奇襲⑤
「ど、どどど、どういう事なんです?まさか!あなたも、私と似た様な体を?」
慌てふためくグレイゴリーにカルナが無言で何かを放り投げた。それに反応して、グレイゴリーが、その何かを受け取る。すると、それはグレイゴリーが受け取ると同時に、パラパラと崩れ落ちた。
「ん~?これは、マジックストーンですか?ああ。そういう事ですか。これに何かしらの回復用の魔法が入っていたのですね。ん~。私としたことが取り乱してしまいましたよ、ククッ」そう言って、グレイゴリーは手に残った欠片をパンパンと振り払った。そして、また髭を弄りだし、カルナに話し掛ける。
「ところでカルナ君、私の話は?」
「ああ。聞いていた」
「そうですか。で?どうします?」
「どういう事だ?」
「ククク……、頭でも強く打ちましたか?勝てないと分かっていても、戦うのですか?という事です。元々君には、準備運動相手としてしか期待していませんでした。その役目は十分すぎるほど果たしてくれました。そこでゆっくり休んでいて構いませんよ。ククク……」
「お前を殺す方法ならある」静かに、それでいて力強く、カルナが答える。
「ククク、ククククク、クワーハッハッ!失礼!面白いですねぇ、カルナ君は!良いでしょう。是非見せてもらいましょう!その方法とやらをね!」
グレイゴリーが深く腰を落とし構える。カルナも刀を抜き構える。
「行きますよ~!」
「来い……」
と、そこへ!二人の間に割って入る様に青い光が飛び込んできた。そして、その光は一直線にカルナの元へ向かい、そのまま、カルナの肩に止まった。それはバードの魔法だった!カルナの心臓が大きく鼓動を打つ。
「ん~?何ですか、それは?えらく。動揺しているようですけど」
動揺?カルナ君が?グレイゴリーの言葉に驚き、ウインはカルナの表情を確認する。そこには、誰が見ても明らかな程、動揺しているカルナがいた。
「カルナ君!それは、バードの魔法か?まさかレナ君が?」
「あ、ああ」カルナが、ウインに助けを求めるような視線を送る。
「行きたまえカルナ君!こいつは、私が喰い止めよう!」
ウインが素早く、二本の剣を抜く。
「ククッ、そんな必死にならなくても、行って良いですよカルナ君。もう十分フレイ君に頼まれた時間は稼ぎましたからねぇ」
「フレイに?どういう事だ?」ウインがグレイゴリーに詰め寄る。
「ん~?これは失敗のようですねぇ。その事を知らせる魔法じゃなかったのですか?あなた達の作戦は、フレイに筒抜けだったのですよ」
「筒抜け?一体どうやって?」ウインは声を荒げる。
「ククク、そんな詮索している暇があるのですかねぇ?彼の狙いは、町長だけじゃありませんよ」
「まさか!」
ウインとカルナに動揺が走る。
「そうです。お連れの、僧侶の女性です。彼は神の教えを説く人間を非常に憎んでいますからねぇ。まぁ、彼の過去を考えれば神を憎むのも仕方ない事。しかし、笑えるのは、彼……。そのくせ、あの能力は神に貰ったと言っているのですよ。ククク、面白いですねぇ」
「カルナ君行こう。急げば、間に合うかもしれない」
ウインがカルナを促す。
「お待ちなさい!行っていいのはカルナ君だけです!あなたには、残ってもらいますよ、ウイン=クルリエルさん」そう言ってグレイゴリーは、フフンと鼻を鳴らした。
「私の事、知っていたのか……」ウインはグレイゴリーの目を、真っ直ぐ睨み付ける。
「当然です。羽根の装飾の一対の剣、真っ白い髪、左耳のピアス……。あなた程、特徴の知れ渡っている人間はいませんからねぇ。私の目的は初めから、あなた。と言うよりはあなたの剣技です。何でも、あなたのその剣『フェザーソード』ですか?その羽根のように軽い剣を使った剣技、通称『蜂の巣』は一呼吸の間に片方で二十二、両方で四十四のもの突きを繰り出すとか……。差し詰め、その突きは四十四匹の死を呼ぶ蜂と言ったところですか。まさに、私の体の限界を知るのに相応しいではないですか。あなたに勝てれば、私の不死身が証明されます」
「フッ、いいだろう。そこまで言われて、やらない訳にはいかないな。最後に一つ質問だが、お前とフレイの関係は何だ?」
「唯の契約者ですよ。時間を稼ぐ代わりに、あなたと戦う場を頂きました。ですから、時間を稼ぐ以上のことは、して差し上げる義理は御在ません」
「そうか、罠では無いんだな」
「もちろん!紳士の名にかけて!」
「よし!カルナ君。行きたまえ!私も、すぐに行く」
ウインの言葉に一度大きく頷いた後、カルナが出口に向かって走る。そして、ウインの横を通り様に声を掛ける。
「恩に着る……」
ウインはその言葉に一瞬驚き、ボソリと零す。
「何だ。ちゃんと感情が出せるじゃないか……、それとも、演技なのか?」ウインの口元が少し緩む。
「ククク、間に合いますかねぇ、カルナ君は?」
グレイゴリーのこのセリフに、ウインがニヤリと笑いながら答える。
「フッ、少なくとも、お前が今心配すべき事ではないな」
カルナは屋敷の扉を蹴破り、外へ飛び出る。外はまだ朝靄がかかり、それ程明るくない。その中をカルナは門を出て坂を一気に下り走る。カルナの頭の中では“間に合ってくれ!”という言葉が何度も何度も連呼する。
冷静に考えれば、奥義さえ発動できれば、レナがフレイ程度に負けるはずは無い。しかし、カルナの中では嫌な予感が止まらない。そしてカルナは今、感情が表に出て来ている事に気付く。
今までなら、こんな事で感情が表に出てくる事など無かった。その事が余計にカルナの不安を増大させる。不安を振り払い、無心に走ろうとする。だが、カルナの頭の中には、自然とレナとのこれまでの旅の事が思い浮かぶ。それと同時に、その時感じるはずだった感情までもが表に出てくる。
現在の感情と過去に感じていたはずの感情が同時に出てきて、カルナは頭がおかしくなりそうになる。
「うわぁぁぁぁー」頭を抱え、思わず絶叫する。
このまま、自分は壊れてしまうのではないか?そんな考えが頭に浮かぶ。しかし、現在と過去、バラバラの感情が導き出すものが一つだけある。それは“レナを失いたくない”という気持ちだ。
その事に気付き、その事だけに意識を集中する。すると、自然と精神が安定してくる。考えれば、初めからそうだった。普通なら、こんな危険な旅に、協力なんかしないだろう。しかし、レナに会った時、何かを感じていたのだ。この女性なら、この女性と一緒に旅をすれば、自分のこの異常な感情の無いという状態を、何とか出来ると感じていたのだ。そう、一瞬にして、レナに惹かれていたのだ。
その事に今やっと気付いた。いや、感情が表に出てこないのだから、今までは気付きようが無かったのだ。レナは、自分にとって希望なのだ。絶対に失いたくない!頼むから、間に合ってくれ!心の中で祈る様に叫び、カルナは驚異的なスピードで丘を駆け下りた。
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