襲撃④

 「フン!よく間に合ったわね。でも、ギリギリよねぇ~。えらく小さな結界よね」

 ミネアとレナの距離は結界を通して約一メートルしかない。

 「な、何?」

 ミネアがそれに気付いた時には、すでに、ミネアの体は後方へ、高く吹き飛ばされていた。

 「けっ、結界を一瞬で広げたの?」そう溢しながら、地面に着地する。と、同時にミネアの腹部に激痛が走る。

 「グエッ!」激痛に悶え、ミネアが跪く。

その様子をレナは黙って見ている。

 「や、やって、やってくれたわねぇ~」

 「呆れた頑丈さね。ホーリーボールを喰らって無事だなんて」

 「あ、当たり前でしょ。あなたのへなちょこ魔法で私を殺せる訳ないわ。も、もう油断しないわ」

 膝を付いたままのミネアへ、レナが更にホーリーボールで追い討ちをかける

 「今度は、あなたが油断したわね」

 ミネアが一瞬で立ち上がり、ホーリーボールを躱し、レナに襲い掛かる。

 「もらったわ!喰らえ!」

 結界の張ってない、レナの顔目掛け、ミネアの拳が繰り出される。しかし、ミネアの拳は空を切る。バランスを崩し、ミネアはそのまま前へ、土煙を上げながら、倒れ込む。すぐさま起き上がり、振り返りながら叫ぶ。

 「な、何なのよ、一体?まさか、躱されたの?それとも何かの魔法なの?」ミネアは明らかに、動揺している。

 「魔法でも、なんでもないわ。躱したのよ」レナが凍りつきそうな視線を、ミネアに送る。  

 「嘘、おっしゃい。あなた如きに、私の攻撃を躱せるはずないわ。そ、それどころか、私の動きも見えてなかったはずよ」

 「ええ、見えてないわ」

 「見えてないって……。バカにしているの?じゃあ、何で躱したって言うのよ」

 「感じるのよ」

 「感じるぅ~!?」

 「さっきも言ったけど、この奥技は、精霊と意識を一つにするの。精霊達は、この空間に無数に存在しているの。今、私はこの周辺の全ての精霊と意識が繋がっているの。つまり、あなたは今、私の意識下にいるのも同然。私は精霊を通じて、あなたの動きの全てが分かるわ」

 「そ、そんなの反則じゃない」

 「ええ、そうかもね」

 「そうかもねって、ふざけるんじゃないわよ。本当、ムカツクバカ女ね」

 怒りと焦り交じりでそう叫んだが、その後、ミネアはある事を思い出し、落ち着きを取り戻す。

 「そう言えば、あなたさっき、この奥技三十分は使えるって言ってたわよね?と、いう事は裏を返せば三十分しか使えない。そうでしょ?三十分経ったら、魔法が一切使えなくなる。そうじゃない?間違いないでしょ?」

 「ええ、その通りよ」レナはその事を指摘されても、全く動じずそう答えた。

 「ギャハハハ、認めちゃったよ、このバカ女!フフフ、三十分後に殺しに来てあげるわ」そう言い放つと、ミネアは笑いながら道を反れ、森へ飛び込む。しかし、その瞬間、激しい衝撃音と共に道に弾き返される。

 「な、何なのよ?一体?」ミネアは自分に起こった事が、一瞬理解できなかった。

 「無駄よ、ミネア。今、私達は大きな結界の中に居るのよ」

 「う、嘘でしょ?そんな大きな結界なんて、聞いた事ないわよ」

 「言ったでしょ?この周辺は私の意識下にあるの。その範囲なら、可能なの。だから、こんなことも出来る……」

 レナがそう言うと、ミネアの周りを囲む様に“ポツポツ”と光の球が次々と現れる。

 「な、何?何なのよ。こ、これって全部さっきの……?」

 「ええ、ホーリーボールよ……」さも当然のようにレナが答える。

 「何で、それが、急に私の周りに、こんなに一杯現れるのよ!」

 「この奥技は、範囲内なら魔法の発動場所も、同時に発動する魔法の数も、制限がないわ。今みたいにね」レナが、淡々と答える。

 「そ、そんな。そ、それで。わ、私を、私を殺すの?ほ、本当は殺さないわよね?だって、あなたは、神に仕える僧侶でしょ?人殺しなんかしちゃ駄目なんでしょ?」

ミネアの顔中に大量の汗が噴き出し始める。そんなミネアとは対照的にレナは感情を押さえ、静かに口を開く。

 「私は僧侶である前に、一人の人間として、あなたを許せない」

 「そ、そんなの神に背く言い訳でしょ?だ、駄目よ。神の教えに背いちゃ!れ、冷静になって!」ミネアは狼狽し、後ずさる。

 「残念ね、ミネア。私達の村の教えでは、大切な何かを守る為には勇気を持って戦えって言う教えがあるの……」

 「そ、それって、殺しを認めたものじゃないでしょ?大体、今何を守っているのよ」

 「あなたを、ここで逃がせば、大勢の命が犠牲になる……。その命を守る為……」

 「そ、そんなの言い訳よ。自分を正当化しているだけよ。それで私を殺したら、あなたは唯の人殺しよ」

 「正当化?そうね、そうかも。だって私、あなたが憎くて、憎くて仕方ない。今、私は恨みであなたを殺そうとしてる」

 「な、何認めちゃってるのよ。駄目よ、僧侶としての生き方を思い出して」

 「ごめんね、ミネア。最後に又、言い訳に聞こえるかもしれないけど……」

 「さ、さささ最後って何よ!ちょ、ちょっと待って、嫌よ!止めて!殺さないで!」ミネアは涙を浮かべ、最後の命乞いをする。

しかし、レナは聞く耳を持たない。

 「ミネア、あなた、もう人間じゃないから……」

 そのレナの言葉と同時にミネアの周りに浮いていたホーリーボールが、ミネアを包み込む様に一気に襲い掛かる。

 「ギィィィィヤァァァ…………」ミネアの断末魔の叫び声が辺り一体に響き渡る。

それに驚いた鳥達が、音を立てながら一斉に空へ飛び立った。

 「ア、アリス……」

 レナは、力が抜けそうになるのを耐えて、アリスの方へフラフラと歩み寄る。そこには、頭の無いアリスの体だけが横たわっている。その無惨な姿を見てレナの目から涙が溢れ出る。そっと、屈み込み、アリスの体を抱き締める。

 「ごめん……。ごめんね、アリス。許して……。本当にごめんなさい……」

 そして、アリスの体を抱えたまま、レナはその場に崩れる様に倒れ込んだ。

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