真実⑤

上!?そう判断し、レナは顔を上に向ける。すると、フレイの靴の裏側が猛スピードで追ってくる。それをギリギリで、レナは後ろへ跳んで避ける。レナを外した蹴りが地面を砕く。飛び散る破片と共に、フレイがレナとの間を更に一瞬で詰め、右足でレナの左側頭部目掛け、回し蹴りを放ってくる。又しても、ギリギリの所でレナは上体を後方へ反らし躱す。

だが、今度はレナが体勢を立て直すよりも速く、フレイがレナのがら空きの鳩尾目掛け、左拳を振り下ろしてくる。

「もらったぁ!」フレイが直撃を確信する。

しかし、フレイの拳のスピードが一瞬落ちる。その僅かな隙間にレナは体を捻り躱し、そのまま後ろへ飛びながら、フラッシュボールを放つ。

それをフレイはあっさりと躱す。それでも、構わずレナがそこから何十発もフラッシュボールを連続で放ち続ける。しかし、フレイはその全てを躱し続けた。

「やるじゃないか。正直、驚いたぞ……」

確かにフレイは、レナの放ったフラッシュボールを全て躱した。しかし、今やレナとフレイの間は十メートルは開いている。そう、レナはフラッシュボールで、フレイとの間合いを遠ざけたのだ。

「さっきのは、シールドの魔法か?」

フレイがレナに質問そぶつけてくる。

「ええ、そうよ」

「ククッ。やはり、そうか。普通の奴なら、シールドの魔法で拳を防ごうとして、そのまま突き破られ、攻撃を喰らうところだが、貴様は防ぎきれないと、あの一瞬で判断し、俺の攻撃を遅らせ、その隙に体勢を立て直し、反撃してきた。腐っても、神の住む村の人間と言うわけか。もし貴様が杖を持っていたら、本当に良い勝負になっていたかもな」その言葉は、真実っぽく、フレイは一瞬格闘家の顔を覗かせた。

実は、レナ自身も自分の動きに驚いていた。ここまで動けるようになったのは、あのシルバーと思われるモンスターとの戦闘があったからだ。以前のレナなら、回し蹴りの段階で終わっていた。あの時、カルナが導いてくれたからだ。本当にカルナには感謝しても、しきれない。レナは心の奥からそう思った。

「だが!それも、この能力が無ければの話……」

フレイはそう言って、人差し指を立て、その先に火の玉を作り、ヒョイっとレナに向けて飛ばして来た。それをレナは体半身だけを、捻って躱す。

「どちらにしろ、大事な杖を無くした自分の間抜けさを恨むんだな」

フレイが叫び、また戦闘体勢に入る。と!そこへ……。

「その杖の代わり、俺に出来ないかぁ?レナ」

と、どこからか声が部屋中に響き渡る。この声はジャン団長?レナは声の主の正体に気付き、その姿を探す。すると、さっきフレイが座っていた二階の大きな椅子に、今度はジャン団長が座っていた。

「ジャン団長!」

レナの声にフレイも反応し、振り返り、ジャン団長を確認する。フレイが振り返ったのを見て、レナは即座に呪文を唱え始めた。

「な!貴様ぁ!」フレイはレナが魔法を唱えているのに気付く。

しかし、間に合わないと判断し、両腕を目の前で交差し、身構える。と、同時にレナの呪文の詠唱が終わり、レナの掌に青白い光が浮かび上がり、それは鳥の形へと姿を変え、飛び去った。




「クッ、貴様!謀ったな!」フレイが怒りを露にする。

しかし、すぐにそれを抑え、レナに質問する。

「今のは、バードの魔法だな?」

「ええ、そうよ」レナが自信を顔に浮かべて答える。

「ケッ。してやったりか?愚かな奴だ。貴様は今、自分で自分の寿命を縮めたんだぞ。本来なら、貴様を生け捕りにして、奴が来るのを待って、奴の目の前で殺す予定だったんだ。だが、貴様のバードのせいで、奴が戻ってくる。恐らく十五分程か……。さすがに俺でも、その時間内で生け捕りは難しい。だが!殺すのなら簡単だ。予定は変わるが仕方ない。奴には、貴様の死体だけ見せるとしよう」

フレイが戦闘体勢に入る、とそこへ……。

「おい!初代団長さんよぉ!予定を変えるなら、こうだろぉ?炎使いの悪魔フレイ=バーンズ、現団長のジャン=マルクスに殺され、町に平和が戻る!めでたし、めでたしってなぁ!」

いつの間にか、ジャン団長が下へ降りて来て、そうフレイに叫んだ。

「ククククク。何の冗談だ?それは?」フレイが思いっきり見下して、ジャン団長をせせら笑う。

「フン、せいぜい笑ってろ。レナ!怪我は無いか?」ジャン団長が今度はレナを気遣う。

「ええ。ジャン団長こそ、よく無事で」レナは、ジャン団長の顔を見て、少しホッとし笑みを零す。

「ああ。クレアの護衛をしていて、フレイの襲撃に気付くのが遅れた。そのせいで他の皆は……」ジャン団長が怒りを露にする。

「ククク。そうか、貴様クレアの所に居たのか。せっかく拾った命、自ら捨てに来るとは、間抜けな奴だ。クックック」フレイは、両手を腰に当て、俯き加減に、笑みを零す。

「黙れ!俺は!俺は貴様の死を見届けるまで、絶対に死なねぇ!」ジャン団長が叫びながら、大型の剣を鞘から抜き、剣を構える。

「フッ。貴様如き、相手にならんわ。三分で殺してやる。来やがれ」

このフレイの言葉と同時にジャン団長がフレイに斬り掛かる。重量感のある大型の剣をフレイ目掛け、一気に振り下ろす。それをフレイは篭手を使い去なす。しかし、ジャン団長はそれでバランスを崩すことなく、そのまま右足で蹴りを放つ。少し驚いた様に、フレイは後ろへ跳んで間を開ける。

「思ったより、やるみたいだな」フレイは驚きというより、少し感心した様に零す。

レナもまた、ジャン団長の動きに少し驚いた。ウインがあまりに見下していたからだろう。レナはそれ程、ジャン団長を強いと思っていなかった。しかし、今のジャン団長の動きは一流のそれだ。唯、ウインやカルナが超一流で、霞んで見えただけだ。勝てるかもしれない……。

いや、もし無理でも、カルナが来てくれるまでは保つはず。レナは、また少しホッとした。それは、赤髪の男が現れる前に奥技を使わないで済みそうだからだ。

「ククク。貴様等、もう勝った気か?俺のこの能力を忘れたか?」

そう言うと、フレイの両腕を取り巻く様に炎が現れる。そして、フレイがその両手を広げる。すると、炎がまるで蛇の様にうねり、レナとジャン団長に襲い掛かる。

「こんなの喰らうかよ!」

ジャン団長は難なく躱す。レナも反応し躱す。そして、フレイがいないのに気付く。どこ?レナは意識を集中する。

「ジャン団長!左よ!」

レナのその声に反応し、ジャン団長は体を左に捻る。しかし、その時には、すでにフレイの拳が目前に迫って来ていた。喰らう!ジャン団長がダメージを覚悟した時、光と共にフレイの拳が弾かれる。

「グッ!なんだぁ!?」フレイが驚き、一瞬バランスを崩す。

その瞬間を見逃さず、ジャン団長がフレイ目掛け斬撃を放つ。

「喰らえ!」

ジャン団長の攻撃がフレイの頬を掠める。

「チッ!」フレイが後ろへ跳んで距離をとり、親指で血を拭う。

「すまねぇなぁ、レナ!今のは、フラッシュボールかぁ?」ジャン団長がレナに油断した事を謝る。

「ええ!ジャン団長油断しないで!フレイの戦闘力は一流よ!」

「ああ、もう油断しねぇ」ジャン団長が剣を握り直し、気を引き締める。

「一流?超一流の間違いだろぉ!?油断していたのは、俺の方だ!最近はずっと雑魚ばかり相手にしていたからなぁ。知らず、知らず慢心していた様だ……」

「ケッ!反省するのは勝手だが、もう三分経ってしまうぜ!」ジャン団長がフレイを挑発する。

しかし、それを無視してフレイが大きく息を吐き出す。

「コォォォォォ……」

フレイの気質が見る見る変わっていく。痛いほどに研ぎ澄まされていくのが分かる。

「ジャン団長!」

「ああ!分かっている!」

レナとジャン団長に一気に緊張が走る。

「待たせたな……。ここからは一分も掛からせないぜ」

そう言うと、フレイが猛スピードでジャン団長に襲い掛かる。フレイの第一撃を、咄嗟にジャン団長が剣の腹で受け止める。しかし、ジャン団長の体は大きく後方へ飛ばされる。だが、何とかバランス崩さず、踏み止まる。そこへ、フレイが間髪を入れず連撃を加える。それをジャン団長が必死で捌く。

何とか援護しなければ。レナはそう思うが、二人の位置が目まぐるしく変わり、タイミングが掴めない。何で?カルナの時は出来なのに?まさか……、あの時は、カルナが導いていてくれたからなの?今の私には出来ない?いや違う!あの時、掴んだものは私の中にある!なら何故……?レナは理由を考える。

そうか!フレイもまた超一流の使い手。私にそのタイミングを掴めない様に戦っているんだわ。

それだけじゃない。私自身も、ジャン団長にカルナと同じレベルを無意識に求めてしまっていたんだ。その事に気付きレナは、もう一度二人の動きに意識を集中する。すると徐々にだが、二人の動きが見え始める。いや感じ始める。

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