真実④

「ククッ。しかし、笑えたのは上にいた連中だ。どうやら、自警団の連中の一部は、トーマスやメイド共が魔法を使える事を知らなかった様だ。その事実を目の当たりにして、動揺して何も出来ずに死んでいったよ。ハハハハハッ」

「まさか、上の人たちを皆、殺したの?」さっき湧いた怒りを、今度は、そのままフレイへと向ける。

「ああ。トーマスなんか、この俺相手に炎の魔法を使ってきやがった。やはり、間抜けの子は間抜けだなぁ。ええ?ジンよぉ?」

急に話を振られ、ハワード町長ビクッとして答える

「ト、トーマスは死んだのか……?」

「ああ。自分の炎に包まれてな」

「な、なら。ク、クレアも?」

「い~や。クレアは殺していない」

「な!」「え?」ハワード町長とレナがフレイの言葉に同時に驚く。

「な、何故なの?」レナがその真意を、フレイに問い掛ける。

「何故?簡単な話さ。クレアはこの世で唯一、この俺が同情する女だからだ」

「同情?」

「ククク。フレアとクレア。似た名だと思わないか?」明らかに、湧き出る怒りを抑えながらといった感じで、フレイがレナに質問してきた。

「確かに、似ているけど……」レナは思った。それでフレアの名を聞いたとき初めての気がしなかったのか。

「この豚野郎は、フレアとクレア。唯、似ていると言う理由だけで権力を利用し、クレアと無理矢理、結婚し“クレア”と呼びつつ、その頭の中ではフレアを思い浮かべ、犯し続けやがったのさ!その結果出来たのがトーマス。その名前もあのリトマスを捩ったもの。全く呆れかえるぜ、こいつの変態っぷりにはなぁ!」

「信じられない……」レナは胸が苦しくなった。

しかし何故、フレイは私にここまで話すのだろう?そうだ、何故?レナはそれを考える。しかし、理由なんて思い浮かばない。戦意を失わすため?

「ねぇ!何故、私にその事をわざわざ話すの?戦意を失わすため?」

「フン!この程度の事で戦意を失うのか?貴様は。その程度か?貴様の赤髪の男を倒すという意志は!」挑発するかのように、フレイがレナに叫ぶ。

「違うわ!赤髪の男は必ず私が倒すわ!でも、私があなたと戦う必要は無いと思う!」

「なら!貴様は、そこの豚を見殺しに出来るのか?俺は貴様が何と言おうと、そいつを殺す」

「そ。それは……、出来ないわ!」レナは凄くもどかしかった。

この男とは戦いたくない。しかし、かと言ってハワード町長を見殺しにも出来ない。フレイの説得はまず無理だろう。どうすれば……?悩むレナを余所に、フレイが話を続ける。

「ならば、戦う覚悟を決めろ。そしてだ……」

「何?」まだ何かあるの?レナは頭の中で、言葉を付け加えた。

「“何?”だと?何故俺が、お前に話をしたか知りたいんだろう?」

「ええ、そうだわ。教えて!」

レナの返事を聞くと、フレイは一呼吸おいて話し出した。

「俺は、お前達の様な神の教えを説く人間が嫌いだ」

「それと一体、何の関係が……!?」

「焦るな!黙って聞け!俺がお前達を嫌うのは、フレアの事があったからだ。フレアは魔法の上級者だった。抵抗すれば、死なずに逃げ果せたはずだ。何故、そうしなかったと思う?」

「フレアは神の信仰者だったのね……」レナは、直ぐにその事に気付いた

「そうだ、フレアは幼い頃、僧侶に命を救われた事がある。それ以来、ずっと神の教えを信じ続けた。そこの豚に命を奪われる寸前までな」

「それで、僧侶を?」

「そうだ。純粋な心を持ったフレアを騙した、貴様等が憎い」

「騙したなんて……、そんな……」

「フン!もし貴様等の言う通りの神が居たとしたら、何故フレアを救わない?答えられるか?」フレイの目が、充血し、赤みを帯びる。

「そ、それは……」レナは即答が出来きない。

「その答えは一つしかない。貴様等の言う神など存在しないからだ。貴様等は、自分達の考えを、世の人間に信じさせたいから!自分たちが正しいと信じさせたい為に!貴様等は、神という偶像を創り出し、利用したんだ!」

「それは違う!神様はいるわ!」

「フン、貴様も騙されているんだ!なら何故、それぞれの宗派によって、別々の神がいるのだ?神とは本来、絶対唯一のものじゃないのか?確かに、ここ西の大陸ではほとんどの国が貴様らの指す『神』を信仰している。だが!ひとたび西の大陸を出て、中央、東の大陸に行けばどうだ?およそ聞いたこの無い神が沢山いる。何故か?その答えは、やはりそれぞれの宗派の開祖が、それぞれの考えに都合の良い神という偶像を創り出したからだ」

「違う!違う!なら、何故あなたは、あなたに能力を与えた者を神と呼ぶの?」

「ククク……。貴様等のチンケな神と同じにするな。俺達の呼ぶ神とは、神であって神で無いも……」フレイが不敵に、笑みを浮かべる。

「神でない……!?一体どういう事?」レナは、眉間に皴を浮かべる。

「フッ、貴様では分からんか。俺達が神と呼ぶのは、全ての魂の意志!」

「全ての……、魂の……、意志……?」

「そうだ、お前も含め、全人類の、全生物の、いや、それどころかあの世へ行った魂のな。つまり、この世界の全てが神なのだ!」

「よく分からないけど。それと、あなたの能力と何が関係あるっていうの?」

「全ての魂には、それぞれ望む未来の姿が必ずある!そして、より多くの魂が望む未来へ進む為に、必要な者が選ばれるのだ!」

「それであなたや、赤髪の男が選ばれたって言うの?」

「そうだ。と言ってもこれは、貴様らが赤髪の男と呼ぶ者の受け売りだがな」

「ふざけないで!なら、世界の人達が私の村の人達や、これまであなた達に殺された人達より、あなた達を選んだって言うの?」レナは激昂した。あまりにも無茶苦茶な話だ。

「そうだ」さも当然の如く、フレイは答える。

「あり得ないわ!それに、あなたの話だと殺された人間も、そうなる事を選んだって事?」

「言ったろ?より多くの魂が望んだ方が選ばれると……。殺された人間よりも、俺達の存在を望む魂の方が多かったと言うだけだ」

「それこそ、あり得ないわ!あなたは兎も角、赤髪の男は大陸中の人間がその存在に恐れを抱いているわ。皆がそんな者の存在を望むものですか!」

「それも言った。望むべき未来の姿を持つのは、人間だけじゃないと」

「それは、一体何だと言うの?この世界で人間以上にそんな強い意志を持った魂が存在するって言うの?」

「さぁな。その存在が何なのか分からないから、神と呼ぶのかもな」

「フフッ、何よそれ……。それじゃあ、あなた達も何も変わらないじゃない」今度は、レナがフレイを嘲笑する。

「違うな。俺達は確かに、存在し得る何かを神と呼んでいる。貴様等の様に存在もしないものを勝手に存在すると言っているのではないからな」

「もういいわ。これ以上あなたと神について、議論しても無駄だわ。結局、あなたの目的は何なの?こんな話を私にして、どうしたいって言うのよ?」レナは怒りで体が震えてきた。

「フッ。今の話は結果が出たから、話したまでだ」

「結果?一体、何の?」

「俺が真実を話す事によって、神に仕えるという貴様がどういう態度に出るか見てみたかったんだよ。結果は予想通り、見せ掛けの弱さに目を奪われ、本当の悪を見分けられず、挙句の果てには、その悪を守ろうとする……。まさに愚の骨頂だな……」

見下した視線を、フレイはレナに送った。その目に、対抗する様に、真っ直ぐに睨み返し、反論する。

「た、たとえ、どんな悪人でも、目の前で命を奪われるのを黙って見過ごせないわ」

「だが、この俺は殺せると言うのか?ククク。所詮、貴様は一時の感情で動いているに過ぎない」

「クッ……!」レナは何も言い返せない。

「ククク。まぁ、そんな事はどうでも良い。どちらにしろ、貴様は殺すつもりだったからな」

「どちらにしろ?それって、やっぱり私が僧侶だから?」

「確かに、それもある……、が、俺の中でフレアの魂が叫ぶのだ。皆を同じ目に合わせろと!」

「フレアの?フレアがそんな事を言う訳無い!だって彼女は神の教えを信じていたんでしょ?」

「人の話を良く聞け。俺は言った。“そこの豚に命を奪われる寸前まで”と。フレアは処刑の時、最後には必ず神が助けてくれると信じていた。しかし、助かる事は無かった。そして、炎の中でフレアの表情はどんどん絶望へと変わり、最後には憎しみを浮かべていたよ……」

「それで私を選んだ?何故?」レナは自分が選ばれた理由が分からない。

「違う。正確には貴様達だ」

「私達?」

「そうだ、貴様ともう一人の男。貴様ら二人を初めて見た時、フレアと俺の考えがぴったり一致した。貴様を炎で灰にし、もう一人の男にそれを見せる。まさに俺達と同じ状況。貴様は神に絶望し、もう一人の男はこの世の全てを恨む……。そして奴と俺は同志となる!」そう言うと、フレイは両手を広げ、恍惚の表情を浮かべる。

「狂ってるわ!でも、ありがとう。カルナが生きている事を教えてくれて」

レナにその事を指摘されても、フレイは動じる事も無くゆっくり答える。

「ククク、口が滑ってしまったか。まぁ、別にいい。どの道、貴様は死ぬのだから。今から、ここで!」そう言うと、フレイが一気に戦闘体勢に入る。

「私は死なない!赤髪の男を倒すまでは!」言い返し、レナも身構える。

と、同時にフレイの姿がレナの視界から消える。

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