真実⑦

「それでも、答えてもらうわ。赤髪の男は今、何処に居るの?」

「ククク……、知らないなぁ……」

フレイがそう答えると同時に、フレイの腹部にホーリーボールがめり込む。

「ぬぐぅあぁぁぁ……、グウッハッ」フレイが悶絶し、その口から赤い血を吐き出す。

「何でも良いから答えなさい!」レナが激しく命令する様に叫ぶ。

しかし、そんなレナを余所にフレイはニヤニヤして答える。

「ククク。今のは死ぬかと思ったぞ……。もう時間が無いのか?顔に焦りが滲み出ているぞ……。ククククク」

「質問に関係ない事は喋らなくていいわ。答える気が無いなら、もう……」

レナが殺す覚悟を決めようとした時、またフレイが口を開く。

「おっと!そうだ、貴様に会った時、一つだけ奴の変わりに俺が教えてやっても良いと言われた事があった……」

「何なの?それは?」レナは必死に次のフレイの言葉に、耳を傾ける。

「貴様、奴が何故、滅ぼした町の生き残りをガキにしていると思う?」

「な、何故なの?」レナはその事を不思議に思っていた。

そして、それを赤髪の男の僅かな良心であって欲しいと願っていた……。

「それは、奴の最後の良心の欠片……」

レナはその言葉を聞いて、そう感じるのはおかしいのだが、少しホッとしてしまった。しかし、それも束の間、次のフレイの言葉でその気持ちは一気に崩される。

「なぁんてな。そう思われていたら嫌だから、誤解を解いといてくれだとよ。ククク。奴がガキを残したのは、血の量が大人に比べて少ないからだとよ。かと言って、小さすぎれば、貴様達に次の行き先を告げる事が出来るか疑問だ。ククク。それで奴は、出来るだけ体の小さい、そして尚且つ、貴様等に行き先を伝えられるギリギリの奴を選んだんだとよ。ククククク」

「あなた達って人はぁー!」

レナは怒り震える。それに反応する様に、フレイを取り囲むホーリーボールの数が一気に増える。その数およそ百。地下室全体が青白い光球に包まれる。

「ククッ。やっと殺す気になったか?」

「ええ……。その前に最後の質問……。あなたはその能力で人を殺した時、美しい音色が聞こえる?」

「音色……?ああ、聞こえるね。人が死ぬ時に奏でる魂の音色がなぁ」

「そう……」フレイの答えを聞き、レナが一瞬目を伏せる。

その隙をフレイは見逃さなかった。左手から一瞬で炎の球を作り出す。

「確かに貴様の勝ちだ!だが、そこの豚だけは!ジン=ハワードだけはぁー!」

フレイがずっと腰を抜かしていたハワード町長に向かって、炎の球を投げつける。それは猛スピードで、一直線にハワード町長に襲い掛かる。

「う、うわぁぁぁ……!」

ハワード町長が恐怖の雄叫びを上げる。しかし炎の球は、またしてもハワード町長に当たる寸前で弾け、消え去る。そして、ハワード町長が気を失い地面に倒れる音だけが静かに聞こえた……。

「さよなら……。フレイ=バーンズ」レナがボソリと零す。その声には、もはや、震えなど無かった。冷ややかな視線をフレイに送る。

すると、全てのホーリーボールがフレイ目掛け、一気に襲い掛かる!

「ぐおおお……。この女だけでなく、神よ!この俺よりも、あんな豚野郎の存在の方が必要だと言うのかぁぁ……!」

その言葉を最後にフレイは光の中へ消えて行った。

「終わった……」レナは静かに目を閉じる。

地下全体を静寂が包み込む。まるで、何かに音を食べられてしまった様だ……。そしてレナは、カッと目を見開く。

「いえ、まだだわ!まだ赤髪の男が残っている」

レナはそう零し、ジャン団長の方へ歩みを進める。魔法力が尽きる前に治療しなくては……。レナが今日一日、魔法を使えなくなる以上、ジャン団長も赤髪の男との闘いの戦力になってもらわなければならない。

「ジャン団長……?」

レナが声を掛けるが返事は返ってこない。見ると頭部から血が流れているのが分かる。レナの心に一瞬動揺が走る。しかし、微かに胸の辺りが動いているのが分かる。どうやら気を失っているだけのようだ。レナは胸を撫で下ろす。

そして、そのジャン団長の姿を見てレナの脳裏に何かが閃いた。何だろう?とても大事な事の様な気がする。レナは必死にその何か考える。と、その時、レナの後ろから、明るい光が差し込む。

「な、何?」慌てて、レナが振り返る。

そこには何と、一メートル程の大きな火の玉が浮かんでいた。そして驚いた事に、その炎が徐々に人の形を形成していく。




「何なの、一体?」

他に誰か居るの?レナは辺りを見渡すが、ハワード町長が気を失って倒れているぐらいだ。そして次の瞬間、レナは驚愕する。何と人型をした炎が、口を開きだしたのだ。

「ククククク……。そうだ……。俺が望んだのは、これだ……。この姿だ……。俺は炎を使える様になりたかったんじゃない……。炎そのものになりたかったんだ……」

まさか?このセリフを聞き、レナに一つの信じたくない考えが、脳裏に浮かぶ。そして人型の炎の次の言葉で、その考えは確信に変わる。

「ありがとう。礼を言うよ……。貴様が俺を殺してくれたおかげで、俺は本当に望む姿になれた……」

「あなた……。フレイ=バーンズ……?」恐る恐る、レナは質問した。

「ああ、そうだ。今さっき、貴様に殺されたな」

レナの心臓が、大きく一回脈を打つ。額からは大きな汗が流れ出す。そして鼓動が、一気に加速していく。人が死んでモンスターになって生き返った?じゃあ、やはり、あの蜥蜴のモンスターはアックス兄弟?本当にそんな事が?だとすると、これまで私が倒してきたモンスターも元は人間……?。

いや、そんなはずない!以前戦ったモンスターは人の言葉など、喋らなかった。ただ襲って来ただけだ。人の様な知性など、まるで見受けられなかった。じゃあ、目の前のこいつは何?レナは頭が混乱しそうになる。

「ククク……、こんな時まで考え事か?」

レナはフレイの言葉で我に帰る。そうだ。考えるのは後で良い。まずは、目の前の敵を何とかしなければ……。幸い、フィーリングスピリットの効果は、まだ残っている。

「あなたが何になりたかったかは知らないけど、もう一度死んでもらうわ」

レナはそう言うと、何十ものホーリーボールを作り出し、フレイ目掛け打ち放つ。しかし、フレイは微動だにせずホーリーボールの直撃を喰らう。フレイの身体となっている炎が弾け跳ぶ。

「た、倒した……、の?」

レナがそう思ったのも束の間、飛び散った炎が集まり、また人型を形成する。

「そんな……」レナは我が目を疑う。

「ククク……、貴様は光で炎が消せるとでも思ったのか?」

どうすれば?レナの心に、どうしようもない、焦りが生じる。

「考えるだけ無駄だ。僧侶である貴様にこの俺は殺せん……。水や氷の魔法を使えない貴様にはなぁ。それ以外に、今の俺に弱点は無い……。何かの物語に出て来る様な、炎のモンスターみたいに命の核も無い。何故なら俺は、炎のモンスターではなく、意志を持った炎だからだ」そう言い放った後、フレイの体の炎がボワッと、一瞬明るく勢いを増す。

「意志を持った……、炎?」

「そうだ!そして、その意志とは全ての者に平等の死を与える事……」

「平等な死?」質問を返しながらも、レナの頭は、質問の答えよりも、どうすれば、この相手を倒せるのか。そのことに集中していた。

「そうだ!炎は全ての者に平等な死を与える!貧しい者も、金持ちも、醜い者も、美しい者も、そうフレアも!そこの豚さえも!皆、平等に灰にしてくれる!俺はこの町を初めに全ての生物を灰にしてやる」

「そ、そんな事はさせないわ!」

「ククッ……。どうさせないのか見せてもらおうか……」

フレイが一歩踏み出す。それに反応してレナが身構える。このモンスターは絶対にここから出していけない。レナは強くそう思うが、正直どうして良いか分からない……。そして、切に願う。“カルナ早く来て!”と。

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