真実⑥

「くふっ!」

しかし、レナが二人の動きを掴まえる前に、ついにジャン団長がフレイの攻撃を腹部に喰らってしまった。それでもジャン団長は、気力でその後の攻撃を何とか防ぎ続ける。

いけない!このままでは私が二人の動きを感じ取る前にジャン団長がやられてしまう。レナの心に焦りが生じる。

「仕方ない!」ポツリと零し、レナはホーリーボールの呪文を唱え始める。

はっきり言って、これはレナにとって大きな賭けだ。しかし、やらなければジャン団長が殺されてしまう。

今も、見る見る形勢が悪くなっている。成功して!そう祈りながら、レナは自分の意識を最大限に集中し、高め、呪文を放つタイミングを計る。

「ぐおお!殺られてたまるかぁ!」

気力を振り絞り、ジャン団長が攻撃に転じる。しかし、それをフレイはあっさりと躱し、更に攻撃に転じる。

「ここだわ!」レナがそう確信し、ホーリーボールを放つ。

と同時にジャン団長がフレイの動きに反応し、レナの放ったホーリーボールとフレイの間に割って入る形になる。

「ジャン団長、避けてー!」失敗だ。レナは自分の未熟さを恨む。

そして、何とかジャン団長が避けてくれる事を願う。

その願い通じて、ギリギリの所で反応して、ジャン団長が躱す。しかし、フレイもまたレナの声に反応して躱す。だが、ジャン団長の体で一瞬、死角が生まれ反応が遅れる。レナの放ったホーリーボールがフレイの右耳を抉り取る!その部分から大量の血が噴き出す。

「喰らえ!」

ここしかないとばかりに、ジャン団長がフレイに斬り掛かる。レナも、勝った。そう思った。耳を抉り取られて、怯まない人間等いるはずが無いと思ったからだ。

「ぐほっ!」

しかし、レナの耳に聞こえてきたのは、ジャン団長の呻き声だった。フレイの右拳が剣を振り上げたままのジャン団長の腹部にめり込んで行く。そして瞬く間にジャン団長の体が宙を舞い、そのまま壁に並ぶ牢の鉄格子を突き破る。

「ジャン団長―!」

レナが叫ぶ。と、同時に部屋全体が明るくなる。何?レナがフレイの方を見ると、フレイが直径一メートル程の炎の玉を作り出していた。そして、それをジャン団長目掛けて放つ。

「燃えて、灰になりやがれ!」

炎の玉が猛スピードでジャン団長に迫る。鉄格子を溶かし、ジャン団長に直撃する、かに見えたが、その寸前で、炎の玉が弾け、消滅する。

「何だと!」フレイが我が目を疑う。

「女ぁ!貴様の仕業かぁ!?」フレイがレナを睨みつける。

しかし、レナは何も答えない。

「いや……。出来るはずが無い。今の俺の炎を消し去る程の結界を、あの一瞬で。しかもこの距離で。女ぁ、貴様一体何を?」フレイが激昂する。

そんなフレイを余所にレナは静かに口を開く……。

「良かった……。ここの精霊とは相性が良かったみたい。でも、出来れば使いたくなかった。赤髪の男が現れるまでは……」

レナのこのセリフを聞き、フレイが更に怒り叫ぶ。

「なめやがって、貴様!この俺相手に、手加減していたと言うのか?」

このフレイのセリフもレナは無視する。

「こうなった以上、あなたには赤髪の男について知っている事を全て話してもらうわ」

これを聞いて、フレイの怒りが頂点に達する。

「何様だぁ?貴様ぁ!上から見下しやがって!」

フレイの周りに炎が渦巻く。そして、その炎が一瞬で竜の形へと変化する。

「炎に喰われて、死にやがれー!」

フレイの叫びと共に炎の竜がレナ目掛け、一直線に襲い掛かる。しかし、レナは微動だにしない。そして、炎の竜はレナの直前で弾け、消滅する。

「なっ?バカな!」フレイが驚愕する。

「無駄よ……。あなた程度じゃ、ホーリーシェルは破れない……」

「ホーリーシェルだと?そんな高等魔法を唱える暇など、無かったはずだ!」

「これは、私の村の人間しか知らない奥技……、と言っても、扱えるのは、僅かな人間だけ……、だから名前も無い。私は勝手に『フィーリングスピリット』って呼んでいるけどね」

「フィーリングスピリットぉ?名前など、どうでもいい!何々だ?」

「簡単に言えば、精霊との意識の統合。もっと砕いて言えば、この部屋中の精霊の意識が私の意識でもある。つまり、今あなたは私の意識下に居る、という事よ」

「貴様の意識下?」

「ええ、そうよ。だから、こんな事も出来るわ……」

レナがそう言うと、フレイの周りを取り囲む様にポツポツと幾つもの光の玉が浮かび上がる。

「な、何だ?」フレイが急に光の球に囲まれ動揺する。

「今、あなたの周りにある、その光球は全てホーリーボールよ」

「ホーリー……、バ、バカな。ホーリーボールを同時にこんな……。出来るはずが無い!」今まで、激しく動いても一滴の汗も流していなかった、フレイの顔に汗が吹き出る。

「今から、私の質問に答えてもらうわ」レナが強い意思を込めて、フレイに命令口調で言い放つ。

「フン!どうせハッタリだ。騙されると思うか?」

フレイがレナの言葉を無視して前へ一歩、踏み出そうとしたのと同時に、フレイの周りにある二つの光球がフレイの右腕を前後から挟むように襲い掛かる。“ベキィィィ!”と鈍い音が響き渡る。

「ぐああああ!」フレイが激痛で叫び声を上げる。

「どう?ハッタリじゃ無いって分かったでしょ?」レナの声は少し震えている。

「ぬ、ぐぅぉぉ……貴……、様ぁぁぁ!」フレイが左手で右腕を抑えながら、レナを鬼の様な形相を浮かべ睨み付ける。

「答えなさい!赤髪の男は、一体何者なの?」

「赤髪の男?フッ、奴は俺の同志だ……」フレイがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「そんな事を聞いているんじゃないわ。彼の能力は何なの?知っているんでしょ?」

「奴の能力……?知らないなぁ……」

「知らない?とぼけないで!」

「これは、本当だ。奴は俺が聞いても答えなかった……。だが、奴と貴様の話を聞けば、奴の能力が何なのか、大体想像つくがな……。ククク」

「それは、一体何なの?」

「ククッ、教えると思うのか?それぐらい自分で考えるんだな」

「また、喰らいたいの?答えなさい!」レナの声がまた少し震える。

「やりたければやればいい。流石に俺でも、ホーリーボールを何発も喰らえば生きてはいまい」フレイが挑発するように、笑みを浮かべる。

「死んでもいいって言うの?」レナは殺気を振り絞り、フレイを睨み付ける。

「クククッ。どの道、貴様は俺を殺すしかないと思っているのだろう?」

「くっ」レナは図星をつかれて、何も言えない。

「やはりな、貴様の奥義とやらは一日に何度も使えるものじゃない。だから貴様は、ギリギリまで使わなかった。さらに、この奥義は時間にも制限がある。そうだろ?それは、貴様の言動を見れば分かる。だから貴様は、その制限時間内に俺を殺さなければならない。生け捕りにしようにも、鋼鉄をも溶かす俺の能力がある限り、何処にも閉じ込めておけないからなぁ」

ホーリーシェルを使えば生け捕りに出来る……。だが、フィーリングスピリット発動中に使った魔法は、どんな魔法でも術者の魔法力が無くなると同時に、その魔法の効果も消えてしまう。だから、フレイの言う通り殺すしかない。しかし、それまでに何とか少しでもいいから、赤髪の男の情報を手に入れたい。レナの気持ちに焦りが生じる。

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