襲撃①

「う~ん……」

「あ、目が覚めたのね。アリス」

「うん。あ、あれ?私、また寝ちゃったの?ここは?」アリスは驚きながら周りを見渡す。

「ここは、闇の森の中よ」そんなアリスにレナが答える。

「え?あ、え~と、そうだ!風蜥蜴の人達は?ごめん、下ろしてカルナさん」

慌てて、カルナの背から降りようとするアリスに、レナが声を掛ける。

「落ち着いて、アリス。風蜥蜴ならカルナが倒してくれたわ」

「うっ、嘘―っ!本当に強いんだねカルナさんて!凄―い」そう言って、マジマジと後ろからカルナの顔を覗き込んだ後、カルナの背中から降りて、アリスはレナと並んで歩き出した。

「うん。私も驚いちゃった。それとね、アリス。これ……」

「あっ!それって、お父さんの?」アリスは、一瞬自分の目を疑ったが、間違い無く、レナが手にしていたのは父の剣だった。

「うん、そうよ。アリスのお父さんの剣よ。カルナのおかげで取り戻せたの」

「嬉しい。本当にありがとう。カルナさん」アリスはカルナの方に振り返り笑みを浮かべた。

「ああ」相変わらずの無表情でカルナは答えた。

アリスもカルナの無愛想になれたのか、返事を聞くとすぐにレナの方に向き直りレナに話し掛ける。

「レナさん。その剣、私が持って歩いてもいいでしょ?」

「え?でも、結構重たいわよ。大丈夫?」

「うん。でも、持っていたいの。だって、お父さんの大事な剣なんだもん」そう言いながら、アリスの手は既に、剣に伸びていた。

「う~ん。分かったわ。でも無理しちゃ駄目よ、アリス」

「うん。ありがとう、レナさん」

そして、アリスはレナから剣を受け取り、それを胸で抱き締めた。

「フフフ、いいのよアリス。それより、この森はまだ続くのかしら?」

レナは、そう言って辺りを見渡した。アリスもつられて辺りを見渡す。

「う~ん。多分、さっきの場所から一時間も掛からない位かなぁ……?」

「さっきのって?風蜥蜴のいた所?」

「うん。前に、お父さん達と来た時に、あそこでお昼を食べたから良く覚えているの」

「そっか。確かに、あそこは休憩するには、うってつけの場所よね」

「うん。お父さんが言ってたんだけど、昔はあの場所、行商の人達のちょっとした憩いの場所になっていたんだって。だから、前に来た時も、他にも何組かいたんだよ」

「そっか、だから風蜥蜴もあそこで休んでいたのね。何とかって賞金首に追われていた割には目立つ所に休んでいるから変だとは思ったんだけど、他に休むところが無かったのね」レナは、そう納得し一人頷く。

しかし、レナのその考えは、すぐに否定された。

「恐らく、そうじゃない」

意外にもカルナが話に入ってきたので、レナとアリスは驚いて同時に振り向いた。

「あそこにいたのは、シルバーとか言う男の、あの技が使える場所だったからだろう……」

「そ、そうなの?」

レナはどうしても、シルバーに対してヤラシイ顔の変態というイメージが先行してしまう。しかし、確かに戦闘の際、あの男の頭は冴えていた。カルナやシルバーの様な戦闘経験に長けている者はやはり見る場所が違う。レナは自分の経験不足が少し悔しかった。レナがそんな事を考えていると、横でアリスが口を開いた。

「ええ~!?シルバーって、あの大きな変態ハゲでしょ?どんな技を使ったか知らないけど、あの変体ハゲ男に、そんな考えあるわけ無いよ!それって、絶対カルナさんの買い被りだよ」アリスが自信満々に、カルナにそう返した。

その意見にカルナは、静かに答える。

「ああ、そうかもな……」

「そうだよ、絶対」アリスは剣を抱きしめる様に腕を組み、鼻を高くした。

レナはアリスの意見を、カルナが否定しなかったのに少し驚いてしまった。アリスに合わせたのだろうか?それとも、どうでも良くなったのだろうか?しかし、そんな考えとは別にアリスの“変体ハゲ”という言葉を思い出し、レナは少し笑ってしまった。そんなレナの様子にアリスが気付く。

「あ、レナさん今、私と同じこと考えていたでしょ?」

「え?ええ、ちょっとだけね」

「フフ、そうだよね~。そう思うよね。ね?カルナさん。レナさんも、そう思うって」

「そうか……」カルナは、目を閉じながらそう返し、また黙り込む。

「ま、まぁそれは兎も角……」レナは少し強引に話題を変える。

「アリスの話だと、もう少し歩けば風蜥蜴のいる洞窟に着けるって事よね」

「え?私どれくらい寝てたの?」

「えっと、三十分位かな?」

「そんなに?それじゃあ、もうすぐだね」

「うん。洞窟の中は結構広かったの?」

「う~ん。その時はお父さんの背中で寝てたから……。あっ、でも洞窟を抜けたら、すぐグランドマインだよ」

「そう。じゃあ、何とか日暮れには着けるかしら?」

「う~ん。多分。でも、もうそんなに来ちゃったんだね」そう言って、アリスが俯く。

「ん?どうかしたの?アリス」

「ううん。結局、バードの返事来なかったのかなぁって」

「あっ、そう言えば……」

レナは、風蜥蜴との一戦で、すっかりその事を忘れてしまっていた。アリスに言われて思い出すなんて、あまりにも間抜けだった。

「もう一度バードを飛ばすわ」

「うん。ミネアさん大丈夫かなぁ?あんな人でも、知ってる人だから心配だなぁ」

このアリスの言葉に、レナは胸が痛くなった。そして、慌ててバードの魔法を唱えようとした時、突然“ゴンッ”と右側の森から何かがぶつかる鈍い音が響いた。

咄嗟にレナとカルナが、アリスを庇うように身構える。するとそこには、多分それが、木に衝突した音だったのだろう、半分潰れてしまっているが間違いなくシルバーの頭が転がっていた。レナは驚いて一瞬、体が硬直してしまった。

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