来訪②

「すいません。お待たせしたみたいで」レナが咄嗟に頭を下げる。

「いや、私も今きたところだから気にしなくて良いよ、レナ君」ウインがすかさず、フォローを入れる。

「そうですよ、レナさんもカルナさんも気にせず、おかけになって頂戴」クレアが笑顔で二人に席につくように促した。

それに従い、二人は空いている席に腰を掛ける。そして、レナは目の前の料理に改めて驚く。実際に食べた事は無いのだが、目の前の料理は、レナが想像する宮廷料理そのものだった。

「す、凄いですね」レナは思わず、そう零してしまった。

「そうでしょう?今日は腕によりを掛けて作りましたから。いっぱい食べて頂戴ね」クレアが嬉しそうにそう言った。

「それでは、皆さん。そろそろ頂きましょうか」

ハワード町長のその一言で、皆が食事に取り掛かる。食事に入ってすぐに、レナはマジックストーンの事を思い出した。

「そう言えば、ハワード町長。この町にも魔法を使える人間が居るのですか?」

「え?居ませんが?どうしてですか?」

「いえ、お風呂のお湯を沸かすのに、マジックストーンを使っておられた様なので」

「ああ、あれですか。あれは、たまたま半年前に大量に仕入れていたのです。もうあまり残っていませんが……」

「そうですか、残念です。」レナは少しがっかりした。

もし魔法が使えるものが居れば、少しは形勢が良くなるかと期待していたのだ。そのレナの様子に気付き、ハワード町長が更に付け加えた。

「そもそも、この町では魔法を覚える事、それ事態が禁じられています」

「え?何故ですか?」

「それは、五十年前の事を教訓に、と言うよりは戒めとして、町の者が皆でそう決めたのです。唯、それでは、余りに不便という事で、一部の許可を得た者だけがマジックストーンを使う事を許す様にしたのです」

「そうなのですか。立派な事だと思います」レナは少し感心した。

過去の出来事はあまりにも愚かな行いだが、その行為を悔い現在まで教訓として活かしているのは立派だ。

「ですので、この町で戦力と呼べるのは、自警団だけです。と言っても、まともに戦える者は、殆んどフレイに殺されましたが……」そう言ってハワード町長は、険しい表情を浮かべる。

「そうですか……」レナもつられて顔が険しくなる。

「ですから、今、町に配置されている自警団の者は名ばかりで、実際は情報の伝達とフレイが去った後の事後処理をするだけです。殺されると分かっていてフレイと戦えと言えませんから」

「そうですか、それで……」

レナは昼間フレイが去った後、町の人達が迅速に火を消していたのを思い出した。

「ところで、レナ君」

ウインがレナとハワード町長の会話が途切れるのをを見計らってレナに声を掛けてきた。

「何?ウインさん」

「いや、昼間フレイの結界について何か言いかけていなっかったい?」

「え?ああ、それは、もしかしたら結界を通り抜かられるかもしれないって思ったので」

「ほ、本当かい!?」

「そんな事が出来るのですか?」

ウインに続いてハワード町長が凄い剣幕で喰い付いて来た。

「はい。あくまで可能性ですが。試してみないと分かりません」

「ですが、可能性があるなら是非、お願いします」そう言ってハワード町長が立ち上がってレナに頭を下げる。

と、そこへ突然ドアが音を立てて開きジャン団長が入って来た。


「た、大変だ町長!」

「何事だね、ジャン団長。騒々しい」いかにも気分を害されたといった感じに、ハワード町長が不満そうにジャン団長に、聞き返した。

「南大通りにモンスターが!」

「モンスター?何の冗談だね?フレイの事か?」ハワード町長は面倒くさそうに、答えた。

「フレイじゃねぇ!何て言って良いのか分かんねぇ!俺もあんなの見た事ねぇから!」

「落ち着いて、ジャン団長。一体、どんなモンスターなの?」

レナが動揺しているジャン団長を落ち着かそうとする。すると、ハワード町長が信じられないっと言った感じでレナに問い掛けてきた。

「クリスティンさん。モンスターの話など信じるのですか?」

「ええ。ハワード町長。私とカルナは実際、何体ものモンスターと遭遇していますし、戦闘も経験しています。」

「そ、そんなの、信じられるわけが……」ハワード町長がレナに疑いの目を向ける。

「はい。私もこの目で見るまで信じられませんでした。でも実在するんです」

「まさか、本当に?」そう言いつつも、ハワード町長の表情は半信半疑だ。

だが、神の住む村の僧侶であるレナの真剣な表情に、ハワード町長も信じない分けにもいかず、頭を抱え、うな垂れてしまった。ハワード町長が納得したのを見て、レナがジャン団長に話し掛ける。

「そ、それで、ジャン団長。どんなモンスターなの?」

「あ、ああ。モンスターは二体居る。二体とも爬虫類の様な体で、そのくせ二本足で歩いてやがる。尻尾もあった。えっと、それから……。そう、一体は頭が無い。それで、そうだ!二体とも、それぞれに金と銀の同じ形のでっかい斧を持っていた」

「金と銀の!?」

このジャン団長の言葉でレナとカルナとウインが一斉にお互いを見合う。

「レナ君。どういう事か、分かるかい?」

「分からない。カルナは?」

「さぁな」

「な、何だ?三人とも何か知っているのか?」ジャン団長が三人の様子に何かを感じ、問い掛ける。それにレナが答える。

「いえ。私達にも何が何だか分からないの。ジャン団長、他には何か気になった点は無い?」

「ああ。近くで見た奴が言ってたんだが、呻き声が“ダセー、ダセー”って言っている様に聞こえたって」ジャン団長が自分でも確認するように、そうレナに答えた。

「だせ?何か探しているのかしら?」レナが頬に手を当てる。

「レナ君。ここで考えていても仕方ない。行こう!」ウインがレナをそう促す。

「そうね。分かったわ、行きましょう。いいでしょ?カルナ?」

「ああ」

カルナのその返事で、三人が一斉に立ち上がる。

「わ、わわわ、私も行きますよ」

三人がそのまま行こうとするのを見て、思わずハワード町長も立ち上がる。

「え?ハワード町長、気持ちは分かりますが危険です」レナは予想外の町長の言葉に、慌ててそう返した。

「いや、私もこの目で見なければ納得できません」

「で、でも……」

「レナ君、良いじゃ無いか。それより急いだ方が良い」ウインがレナを諭す。

「分かりました。でも危険を感じたら、ハワード町長は逃げてください」

「ええ。承知しました」レナにそう返事し、ハワード町長はジャン団長に命令する。

「ジャン団長は残って、もしもの時に備えてくれ」

「じょ、冗談でしょ?俺も戦わせてくれよ!」

ジャン団長は、信じられないと言った面持ちで、ハワード町長に詰め寄る。しかし、ハワード町長は、声を荒げてジャン団長の主張を拒否する。

「駄目だ!駄目だ!もし、フレイが現れたらどうする?この屋敷を守る人間が居なくなるだろう!」

「し、しかし!」ジャン団長は、それでも納得仕切れない。

それを見てレナがジャン団長を諭す。

「お願いジャン団長、今回は残ってあげて」

「クッ!分かったよ!しゃーねぇなぁ!」ジャン団長がレナの言葉で折れてくれた。

「ありがとうジャン団長」

「いいって、レナ。あんたも気をつけなよ」

「ええ」

話がまとまったのを見計らって、ウインがレナとカルナに呼びかける。

「まとまったみたいだね。急ごう!レナ君!カルナ君!」

そう言って、ウインが率先して部屋を出る。それに、レナとカルナ、そしてハワード町長が続く。屋敷を出て南門を出ると、唸り声と共に、四人の目に遠目だが確実にジャン団長の言っていたそれと判断出来るものが、飛び込んできた。

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