真実③
「ま、まさか……」
「そのまさかだよ……」フレイがニヤリと笑う。
「嘘よ!」レナの顔が一気に青ざめる。
そしてカルナと出会った時の事が、頭に浮かぶ。あの時、確かに思ったのだ。カルナが殺したモンスターの死体の山を見て、自分の村と何も変わらないと。さらに、闇の森でシーユーを倒した時も、その倒し方を見て赤髪の男の言葉が思い浮かんだ……。
そのレナの様子を見て、フレイが体を仰け反らせ、大笑いしだした。
「ハーッハッハッハッ、大した信頼関係だな?そんなはず無いのは、冷静に考えれば、お前自身が一番良く分かるはずだろう」
「な、あなたって人はぁー」レナはカルナを疑った自分への、恥ずかしさと怒りに震え、フレイを睨みつける。
「ハンッ、俺に怒りをぶつけるのは、お門違いだろう?怒るなら、そんな事にも気付かない自分の間抜けさに怒るんだな」
「くっ!」フレイの言葉にレナは何も言い返せない。
「そんな節穴の目を持っているから、偽善者面の豚野郎の嘘も見抜けず、この俺に殺される事になるんだよ」
フレイのこの言葉に、今まで黙っていたハワード町長が口を開く。
「クリスティン様。耳を貸してはなりません。奴はある事、無い事を言って、人を惑わすのを得意としているのです」
「分かっています」たった今、騙されたばかりで、信じる訳が無い。レナはフレイを睨みつける。
「クックックッ。分かっています……、か?」フレイがレナを嘲笑う。
「何がおかしいの?」
「決まっているだろう?貴様の節穴の目で何が分かったのか、と思ってな」
「少なくても、あなたが人の心を惑わす、最低の人間って事は、分かったわ」レナはそう言って、戦闘体勢を取る。
「まぁ、そう慌てるなよ。少しでも長生きしたいだろ?」フレイがゆっくりと、レナを制す。
「何なの?」レナはフレイの態度がイラついて、仕方ない。
「まだ少し、話をしようじゃないか」フレイが不敵な笑みを浮かべる。
「話?一体何の?」
「そうだな……。この町の話をしようか?」
「町の?町の事なら、ハワード町長に聞いたわ」
「ああ。だから、そのジンの嘘話をこの俺が訂正してやろうと言っているのさ」
このフレイのセリフに、ハワード町長が割って入る。
「ク、クリスティン様!」
「分かっています、ハワード町長。少し下がっていて下さい」怒りで思わず、ハワード町長にも、きつく言ってしまう。
「わ、分かりました」少しビクビクしながら、ハワード町長はそう答えて、前を向いたまま後ろに下がる。
その二人のやり取りを見て、フレイが吠える。
「だからぁぁ。貴様ら、俺の話を聞けって言っているだろうが!」
フレイが殺気を放つと同時にフレイの体の周りを炎が渦巻く。そのせいで、広い部屋の気温が一気に上昇する。
「熱い」レナの額から汗が流れ出る。
そして、レナの後でドサッと何か落ちるような音がした。恐らく、ハワード町長が腰を抜かして尻餅を付いたのだろう。
しかし、レナは後ろを振り返りハワード町長を気づかう余裕など無かった。フレイから立ち昇る炎から目が離せない。その炎は、魔法なら間違い無く最上級クラスだ。それを、呪文の詠唱も必要とせずに一瞬で出したのだ。
あり得ない。レナは正直フレイの能力がこれ程までだとは思っていなかった。頭が一瞬真っ白になる。そのレナを見てフレイが炎を収める。
「フン、やっと大人しくなったな」フレイがやれやれと両手を挙げる仕草をする。
「あ、あなた。その能力……、一体!?」レナの額の汗が止まらない。
「さぁな、俺が知りたいぐらいだ。だが、この能力を与えてくれたのは間違い無く神だ!」神というのを強調するように、その部分だけ、フレイは声を張り上げた。
「そんなはず無い!神様が!神様がそんな人殺しの能力、あなたなんかにあげるはず無いわ!」レナは必死に否定する。
「あなたなんかにぃ?逆だ、俺だからだ!目の前で妹を焼かれ、俺がどれだけ傷つき、絶望し、苦しんだかを神はちゃんと見ていてくれたんだ。だから、この能力を与えてくれた」
「そ、そんな……。確かに過去の事件は、悲しいものだけど、町の人達はその事を悔い、反省し、戒め、過去の教訓としてずっと忘れないようにしているわ。そんな人達を苦しめる事を神様はしない」
「だから、貴様の目は節穴だって言うんだよ。そこの豚野郎の話を全て鵜呑みにしてやがる。大方、妹は魔女狩りの被害者とでも聞いているんだろう?」
「違うって言うの?」
「ハッ!後ろの豚に聞いてみな!」
「ハワード町長!嘘ですよね?」
フレイに言われ、振り向いてハワード町長を問いただす。
「う、う、う、嘘です!き、決まっているじゃないですか!」
レナはこの瞬間、ハワード町長の顔を見れなくなった。そして、フレイの方に向き直り、拳を握り締め、唇を噛み締める。
“何でそこで動揺するのよ!嘘でも良いから私を信じさせてよ!もうフレイの言葉が、真実にしか聞こえなくなるじゃない!”レナは心の中でハワード町長を責め立てる。
「クックッ、いい顔になったな。じゃあ、今から俺が真実を話してやろう」
レナは何も返す気になれず、黙ってフレイを見続ける。
「五十年前、俺の妹フレアは、そこの豚に殺された。魔女狩りを利用してな」
“フレア”……、何だろう?初めて聞く名のはずなのに、レナは何処かで聞いた気がした。
「そこの豚は、フレアに惚れてやがった。そしてある日、結婚を申し込んだ。だが、フレアは断った。それでもその男は諦めず、何度も求婚した。だが、何度頼まれてもフレアは承諾しなかった。するとその男は激怒し、ついには町長の息子と言う権力を利用し結婚する様に命令してきやがった。そんな傲慢な野郎の求婚をフレアが受けるはずが無い」フレイは怒りを顔中に剥き出しにし、その顔を右の掌で覆った。
「まさか……」レナは、フレイの話のその先が容易に想像できてしまい、耳を塞ぎたくなった。
「そうさ。そこの豚は、フレアとの結婚が無理となると、フレアを魔女と蔑み、町人を扇動し、魔女狩りを始めやがった。もちろん、その時殺されたのは、フレア唯一人だ!俺はそれを目の前で見せられた!」
レナはもうフレイを見ていられず、目を伏せてしまった。
「さらに!そこの豚は、この俺まで利用しやがった。本来なら、フレアと同じ魔女の血を持つ者として殺すはずだ。だが、この豚は殺さなかった。何故だか分かるか?」
「わ、分からない……」レナの目に、うっすらと涙が浮かび上がる。
「そう。町の人間も貴様と同じく、この豚の真の意図は分からなかった。事情を知らない奴は尚更だ」
「事情を知らない?という事は、知っている人も居たの?」
「フン。当時の自警団の奴らは、皆知っていたさ。魔女が邪悪なものでないという事を。何故ならフレアも、その魔法を使い自警団と共に戦っていたんだからな。中にはフレアに命を救われた者も一杯いた」
「そ、その人達は、その時何もしなかったの?」
「ああ。そこの豚に脅かされてなぁ」
そう言うと、フレイはいきなり右手で炎の玉を作り出し、打ち放って来た。その炎の玉は猛スピードでレナの横を通り抜け、レナの後でボワッと火柱に変わる。
「ハワード町長!」レナは慌てて後ろへ振り返る。
すると、そこには失禁して震えているハワード町長がいた。その姿を見てレナは、ひとまずホッとした。しかし、次のフレイの言葉で愕然とした。
「今更、逃げようとしてんじゃねぇ。ジン=ハワード!」
これでレナは、嘘を付いていたのはハワード町長と認めざる得なくなってしまった。
「いい様だな!ジン。本物の豚に一歩、また近付いたんじゃないか?話が済むまで、そのまま残り少ない命を噛み締めてやがれ」
フレイはジンに言い放つと、またレナに視線を戻す。
「これで、奴の嘘が証明されたな。ククク」
レナは何も返せない。
「さすがに何も出ないか?まあいい、話を戻そう。そう、この豚は自警団の連中を権力で黙らせ、事情の全く知らない町人に、“例え、魔女と同じ血を持つ者でも、魔法を使える分けではない、命までは取るべきではない”と訴えかけ、見事に自分は心の広い立派な人間。まさに次期町長に相応しい、というイメージを植え付けやがった」
「そんな、昔から……」レナは、さすがに呆れてしまった。
そのレナの表情を見て、フレイがニヤリと笑みを浮かべ、更に話す。
「ククク。さすがに呆れた様だな。だが、呆れるにはまだ早い。さっき貴様等が話していた、ここがかつて闘技場……、いや公開処刑場だったと言うのは嘘だ」
「嘘?」レナは何が嘘なのか、分からなかった。現にここに闘技場がある。
「ああ。ここは半年前、この俺が能力を授かるまで使用されていたんだよ。俺はそこの牢から五十年間、罪人達が、いや本当に罪人なのかも疑わしいが……。そいつらが惨たらしく殺されていくのを見てきた。正直、気が変になりそうっだった。だが、そこの豚は満面の笑みを浮かべ、見ていやがったよ。あの立派な椅子に座ってなぁ!」
レナの視線は自然と、先程フレイが座っていた椅子に向いてしまう。
「貴様は、さっき話を聞いている時、おかしいと思わなかったのか?」
「な、何が?」
「ククク、本当に人が良いのか、鈍いだけなのか?今いる、この場所。闘技場を埋めて、ここだけ残したって?そんな手間を掛ける必要性が何処にある?」
「そ、それは過去の事件を忘れない為にって……」
「ハッ!それなら、町のド真ん中に慰霊碑でも建てた方がよっぽどマシだ。この場所は五十年前に、ジン=ハワードが造ったんだ。リトマス=ハワードが造ったものを真似てな!」
「リトマスの?」レナは、もう分けが分からず、ただ聞き返すしか出来なくなってきた。
「そうさ!リトマスは、この町の歴史上、類を見ない下卑た町長だったのさ。リトマスは悪行の限りを尽くし、その噂は国中に広がり、結局最後は国王の命令で処刑されたのさ。しかも、自ら造った闘技場でな。だから、この豚がリトマスが闘技場を埋めたと言い出した時は、さすがに笑ってしまいそうだったよ」
レナは、ハワード町長の暴かれていく嘘の多さに頭がおかしくなりそうだ。
「因みに、ここで行われた公開処刑の内容は真実だがな。付け加えるとしたら、ずっと勝ち残った罪人を殺す役をしていたのは、ジン=ハワードという事だ!」
「ハワード町長が?」
レナはさすがに、それは無いと思った。あの体形で戦えるとは思えないからだ。それとも、この半年であそこまで太ったのか……。それも考えにくい。これだけは、フレイの嘘に違いない。しかし、その考えもフレイの言葉であっさり崩されてしまう。
「ククク、貴様。今、あの体形で?と思っただろう。だが、もし!こいつが魔法を使えるとしたら?」
「え?」フレイからの、一番予想もしていなかった言葉に、レナは一瞬思考が飛んでしまう。
「使えるんだよ!こいつは!フレア直伝の魔法がなぁ!そいつを使って、この豚はあの安全な二階の大きな椅子から、炎の魔法で罪人を狙い打ちさぁ!差し詰め、玉当てゲームをするようになぁ!貴様もこの豚の屋敷に泊まったのなら、感じたんじゃないのか?魔法使いの存在をよぉ!」
確かにレナは、思っていた。お風呂に入る時にあった、マジックストーン見て……。冷静に考えれば、そうだ。半年分ものマジックストーンを買い込むバカはいない。それに、この部屋の松明の火、魔法を使えばあの短時間で点けることも可能だ。むしろ、走って全部つけたと言うほうが無理がある。
「どうやら、思い当たる事があった様だな。更に言うなら、この町で魔法を使える者は、この豚野郎だけじゃない。こいつの部下共は殆んどが使える。そして、そいつらの何人かは、正体を隠させ町に放たれている。何故だか分かるか?こいつは、もし自警団の連中が反旗を翻せば“町に放った連中に、家族や親族、恋人を殺さすと脅していやがるのさ!」
それで……!レナはジャン団長が言っていた真意が分かった。と、同時にハワード町長に対して、怒りにも似た感情が湧いてくる。
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