赤髪①
カルナは驚異的なスピードで町に辿り着いた。そして、そのまま町の北の大通りを南へと走る。通りにはまだ早朝で、人の気配は無い。その中をただ、ひたすらカルナは屋敷を目指し走る。すると屋敷から、微かに煙が立ち昇っているのが見える。それを見てカルナの心に更に焦りが生じる!
「レナ、無事でいてくれ」そう零し、カルナは走り続ける。
すると、ぐんぐん屋敷が大きく見え始める。そして門の形が妙な事に気付く。
「何だ?」
その疑問の答えは、門に近付いてすぐに出た。それは鋼鉄の門の中央部分が、熱でドロドロに溶かされていたのだ。これはフレイの仕業に他ならない。
「誰か、いないのか!」焦りの混じった声でカルナが呼び掛ける。
しかし、返事は無い。急いでカルナは屋敷の表側に周る。すると、いくつかの黒い物体がぷすぷすと煙を上げている。恐らく、フレイにやられた兵士だろう。これが通りから見えた煙の正体……。
「レナッ!」
まさかこの中に?カルナの不安が増大していく。必死で燃えた死体を確認するが、酷く焼けていて判断がつかない。
「クソッ!」
カルナは諦めて、屋敷の中へ向かう。玄関の扉を蹴破り叫ぶ。
「レナー!居ないのか?誰か!」
すると、食堂につながるドアがゆっくり開く。
「誰だ!」カルナが、すぐ様呼び掛ける。
「わ、わわ、私です。ク、クレアです」そう言いながら、クレアが怯えて出て来た。
しかし相手がカルナだと確認するとホッと胸を撫で下ろす。
「ああ、エイモンド様。よ、良くご無事で……」
「クレア!レナは?レナが何処に居るか分かるか?」
「え?ああ、クリスティン様なら、恐らく主人と一緒に地下牢に居ると……。ジャン団長がそう言っておりました。ジャン団長も先程、向かいました」
「地下牢?そこには、どうやって行くんだ?」カルナは、焦りの為思わず、クレアの両肩を掴み、激しき揺さぶる。
カルナのあまりの剣幕に、クレアは少し慌てて、答える。
「え、ええ。へ、兵士の詰め所に、し、下へ降りる階段があります」
「詰め所?東側の建物だな?そこにフレイも居るんだな?」
「は、はい。恐らく……」
それだけ聞くと、カルナは外へ飛び出す。そして詰め所へ一直線に向かう。扉は開け放たれており、中から少し青白い光が見えた。カルナは急いでそこに向かう。すると床が開いており、中に階段が見える。青白い光はそこから出ていた。
「これは、レナの魔法だ」
レナはこの下に居る。そう確信し、地下へと伸びる階段を一気に駆け下りる。途中、左右に分かれる通路を見つけるが、構わずそのまま階段を真直ぐ下へと走る。すると、ついに階段の終わりが見える。階段を降りきり、前方の部屋へと飛び込む。するとカルナの目に飛び込んで来たのは、異様な光景だった。何と、人型をした炎の塊にレナが首根っこを掴まれ、持ち上げられていたのだ。
「レナー!」
カルナの声にレナと人型の炎が、同時に気付く。そして、その人型の炎が口を開く。
「ククク、ハーッハッハッ!なんとも、良いタイミングでやって来たな……」
カルナは驚きを隠せない。
「カ……、ルナ……、これ……っは、フ……、レ……、ィ」レナが、必死に言葉を振り縛る。
「フレイ!?」
カルナは一瞬、聞き違いかと思った。しかし、炎の化け物が自ら肯定する。
「フハハハ!そう言う事だ!俺は生まれ変わったのだ意志ある炎に!」
「そんな事はどうでもいい!レナを離せ!」カルナはフレイに叫びながらも、視線はレナから、放せない。
「離せ~?命令出来る立場か?貴様は?」
「頼む!離してくれ!レナは!レナだけは殺さないでくれ!何でもいう事を聞く!」
「何でも?じゃあ逆に何をしてくれるんだ?」
フレイに問われ、一瞬戸惑うが、すぐに答える。
「殺してやる……。貴様が殺したい奴を。町長だろうが、町の人間全てだろうが!」
「だ……、め、カル……、ナ……」涙を流しながら、レナがカルナを止めようと口を開く。
が、しかし。
「貴様は黙ってろ!」フレイがそう言って、レナの首を更に強く締め付ける。
「ん……、ぐ……」レナが息を出来ず、苦しみの表情を浮かべる。
それを見てカルナが悲痛の叫びを上げる。
「止めてくれー!」
「ククク……。カルナと言ったな。貴様が俺の願いを叶えられるとしたら、一つしかない……」
「何だ?それは?」カルナは脳裏に、何か嫌な気配を感じた。
「それは、俺と同志になる事だ……」
「同志に……?どういう事だ?」焦りだけが、際立って頭が回らない。
「どういう事……?それはな……、こういう事だ!」
言うと同時にフレイが目を一瞬大きく見開く。その瞬間。レナの全身が炎に包まれる……。
「うわあぁぁぁぁぁ……!」
衝撃でカルナの五感が機能を失う。何も聞こえない……。何も感じない……。世界が真っ白になっていく……。その真っ白な世界で、唯、視覚だけがレナが燃えていく様を、ゆっくりと、ゆっくりと映し出す……。レナの体が、レナがこの世から消えていく。足が消え去り、腰から胸が、更に、炎は首から顔へと向かう。レナの涙が蒸発していく様までカルナの目は捉える。そして、最後にレナと目が合う。その目は、まるで自分に何かを訴えているようだった。
その目を見て、カルナは自分の本当の気持ちに気付く。
“俺は……、俺は……、レナの事が……、レナの事が…………。”
そして、レナの姿が完全に消え去ると共に真っ白な世界もまた、徐々に消えていく……。
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