襲撃②
「な、何なの?一体!?」
レナがそう零すとほぼ同時に、今度はレナとカルナの後ろで“ガシャン”と何かの金属音が聞こえる。それに二人同時に反応し、振り返る。そして、レナは自分の目を疑ってしまった。アリスがいない。アリスの持っていた剣だけが地面に落ちている。
「ア、 アリス。何処なの!?」レナは必死に、辺りに目を配る。
「レナ、気を付けろ。何かいる……」カルナはレナにギリギリ聞こえる程の小さな声で、そう言って辺りを探る。
「え、ええ」
レナはカルナに、そう返事しながらも、その何かの気配を感じる事が出来ない。それよりも、レナが恐ろしく感じさせられたのは、あのカルナにここまで気配を悟られず近付いてきた相手の存在だ。余程の手練に違いない。
「アリスなら、ここよ~」
後ろからの声に、二人は同時に振り返る。すると!何とそこには、あのミネアが手を後ろに組むようにして立っていた。しかし、町で見た時と何か印象が違う。明らかに大きい。確かにレナは、あの時も大柄に感じた。だが、それはあくまで女性としての話だ。今、目の前にいる彼女は、あのシルバーと同等かそれ以上の体格だ。それとも屈んでいたから思ったより小さく見えたのか?いや、それはない。シルバーが座っているところも見ている。それと比べても、あの時のミネアはもっと小さかった。一体何があったの?
「フフフフフ……。久しぶりね、バカ女。流石に驚いているようね。フフフ、止しなさいよ、何があったか考えるなんてね。どうせ頭の悪いあなたに、理解できるわけ無いんだから。ギャハハハハハ」
この喋り方、間違いなくサラニカの町にいた女性だ。レナは確信する。
「ミ、ミネア……?」レナは恐る恐る、探るように確認する。
「あらっ?名前なんて教えたかしらね?あぁそうか、アリスに聞いたのね。それにしても、どんな説明をしたのか知らないけど、アリスは良く私だって分かったわね。あなたより、よっぽど頭が良いわね。ギャハハハハ」
ミネア程、特徴的な人間は滅多にいないだろう。レナの頭にそんな事が過ぎったが、すぐに消える。
「そんなことより!ミネア。あなた、どうしてここに?あなたを保護した人達は?アリスを何処にやったの?」
「フン!気安く呼ばないでくれる?保護した人?そんなの殺したに決まってるじゃない。ギャハハハハハ」
「な、何を言ってるの!?」レナの思考が一瞬止まる。
「フン!相変わらずのバカ女ッぷりね!殺したって言っているのよ、お・バ・カ・さ・ん」
「ふざけないで!あなたが、どうやって……」思わず声が、荒ぶる。
「どうやって?ですって?フフフ、思い出しただけで興奮しちゃうわ。う~ん、我慢出来なくなってきちゃった。折角だから、どうやったか見せてあげるわ」
そう言うと、不気味な笑みを浮かべながら、ミネアが後ろに回していた手を前に出した。
「ア、アリスーッ!」レナが悲痛な叫び声を上げる!
信じられない事にミネアが、右手でアリスの首を鷲掴みにして、軽々と持ち上げている。さらに、ミネアの鋭く尖った爪がアリスの首に何本か刺さり、そこから血が垂れ流れている。アリスに意識は無く、痙攣している。
「ミネアァァー!アリスを!アリスを放しなさい!」レナが怒りと焦りの混じった声で叫ぶ。
「フフフ。やぁねぇ、ヒステリックな女って。あなたが知りたがったから、こっちは親切に教えてあげようとしているのにねぇ」そう言って、ミネアはニヤッとまた不気味な笑みを零す。
「カルナ!ミネアの腕ごとでも良い!アリスを引き離して!今なら、まだ私の魔法で助けられる!」ミネアに聞こえないように、声を殺してカルナにそう叫ぶ。
「わかった……」
カルナが刀を抜き様に、ミネアの右腕に斬りかかる。しかし、カルナの手には空を斬る感触が伝わってきた。“躱された?”カルナがそう思った瞬間。目前にカルナの顔を覆う程の大きなコブシが、猛スピードで迫る。
“避けられない”そう一瞬で判断し、カルナは咄嗟に刀の腹で受け止める。骨と金属がぶつかる何とも言えない音が響いたかと思うと、カルナの体が一直線に後ろへ吹き飛ばされる。
そして、レナの横をすり抜け“ベキィィィッ”っとあたりに響く程の、木の割れる大きな音が響く。そして直後に、何かが地面に落ちる音がレナの耳に届く。
「カルナーッ!」
レナが振り返ると、少し苦しそうに立ち上がろうとするカルナの姿が見えた。そして、その後ろに、ひび割れて今にも倒れそうな木が見える。レナにとっては、ありえない光景だった。あのカルナが……。レナの胸の鼓動が一気に速くなる。
「フフフフフ……」
ミネアの笑い声に、ビクッっと反応し、レナが、また振り返る。思わず目を見開き、ミネアに視線が釘付けになる。背中に冷たい物が流れるのが分かる。
「フフフ……、ギャハハハハ。何?その驚いた顔。笑える程ブッ細工よ、あなた」
レナは言葉が出てこない。
「な~に?又、無視なの~?相変わらず感じ悪いわね~。何とか言ったら~?」
「ア、アリスを放して……」頭の中まで響き渡る鼓動を、無理矢理抑え込み、何とか言葉を口にする。
「あらあら、声が震えちゃってるわよ。フフフ……」
そういって、不敵な笑みを浮かべた後、ミネアが急に声を荒げる。
「誰が離すかよボケ!私の事、斬ろうとしやがって!私を殺してでも、アリスは助けたいって事か!?」
ギョロリと、目を見開き、ミネアはレナを睨み付ける
「ち、違うわ。斬ろうとした事は謝るわ。でも、本当にアリスは今、一刻を争う状態なの。あなたの腕だって切れても、私の魔法で治すつもりだったのよ」
「フン!そんなの、信じられるわけ無いでしょ?だいたい、あなたみたいなバカ女の魔法で、切れた腕が引っ付くなんて話自体、ありえない事だわ」
「本当よ!信じて!」レナは、目に少し涙を浮かべ、必死に訴えかける。
「フン!やっぱり、あなたと話すと腹が立つわ。もういいわ。どの道アリスも、あなた達も殺すつもりだからね」ミネアは、口が裂けんばかりの不気味な笑みを浮かべ、舌なめずりをした。
「な、何故?アリスや私達に恨みなんて無いでしょ?」
「ええ、無いわ」
「だったら、どうしてなの?」
「そんなの、気持ち良いからよ」さぞ当たり前のように、ミネアが答える。
「そんな……。ミネア、あなた一体どうしたの?何があったの?」
「フン!気安く呼ばないでって言ったでしょ?何があったのですって?フフフ、私は神に選ばれたのよ」そう言って、ミネアは自分の胸に左手を当て、恍惚の笑みを浮かべる。
「か、神に?な、何の話なの?」思わず、レナの眉間に皺が集まる。
「フン!本当に頭の悪い女ね。まぁいいわ。特別に教えてあげましょう。私はねぇ、ずっと、ずうっと、こんな力が欲しかったのよ」ミネアは言いながら、左拳を突き上げる。
「どうして?」
「それはねぇ……」そこから、ミネアの声が再び荒々しくなる。
「町の男共を……。私をバカにした愚民共を、この手でぶっ殺してやりたかったのよ!表では私が町長の娘だからって、お世辞ばかり。影では私をバカにしてやがったのよ!殺したかった!ずうっと!この手でグチャグチャにしてやりたかった……。でも、所詮か弱い女の私には無理な話。だから、あの赤い髪の彼が、町の愚民共をグチャグチャにしていく様は、と~っても爽快だったわ。フフフフフ」
「そ、それと、神とどう繋がるの?」レナは、ミネアが何を言いたいのか全く理解できない。
「ふん。本当バカ女ね。呆れちゃうわね。私は手に入れたのよ。愚民共をグチャグチャに出来る力をね。私の願いを神様が、叶えてくれたのよ」
「か、神様がそんな事するわけないわ」
「フン!神以外に誰がこんな事出来るって言うの?まあ、あなたが信じてる、ちゃっちぃ神とは別物でしょうけどね」
「で、でも、もう恨みを晴らすべき相手は、いないでしょ。何故、私達まで……」
「フン!何てイライラするバカ女なの?さっき言ったでしょ?気持ち良いからよ。覚えちゃったのよ。人を殺す快感をね。あなたみたいなバカ女には、解らないでしょうけど。あの、感覚……たまらないわ。あの気持ちを、共有できるのは、赤い髪の彼だけ……。きっと、彼も分かっていたんだわ。だから私を殺さなかった。あなた達を殺したら、彼を見つけて結婚するわ。赤髪の男の嫁、『金髪の美女』として、私も愚民共に恐れられ、彼と共に一生殺しを楽しむの。素敵だと思わない?」
「思うわけ、思うわけないでしょ。狂ってるわ!あなた!」レナは怒りを顕にして、ミネアを睨み付ける。
「フフフ。あなたは知らないから、そう思うのよ。昔、誰かが言ったらしいわ。人は死ぬ瞬間こそが美しい……。今の私なら、その言葉の意味が分かるわ。あなたは聴いた事無いでしょ?人が死ぬ時に奏でる美しい音色を……」
ミネアがその言葉を言い終えるとほぼ同時に、レナの横をすり抜け、カルナがミネアの懐に飛び込み、そのままミネア目掛けて刀を振り上げる。しかしミネアは、咄嗟に反応し、紙一重で後ろへ飛んで躱す。ミネアの頬から赤い血が流れ落ちる。
「痛いわねぇ。レディの顔に傷を付けるなんて、最低な男ね」冷ややかな目をし、ミネアは流れ出る血を拭わず、舌を伸ばし、ペロリと舐めた。
「黙れ!」カルナが叫ぶ。
「あぁあぁ、怖い顔しちゃって、レディ相手にする事じゃないわね」
怖い顔?レナはミネアのその言葉に引っ掛かった。感情を失くしているカルナが怖い顔?カルナの後ろにいるレナには確認できない。しかし、さっきのカルナの声には、感情が込もっていた気がした。どういう事?感情が戻ったの?後ろからカルナの様子を伺う。
すると、レナはある事に気付いた。カルナの持っている刀『魂の音色』の刀身が微かに赤味を帯びている。刀の能力が発動してる?じゃあ、やはりカルナに感情が?
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