奇襲①

「それじゃあ、さっそく試していただけますか?クリスティン様」

「分かりました。ハワード町長」

「レナ君、本当に大丈夫なのかい?」

「ええ多分」

「多分って……」

「怖いなら、町で待っていればいい」

「なっ!怖いだって?私がかい?カルナ君。そんなわけ無いだろう。唯、私はレナ君の実力を知らないからだねぇ……」

「なら、俺が先に試そう」

「ありがとう、カルナ」

レナ、カルナ、ウインそしてハワード町長の四人はまだ日の空けてない早朝に町の北出口まで来ていた。それは、昨夜アックス兄弟と思われるモンスターを倒した後、ハワード町長の屋敷での話し合いで決まった。


「いや~。それにしても驚きました。本当にあの様なモンスターが存在するとは……。あれは、まるで何かの物語……、そう、あのJ・ウォルシュ著『魔人大戦』に出て来た、リザードマンそっくりでしたからね。いや、それよりも驚いたのは、クリスティン様とエイモンド様の強さです。あんな家をも簡単に吹き飛ばすようなモンスターに無傷で勝ってしまうんですから」

「いえ。大した事ありません。それなら、たった一人でモンスターを倒したウインさんの方が凄いですよ」

「そんな事無いよ、レナ君。実は私が戦った方は、頭が無いからか、そのスピードとパワーは人間の頃とは比べ物にならない程増していたが、動きはその辺に居る獣と大して変わらなかったよ。だから、フレイの結界に突っ込んで行ったんだよ」

「え?そうなんだ」

「そうそう。だから君達の方が、実際は強敵を相手にしたって事さ。格好つかないね、全く」

「まぁまぁ、クルリエル様。良いじゃありませんか。今、この場に超一流の手練が三人もいるのです。私はその事を、とても幸せに思います」

「幸せは良いんですけどねぇ、町長。そろそろ本題に入りませんかぁ?」

「ジャン団長、そう急かすな。お前のことも頼りにしているぞ」

「はいはい、どうせ俺はついでですよぉ」

「やれやれ、仕方の無い。それでは、本題に入りましょうか。クリスティン様、お願いします」

「はい。と言っても具体的な案があるわけじゃないんですが、夕食の時も言いかけましたが、フレイの結界を通り抜けられるかも知れません」

「はい。そう仰ってましたよね。通り抜けるという事は、結界を破壊出来るわけじゃないのですね?」

「はい」

「具体的にはどうするのです?」

「ホーリーシェルを使います」

「ホーリーシェル?あの最上級結界魔法のですか?ああ!あのモンスターの一撃を弾き返したのもホーリーシェルだったのですか?」

「はい。そうです」

「それで?レナ君、その結界魔法をどう使うんだい?」

「それは、ホーリーシェルをフレイの結界に重ねます。そうすれば、ホーリーシェルの中だけはフレイの結界は遮断され、その中を通り抜けられるはずです」

「レナ君、本当にそれで遮断出来るのかい?」

「はい、恐らくは。さっきのシルバーとの戦いで、ホーリーシェルの能力に自信が持てました」

「大丈夫ですよ、クルリエル様。私もこの目で見ましたが、クリスティン様の魔法は、かなりの物ですよ。ただ……」

「ただ?何々ですか?」

「え~と、クリスティン様。確かホーリーシェルの魔法は、上級の僧侶でも一日に二、三回使うのが限度だと……。それだと、何人か通したらクリスティン様は戦えなくなるのでは?しかも、結界の中を通り抜けるのですから、それなりの大きさも必要でしょう?その辺は、どうお考えですか?」

「詳しいですね、ハワード町長。しかし、その心配は要りません。私はホーリーシェルを一日に五十回は使えますから」

「五十!?本当ですか?クリスティン様。だとしたら、一人で町をも滅ぼすと言う、その赤髪の男の襲撃から生き延びたのも容易に納得できます」

「そんなに凄い事なんですかい?町長?」

「何を言っているんだ、ジャン団長!ホーリーシェルを一日に五十回も使えるなんて、人の域を超えている。正に神の領域だ!」

「そうなんですか?魔法の事は良く知らないもんでねぇ。でも、凄いんだなぁレナって」

「ココココ、コラ!ジャン団長!クリスティン様を呼び捨てにするとは何事だ!」

「止めてください。ハワード町長も、ジャン団長も。私はまだまだ、駆け出しの僧侶です。ただ、魔法力の多さに恵まれただけですから」

「いえいえ、そう御謙遜なさらずとも」

「う~ん。本当に違うんですけど……。それより話を戻しましょう」

「分かりました。それでは具体的な案を皆で考えていきましょうか?」

「ハワード町長。考えるも何も、今のレナ君の話を聞けば、取るべき行動は一つしかありませんよ」

「え!?クルリエル様、その一つとは?」

「それは、もちろん我々がその方法で結界を抜け、フレイを倒して来るのです。それも、赤髪の男の現れる前にです」

「“我々っ”て事は、皆さん行かれるのですか!?」

「いえ、それを今から決めましょう」

「そ、そうですか。それで、どの様にして決めるのですか?クルリエル様」

「そうですね。フレイを確実に倒せる戦力。これが最低条件です」

「なら、クルリエル様は外せませんね」

「まぁ、仕方ありませんね」

「ちょっと待って下さいよ!俺も行かせてくれ。フレイには、部下をいっぱい殺されている!仇を取りたいんだ!」

「ジャン団長、落ち着きなさい!クルリエル様どうですか?彼は間違い無く、この町では一番の使い手ですが……」

「う~ん。正直、不安ですね。出来れば、レナ君かカルナ君に来てもらいたいですね」

「なっ!何だと、てめぇ!あんたに俺の何が分かるってんだ。あんたは、大方レナと一緒が良いだけなんだろ。この女たらしが!」

「ジャン団長!それはあまりに失礼だろ!すいません、クルリエル様……」

「構いませんよ、ハワード町長。ほら、よく言うでしょ。弱い犬ほどよく吠えるってね」

「てめぇ!まだ言いやがるのかぁ!」

「フン。誰だったかな?モンスターを見て、慌てふためいていたのは?」

「もう我慢できねぇ!表に出ろ!どっちが強いか、はっきりさせてやる!」

「ああ、いいだろう。身の程を知るがいい」

「ちょっと!ウインさんも、ジャン団長も止めて!今、二人が争っても何の意味も無いでしょ!」

「レナ君がそう言うなら、私は止めても構わないが……」

「チッ、結局、女の言いなりか!」

「何とでも、言うがいいさ。だが、レナ君に感謝しろよ。命拾いしたんだからね」

「もう!ウインさん!」

「ああ、すまないね、レナ君。まぁだが、これで私とこの男が、共に行動する事は無くなったね」

「ケッ、当たり前だ!」

「も~う……。そうだ、カルナ。カルナはどう思うの?」

「ジャン団長に一つ聞きたい」

「ん?何だよ?」

「人を殺した事はあるのか?」

「……。それは無い。だが、部下の仇討ちでもあるんだ。フレイなら殺せる!」

「止めておいた方が良いな……」

「な!?お前まで俺をバカにするのか!」

「そうではない。まともな戦闘に置いてなら、自分の命も掛かっているから、殺す事に躊躇う事も無くなるかもしれない。しかし、今回の決行は明け方近くになるだろう。場合によっては暗殺になる。殺しの経験の無い人間が無抵抗の人間を殺す時には、必ず躊躇いが生まれる……」

「クッ!確かに、躊躇うかも知れない……。だが……!」

「その躊躇いのせいで、同行者まで危険になる」

「クソッ!」

「ジャン団長、仕方ないだろう。諦めて、これまで通り屋敷の警護をしてくれ」

「……わかりました」

「ところで、エイモンド様。決行が明け方近くとは、何故ですか?」

「ハワード町長、それはカルナが赤髪の男の事を考えての事だと思います。でしょ?カルナ」

「ああ」

「赤髪の男の事を考えて……、ですか?」

「ええ。赤髪の男が人を殺す理由は、何より血を見たいからです。その為に必ず明るい日昼に事を起こすんです」

「えっと、それなら真夜中に決行したほうがよろしいのでは?」

「そ。それは……」

「それは、いくら、私やレナ君、カルナ君が気配を感じて戦えるとは言え、私達は今のフレイのアジトの現状を知りません。完全な暗闇では地理的に不利になる……。だろ?カルナ君」

「ああ……」

「すばらしい。そこまでお考えとは……」

「後は、私とどっちが行くかだね。それとも、いっそ三人で行くかい?」

「ク。クルリエル様!?」

「冗談ですよハワード町長。で、どうするんだい?どっちが来る?」

「俺が行こう……」

「おや?カルナ君か。少し残念だが、レナ君もそれで良いのかい?」

「ええ。私は構いません。本当にいいの?カルナ……」

「ああ、レナ。お前の旅の一番の目的は赤髪の男だ。レナは町でいざって時の為に備えていれば良い」

「ちょっと待ちなよ、カルナ君。それって、赤髪の男が私たちの居ない間に現れるかも知れないって事かい?」

「可能性は低いがな……」

「そんな化け物相手に、レナ君一人で大丈夫なのかい?」

「心配しなくても、恐らく現れる事は無いだろう。それに、この中で赤髪の男を倒せるのはレナだけだ」

「レナ君だけ?何か策みたいのが、あるのかい?」

「ああ」

「わかったよ。なら、私とカルナ君で決まりだね。レナ君も一応気を付けておくんだよ」

「ええ。ありがとう」

「それでは、全て決まりですね。決行は明日の明け方前で、よろしいのですよね。クルリエル様」

「はい」

「それでは、皆様。少し早いですが明日に備えて、もう休みましょうか」



こういった経緯で今、レナ、カルナ、ウイン、ハワード町長の四人は町の北出口まで来ていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る