際のパイプ椅子に腰かけた。

「これって瀬名君も作ったの?」

「え?あ、うん、一応ね。」

「そっか、嬉しいなぁ。ありがとう!因みにどれが瀬名君のなのかな?」

「えっと、」

「お、これじゃないかー?あ、こっちは俺のだ!そうだ佐々木さん!これ、メッセージも書いてあるからあとで読んでみてよ!」

「メッセージも書いてくれたの?ありがとう!」

彼女の一挙一動にどぎまぎしてしまってなかなか上手く喋れない俺は、篠田と話ている彼女を横目で見て、たまに彼女がこっちに振ってくれるものに曖昧に頷くことしか出来なかった。


空が茜色に染まってきた頃、俺たちは帰ることにした。

「うわ、もうこんな時間かー、そろそろ帰んないとなー。」

「わ、本当だね。ごめんねこんな時間まで。」

「いや、全然大丈夫だよ。」

「そうそう!すっごい楽しかったし!な!瀬名!」

「うん、むしろ俺たちに付き合わせてごめんな、体調、大丈夫?」

「ありがとう、大丈夫だよ。私も久しぶりに凄く楽しかった!」

そう言って笑う彼女は、本当に楽しそうで、病気が蝕んでいるようには見えなかった。

「じゃあな、佐々木さん!」

「うん、じゃあね篠田君!」

「それじゃあ、お大事にね、佐々木さん。」

俺がそう声をかけると彼女が言った。

「ねぇ、瀬名君。また来てくれる?」

そう言われて、俺は少し戸惑ってしまった。

今日俺は彼女とはそんなに話せていないし、それなら篠田のほうが、なんて思ったが、彼女の寂しそうな顔を見ると、そんなことも言えず、

「うん、また来るよ。」

俺はそう返すしかなかった。しかし彼女は、その答えにどこかほっとした、嬉しそうな顔で笑った。

「ありがとう、瀬名君。またね。」

そう言って彼女は手を振った。


「佐々木さん、超美人だったなー!しかもめっちゃ優しいし、聞き上手なんだよなー!何話しても笑ってくれるの!おかげで話が尽きなかったわ!」

「…だな…」

病院からの帰り道、俺は篠田の話を聞きながら、彼女のことを考えていた。

彼女はずっと笑っていた。本当は苦しい筈なのに、辛い筈なのに、ずっと笑っていた。楽しそうだった。誰かと話ていることが幸せだと、そう言っているようだった。

「結構元気そうで良かったよ!案外軽い感じなのかな?もしかしたら治ったりするかもしれないな!」

「…だといいな。」

まるで、病気なんか吹き飛ばしてしまいそうな、そんな笑顔に、俺は目が逸らせなかった。

毎日を、毎秒を大切にして生きている。必死に病気に抗って、必死に生きようとしている、そんなふうに見えてしまった。

俺は、そんな彼女に、恋をしてしまったのだろう。

綺麗で凛とした、芯の通った、強い彼女に。

必死で生きている、彼女に。

それは、まるで、


『ボク』とは、正反対。


彼女の光は、『ボク』には眩しすぎる。

彼女の光を直接浴びてしまえば、一瞬で身を焼かれ、崩れ落ちてしまいそうだと、そう思った。

俺なんかが手を伸ばしていい光じゃない。

身の程を知れ。そう、言われているようだった。



(あぁ、だから、病院は嫌いだ。)




記憶の隅で『キミ』が振り返ったとき…。

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